目次
はじめに
第1章 調査の発端と意義
1.調査の発端
2.全戸家庭訪問の目的
3.全戸家庭訪問の意義
第2章 大槌町の概要
第1節 被災前の大槌町の状況
第2節 被災後の大槌町の状況
第3章 調査の準備から報告会まで
1.全戸家庭訪問調査の準備
2.参加者の募集
3.参加者の事前準備 調査の手引きの送付
4.本調査(全戸家庭訪問)
5.事後処理
第4章 全戸家庭訪問で行った調査の結果
第1節 人口移動
1.地震・津波が大槌町の人口にもたらした影響――大槌町2011年5月8日時点の人口ピラミッド
2.大槌町内の人々の津波被害による住む場所の変化――元住所と現在の住所との比較から
第2節 全戸家庭訪問による調査の分析からわかったこと
1.町民の健康課題――地震・津波の影響と元からあった課題
第3節 家庭訪問で見出された、早急に対応が必要な者・支援の必要がある者の概況
1.方法
2.結果
3.まとめ
第4節 大槌町民の復興への思い――フォーカスグループインタビュー
1.インタビューの方法
2.インタビューの結果
3.まとめ
第5章 大槌町から学んだこと、復興への提言
第1節 医療・福祉・保健の被災状況と提言
1.被災前後の医療資源の状況
2.被災前後の福祉資源の状況
3.被災前後の保健資源の状況
4.大槌町の医療・福祉・保健資源に関わる課題
第2節 生業の重要性と復興への提言 就業に関して
第3節 大槌町の仮設住宅の現状と課題
1.日々の生活の積み重ねが復興後のまちをつくる
2.生活の基礎としての住環境――仮設住宅の問題点
3.コミュニティケア型仮設住宅
4.大槌町の仮設住宅地の難しさ
5.住環境の抱える具体の課題と後付アップグレード
6.仮設住宅から復興住宅へ
第4節 教育の重要性と復興への提言
1.失われた教育の場
2.新たな教育ビジョンの萌芽
3.今後の教育に生かすべきこと
第5節 母子保健
1.全戸家庭訪問で見出された問題
2.これからの課題と対策1
第6節 成人保健
1.生活習慣病のリスク
2.慢性疾患悪化のリスク
3.震災によって生じた心理社会的問題
4.今後必要となる支援
5.医療・保健・福祉体制の整備
第7節 高齢者保健
1.震災前から病気をもっていた人の生活に生じた変化
2.ふつうの生活に津波が与えた変化と新たな健康問題
3.復旧と復興の高齢者保健に向けて
第8節 精神保健
1.大槌町における精神保健ニーズの把握
2.大槌町における震災後の精神保健の課題
3.大槌町における精神保健対策
4.災害支援における保健師の役割
第9節 総括:保健師活動の戦略として重要なこと――町の復興に向けてのステップ
1.町民が元気になる保健医療福祉活動を!
2.町民が戻り、新たな人を連れてくる町づくり
3.大槌町民同士の生き抜く力をひとつに!
第6章 保健師活動に向けた提言
第1節 保健師活動の基盤となる家庭訪問――50日目に行う重要性
1.大槌町での家庭訪問への参加
2.大槌町での全戸家庭訪問からの学び
3.まとめ
第2節 全戸訪問調査ボランティア保健師の学び
全国から集まった参加者の声
第3節 大規模災害(津波)に必要な保健師の教育・訓練と派遣方策
1.東日本大震災の災害としての特徴と保健師として必要なこと
2.保健師教育で必要な健康危機管理の内容
3.現任教育として
4.保健師の派遣について気づいたこと
5.今後、取り組むべき課題
第7章 全戸家庭訪問におけるマネジメント
第1節 概要
1.基本はセルフマネジメント
2.見える化の組織マネジメント
3.調査本部の設営と事前準備
4.調査時のマネジメント
5.交流・講演会の企画――参加者の学びを深め、町民や役場職員も学べるような工夫
第2節 衣食住
1.食生活について
2.住生活について
3.衣生活について
第3節 1日のスケジュール(平成23年4月30日(土)の1日)
大槌町 保健師による全戸家庭訪問調査(平成23年4月22日~5月8日)日報のまとめ
寄付者
全戸家庭訪問 参加者名簿
大槌町保健師全戸家庭訪問調査関連 報道記事一覧
編集後記
前書きなど
はじめに(村嶋幸代)
あの震災から、早1年になろうとしています。
2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災は、巨大津波と火災を伴い、多くの人々の貴重な命や生活の糧を奪ってしまいました。亡くなられた方々に深い哀悼の念を捧げるとともに、ご家族やご親族、友人を亡くされた方々に心からお悔やみを申し上げます。
本書は、この震災によって甚大な被害を受けた岩手県大槌町で、震災後1カ月半の時点で、全国から集まった保健師たちによる全戸家庭訪問の記録です。
大槌町は、岩手県南部、三陸海岸に面した、人口16,058人、世帯数6,408世帯(平成23年2月28日現在)の町です。東日本大震災で、巨大津波、引き続いて火事に襲われ、人口の1割以上を失ってしまいました。特に、町役場まで津波が押し寄せ、町長はじめ役場職員が多数亡くなったばかりか、基本的な帳簿類が失われてしまい、行政機能も麻痺してしまいました。
「このままでは住民の健康状態が悪化してしまう!」「自殺が心配」「健康管理台帳を復活させる必要がある」と考えたのが、この町の元保健師、鈴木るり子さんです。鈴木さんは、28年間大槌町で保健師として勤めていました。今回の震災でも、大槌町の本宅と親戚を亡くしています。彼女は、全戸訪問をしながら、生存者の健康問題を把握したいと考えました。震災の経験や健康問題、困り事等について話を聞き取りながら住民のケアを行い、そこから、次の支援を行う手掛かりを得たいと思ったのです。
大槌町の保健師さんたちからも、「自分たちは、今は、やりたくても家庭訪問できないので、手を貸していただけるとありがたい」という希望が述べられ、また、町からも全面的に協力が得られることになり、実施に踏み切りました。
訪問調査の呼びかけは、一般社団法人全国保健師教育機関協議会、NPO法人公衆衛生看護研究所、全国保健師活動研究会を通して行いました。その結果、全国から137人の保健師たち(現職と保健師教育機関の教員、医師や言語療法士等)が血圧計を持って参加してくださいました。
農家の作業小屋に寝袋で泊まり、「保健師」と印字された黄色いベストを着用して、地図を片手に住民基本台帳のデータを貼った健康調査票を持って訪問しました。住民の安否確認をし、血圧を測り、震災後の生活や健康状態についてお話をうかがい、ご質問も受けました。ご相談に、すぐに答えられる場合には回答し、わからない場合は調べてお答えしました。宿舎では、住民から出された質問や重要な情報を朝晩のミーティングで共有し、必要な場合には印刷物にして配布しました。現実の重さに暗くなりがちな心を、参加者同士で支えあいました。延べ555人の保健師の訪問活動の中で見えてきたのは、震災によるダメージと、以前からあった町の健康課題、予防活動の大切さ、そして、大槌町を愛し、この町で生きていこうとする人々の存在でした。
平成23年4月22日(金)~平成23年5月8日(日)の調査期間中に、3,728件の家庭訪問、5,082件の相談を行いました。そこで発見された「支援が必要な人」282人(うち、2週間以内に支援が必要な53人〈1.0%〉、3カ月以内に必要な229人〈4.5%〉)については、すぐに町の保健師につなげ、フォローをお願いしました。この訪問調査で、大槌町民の86.8%の安否を把握・確認できました。そこで得られたことを基に、提言を含む報告書『岩手県大槌町民の健康状況把握のための訪問調査に基づく提言(第一報)』を、5月7日に大槌町副町長(大槌町長職務代行者)に手渡しました。
その後、調査結果である健康調査票は、調査票の設計をした岡山大学岡本玲子教授が、改めて大槌町の依頼を受け、大学の倫理委員会の承認を得て、平成23年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)を受けて「地震による津波で被災した一人暮らし高齢者・高齢者世帯の生活再構築のための支援過程の構造化」事業として情報の整理と分析を行いました。その結果の一部は本書にも掲載されています。また、すべての健康調査票や分析可能にした情報をパーソナル・コンピュータに入れ、そのコンピュータを報告書(第二報)と一緒に、9月6日に大槌町にご返却・寄贈いたしました。町職員の方々には、説明会も行いました。
大槌町では、8月下旬の選挙で、碇川豊新町長が選ばれました。また、仮設住宅では、入居者による自治会もできてきました。これからは、復興に向けて弾みがつくと期待されます。調査に参加した全国の保健師たちからは、「今後も、長く大槌町に関わって、見守っていきたい」という希望が述べられています。町の方々や、大槌町に関心を持たれる多くの方々と一緒に、これからも大槌町に関わっていきたいと考えています。
最後になりましたが、本調査は、参加したボランティア保健師だけでなく、快く受け入れてくださった大槌町の方々、また、多くの人々に支えられて遂行できました。心から感謝申し上げます。