目次
序文 いまこそ
第1章 国は何を語ってきたか
1 エネルギーの独立性とは?
2 原子力はそれほど安上がりなエネルギーか?
3 温室効果ガス排出の削減――フランスは原子力のおかげで優等生になれたか?
4 原子力はうまみのある市場なのか?
第2章 なぜ脱原発なのか?
1 原子炉について知っておこう
2 なぜ事故は起きるのか?
3 深刻な事故――確率から現実へ
4 深刻な事故はフランスでも……
5 安全性への脅威――MOX燃料
6 核廃棄物――果たしてきれいに片づけられた問題なのか?
7 核兵器拡散のリスク
第3章 エネルギー転換へと向かう世界
1 世界のエネルギー
2 狭まる制約の輪
3 不可能な未来
4 新たなエネルギーのパラダイム
5 再生可能エネルギーの開発
6 エネルギーの新たな担い手
7 行動へ
第4章 エネルギーのシナリオ
1 エネルギー予測の歴史
2 対照的な二つのシナリオ
3 再生可能エネルギーのダイナミズム
第5章 20年で脱原発を実現するために
1 フランスに他の選択肢はないのか?
2 ドイツ式脱原発のシナリオ
3 脱原発のコスト
結論 これ以上待つのはやめよう!
1 思いこみから理性へ
2 野心的な節電プログラム
3 再生可能エネルギーとスマートグリッド
4 原子力からの撤退作戦を成功させるために
5 エネルギー転換をともに実現しよう
巻末資料1:フランスの電力収支
巻末資料2:フランスの原子力発電所と工場
巻末資料3:放射能とその影響
註――参考文献関連
訳者あとがき
前書きなど
序文 いまこそ
2011年6月6日、ドイツ政府は2022年までに脱原発を実現する決定を正式に承認した。この決定のもととなる答申をおこなった政府諮問委員会の共同座長マティアス・クライナーはこう述べている。「フクシマは、高い技術力を有する国でもこのような災厄に対処することができないことを深刻な形で示した。原子力エネルギーはわれわれにとっても、またわれわれの子孫にとってもあまりに多くのリスクを抱えた技術なのだ」(AP通信2011年6月6日)。イタリアは6月13日の国民投票で、圧倒的多数をもって原子力発電への後戻りを否定し、スイスは脱原発を決定した。
知識層の多くと政府とが躍起になって無視しようとしても、今後フランスがこの議論を避けつづけることは不可能であろう。アメリカを含む大多数の先進諸国でおこなわれている脱原発をめぐる議論は、比較的新しい現象ではあるが、産業界そのものをも巻きこみつつある。たとえば、アメリカの主要電力事業者であるエナジー・グループの会長トーマス・オマリーは、大規模な原子力発電所プロジェクトを断念するにいたった理由を金がかかりすぎるためと説明し、原子力発電産業は「終わった」と明言している。
フランス政府は、この問題に関する市民レベルでの本格的な議論の必要性を否定し、来るべき戦略上の変化を直視しようとせず、尊大で時代遅れな姿勢のままに、国民を危うい孤立へと追いやろうとしている。その先に待ち受けるものは、深く長い反動のリスクである。
フランスが大規模な原子力発電の最強の砦であり、最後の無条件の支持国でもあることは周知の事実である。この状況は、多様で補完的なエネルギー源とその組み合わせ技術に基づく電力システムを支持する多くの電気事業者や経済学者の目には奇異な現象として映るにちがいない。たかが「水を沸騰させる」ための技術をフランスの偉大さのシンボルにするということ自体が、外国の多くのウォッチャーを唖然とさせ、なぜそんなことになったのか、彼らは理解に苦しむにちがいない。
(…中略…)
フクシマの悲劇によって当然すぎるくらいの問題提起がなされている今日、それを否定したり、警告を無視して無鉄砲なくわだてに走ることはもはや許されない。
本書の執筆にあたり、人類の進歩が遭遇するエネルギーや気候に関する重大な諸問題、さらには地球上のすべての国々、とりわけ貧しい国に不平等をもたらす先進技術のリスクの問題等を視野に入れながら、長年にわたっておこなってきた原子力問題への批判的な分析と知見をもとに論考を進めてゆく。
第1章「国は何を語ってきたか?」では、「オール原子力」政策を正当化するためにごく普通に使われてきたまことしやかな言説や、誤った、または誇張された主張を検証する。エネルギーの独立、気候変動、原子力発電のコスト、輸出産業などについて検討する。
第2章「なぜ脱原発なのか?」では、原子力と訣別しなければならない理由を一つひとつ明らかにしてゆく。これはそのままドイツ政府が2000年の決定以降展開してきた主張に重なるものである。すなわち、重大事故のリスク、放射性廃棄物の処理、そして核兵器の拡散の問題をめぐる議論である。
第3章「エネルギー転換へと向かう世界」では、石油を筆頭とするエネルギー資源のストックにもっぱら頼っている燃料調達は地球規模での限界を迎えつつあり、これを現状のまま進めることは自殺行為に等しいことを示そうと思う。原子力問題に固有の懸念は別にしても、われわれの未来は抑制と効率性、そして再生可能エネルギーにかかっているのである。
第4章「エネルギーのシナリオ」では、比較的古いもの(1970年代)も含めてエネルギーの未来を展望する多くのシナリオを通して、エネルギー転換が必要だとすれば、それは可能であるばかりではなく、より平等でより環境に調和し、最終的にはより経済的で平等と平和に通じる道であることを示したい。ここではまた、ごく最近のシナリオでは原子力はきわめてわずかな役割しか期待されていないことを理解してもらえるだろう。
最後の第5章「20年で脱原発を実現するために」では、フランスが20年ほどのあいだに脱原発を実現するための主要な要件を示す。とりわけわが国で浪費されている電力の大幅な節減計画、再生可能エネルギーの持続的な開発、そして原子力発電所と原子力工場の段階的かつ恒久的停止を同時進行させることが求められる。このエネルギー転換に必要とされるコストの評価によれば、原子力推進派の主張とは裏腹に、20年以内のエネルギー転換と脱原発のシナリオに基づく経済的、社会的な収支は大幅なプラスの成果をあげることが示される。特にエネルギーの不安定性との闘いと雇用に関して、その成果はいちじるしい。
結論「これ以上待つのはやめよう!」では、原子力に固執する現在の政策を検証し、20年で脱原発を成功させるためにつぎのような条件を提示する。
・節電およびエネルギーの不安定性との闘いのための意欲的なプログラム。
・再生可能電力の早急な開発と次世代送電網スマートグリッドの全国的展開。
・原子力発電所の段階的かつ永久停止、プルトニウムの生産および放射性物質の深層地下処分の即時停止などによる、原子力からの確実な「撤退」を図る。同時に、稼働中の発電所や施設の管理に真剣に取り組み、かつ適切な労働条件を守る組織づくり、さらに、原子力施設の解体産業部門の育成。
・エネルギー転換をともに実現するための国際的な協力政策。