目次
第三巻 イスラームの慧眼(3)
第一部 守護と統治
第一講 守護と聖なる統治
第二講 イスラーム的統治者の特性とヴェラーヤトの行使
第三講 イスラーム統治における人民
第四講 イラン・イスラーム共和国定礎者[ホメイニー師]の思想を知る
第二部 死後の生活
第五講 人間と来世
第六講 クルアーンから見た来世
第七講 魂あるいは非物質的な側面
第八講 バルザフ界[現世と来世の間]における生活
第九講 最後の審判(復活)
第十講 行為の計量
第十一講 来世での賞罰
第十二講 人類という隊商の路程(あるいは目的地)
第三部 道徳
第十三講 罪が人間の生活に及ぼす作用
第十四講 男女関係の境界を守ること
第四部 イスラーム諸法令(アフカーム)
第十五講 社会秩序
第四巻 イスラームの慧眼(4)
第一部 人間認識
第一講 人間を知ること
第二講 人間の天性(ferat)
第三講 人間と自由意志
第四講 人間と運命
第五講 人間の宿命における精神的要素の役割
第六講 生きる目的
第七講 人間と世界の創造目的
第八講 イスラームの道徳秩序
第九講 改悛、神への回帰
第十講 人間の生活における神の慣行
第十一講 社会における人間
第二部 イスラームにおける家庭の基礎
第十二講 イスラームにおける家庭の諸権利
第十三講 配偶者を選ぶ基準
第十四講 好ましき家庭秩序
訳者あとがき
索引
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『イランのシーア派イスラーム学教科書』
第一巻 イスラームの慧眼(1)
第一部 神学「神の存在を信じること」
第二部 ふるまいと道徳
第三部 イスラーム法諸令
第二巻 イスラームの慧眼(2)
第一部 預言者
第二部 イマーム
第三部 イスラーム諸法令
前書きなど
訳者あとがき
イランの国教である十二イマーム・シーア派イスラームの教えを説く高校教科書「イスラームの慧眼」のうち、一年生、二年生分にあたる翻訳『イランのシーア派イスラーム学教科書』を2008年に出してから幾分かの歳月が過ぎた。この間、拙訳を携えて企画編纂元である教科書編纂企画局をイランで訪ねることがあった。訳出の対象となった教科書を執筆編纂された人たちはその時すでに転出されており、お会いできたのはその後任者たちであった。僅か2、3人の人が詰める一部屋ほどの事務所において,テヘラン大学神学部出身という後任の若手職員からその時に伺ったことで強く印象に残ったことが二つほどある。
その一つは、ここに示されている見解が永年のシーア派の教えの展開を踏まえた現在の最大公約数的見解であること、しかしながら、この見解以外の見解を否定し排除する性格のものではないと述べたことである。
もう一つは、革命からまだ間がない時期で、人々や若い世代に前体制(パフラヴィー朝)の脱イスラーム的・世俗主義的で自由主義的、あるいはそれに対抗する社会主義やマルクス主義の影響が強く見られていた時代にあって、そうした人たちを念頭に置き、シーア派イスラームの教義を説く必要性に迫られ編まれたのがこれらの教科書であるという点である。
振り返れば1979年のイラン革命の直前、イラン南西部ペルシア湾岸域でのとあるプロジェクトに従事していた筆者の助手をしていた現地の青年は、革命前夜のデモが次第に激化する中で、あるいはその町の秘密警察SAVAKの責任者が国外脱出を試みて人々に阻止され捕らえられたなどという話が伝えられる緊迫した状況下で、それまでのパフラヴィー朝のもとでタブーだったマルクス主義の書物や関連テーマについて職場の日本人相手に話題に恐々ながらしようとしたのを思い出す。
このような往時の流動的な状況下で、イデオロギーや信条の違いを超え万人の理性に訴えてシーア派イスラームの教えを説くという使命と特徴をこれらの教科書は強く持っていたこと、またそれゆえに、日本の人たちにとっても、これらの教科書はわかりやすいのではないかと、教科書編纂企画局の職員は言っていた。
同時に彼は、歳月を経た現在、すでにそうした役割を教科書に求める時期は過ぎ去り、今日の教科書の内容は模様替えをしているとも述べていた(一説によれば2001年に版替え。但し、2003年時点はなお当該教科書を使用)。このように現在すでに使われなくなった教科書であるとは言え、信条やイデオロギーの違いを超えた万人向けの教義解説というその特徴ゆえに、日本における訳出にはそれなりの意義があると考える(もっとも、万人の理性に訴えるという点で必ずしも肯んじ得ず、首をかしげたくなった箇所も個人的にはいくつかあったが……)。
既刊の第一年度ならびに第二年度の教科書では、シーア派イスラームの基本的信仰箇条五信(1.唯一神、2.預言、3.来世、4.正義、5.イマーム)のうち、「唯一神」、「預言」、「イマーム」について論じられていた。今回ここに訳出した第三年度では、それらのうち「来世」について論じている。また、第四年度(大学予備科)分では、すでに学んだことと重複する箇所もあるが、それは単なる反復ではなく、その線上で新たなる展開を説いており、また、「運命」や「神の慣行」などの考えについて、その世界観や人生観とともに、シーア派イスラームの教えの輪郭を簡潔かつ総論的に解き明かしている。そこには宿命ではなく「自由意志」の重要性を強調する、あるいは原子論的宇宙観ではなく新プラトン主義的な流出論的宇宙観や因果律の容認など、スンナ派の古典的神学(アシュアリー神学)との対比を促すシーア派イスラーム思想の特徴を見ることができ興味深い。
(…後略…)