目次
シリーズ刊行にあたって
このシリーズ本を手にした方々へ
はじめに
第1章 社会的養護とは
1.社会的養護とは
2.子ども家庭福祉,社会的養護の理念
3.社会的養護体系の現状
4.社会的養護の課題
5.社会的養護の新たな理念
6.社会的養護の課題と将来像――近年の制度改革を踏まえて
7.子どもの権利擁護,子どもの養育
8.社会的養護と社会福祉法人,専門職の役割
コラム 社会的養護制度の政策評価
第2章 子どもとは/子ども家庭問題と権利擁護
1.子どもとは
2.子ども期について
3.子ども・家庭の現状
4.子どもの育ち・子育てのニーズ
5.子どもの権利擁護
6.社会的養護における権利擁護とその仕組み
コラム 社会的養護における障害児の権利擁護と施策
第3章 社会的養護の歴史的展開
1.戦前の社会的養護
2.戦後処理期から子どもの権利条約批准までの社会的養護
3.子どもの権利条約批准から児童虐待防止法施行までの社会的養護
4.児童虐待防止法施行以降の社会的養護
5.今後の課題
コラム 社会的養護に関する年表
第4章 社会的養護に関する法制度と自立支援施策
1.社会的養護に関する法制度
2.社会的養護を担う里親と施設等
3.社会的養護の隣接領域
4.社会的養護の実施体制の動向
コラム 社会的養護におけるスモールステップシステムの構築――相談・支援から補完・保護まで
第5章 養育・自立支援の基本的なあり方
1.養育・自立支援の基本
2.施設種別ごとの養育・自立支援
コラム 統計からみた社会的養護のあゆみ
第6章 養育・自立支援のための方法
1.専門職と養育者
2.基本的な社会的養護援助技術
3.養育・支援の展開
資料
1.社会的養護施設運営指針,里親及びファミリーホーム養育指針にみる社会的養護の将来像について
2.社会的養護の課題と将来像への取組─平成24年6月─
3.社会的養護の現状について(参考資料)─平成24年6月─〈一部抜粋〉
索引
前書きなど
はじめに
子どもを産まない社会,子どもを育てない社会が現実のものとなる一方,社会的養護を必要とする子どもたちの増加は著しいものがあります。この現象は,子どもの人権侵害を認識する力が養われてきたということを意味しているかもしれませんが,その解釈は変化の一面を捉えたものと言わねばならないでしょう。たとえば,家庭にも戻れない,里親や施設にも託せない子どもたちが「一時保護」という名目で長期にわたって生活の制限を受けている現状などをときに見聞きします。やや厳しい言い方をすれば,現に社会的養護を必要としている子どもたちに「あたりまえの暮らし」を保障できていないにもかかわらず,「子どもの最善の利益は守られている」とうそぶくほどの無知はないと言えます。
社会的養護は,子どもと家族のウェルビーイングを促進するべく,公的責任と社会的な連帯のもとで予防から保護に至るまで切れ目なく支援されることを必要とする,壮大な社会的システムです。このような社会的養護の本来的なあり方を正しく理解するためには,単に局所的な実践に身を委ねればよいのではなく,思想(理念),制度,方法(実践)が統合的に結びつけられ,社会的養護が機能していくことへの意識的なコミットメントが欠かせないものとなります。これがないままに,個々の細かな施設類型や援助局面ごとの実践などに分断したりしたら,とたんに社会的養護は空中分解を起こし,ビジョンなき消耗的な散発的実践へと転落していってしまうでしょう。そして,そのあおりを受けるのは,紛れもなく子どもと家族であると言えます。
このような認識に呼応するかのように,近年の社会的養護改革は,その共通基盤を大きく組み換えると言ってよいほどドラスティックで,かつ,急スピードで進められています。たとえば,里親委託優先の原則のように,子どもが育つ場として家庭ないし家庭的空間が望ましいとする基本的考え方を打ち出し,社会的養護を担う施設を重装備化する一方で,家庭養護・家庭的養護の促進をめざす制度改革が進められています。実践面では,施設運営指針及び里親等養育指針が発表され,自己評価や第三者評価の定着が期待される一方,施設長資格の明定や研修の義務化など,施設等における専門性のボトムアップが図られています。今後は,これらの制度改革と,方法(実践)との融合が求められる状況にあります。
本シリーズの中でも,第1巻は,社会的養護の思想(理念),制度,方法(実践)を切り離すことなく,歴史的な連続性あるいは断絶を踏まえて総論的に整理し,社会的養護がいかなるものであるかを叙述することを目的としています。実践現場の実務家を主たる対象として最新の動向を踏まえた記述を心がけており,社会的養護の基礎知識のブラッシュアップができるものと確信しています。総論ゆえ,他巻に比べるとやや抽象度が高くなることはやむをえませんが,ぜひ読み進めていただければ幸甚です。
2012年10月 柏女霊峰・澁谷昌史