目次
研究誌『開発教育』の発行について――「深まり」と「広がり」を求めて
特集 オルタナティブな教育と開発教育
特集にあたって――その問題関心と掲載論文の概略
〈総論〉
開発教育とオルタナティブ教育――これからの開発教育のあり様を探る(山西優二)
〈理論編〉
オールタナティブということ――私たちの「今」と向き合うために(里見実)
総合的な学習の時間が持つオルタナティブな教育としての4つの特質(奈須正裕)
〈ポスト3.11〉に期されるオルタナティブ教育のミッション――方向性・技能・文脈へ(永田佳之)
〈実践編/学校〉
授業づくり学校づくりの経験から――「弾む教師」を育てる(千葉保)
〈実践編/地域〉
地域社会の再生や地域づくりに向き合う開発教育――開発教育実践者の「関わりのあり方」と生み出される「学び」(椿原恵)
市民の学びとオルタナティブな社会づくり――さっぽろ自由学校「遊」の経験から(小泉雅弘)
〈実践編/NGO〉
「南北コリアと日本のともだち展」の経験から(寺西澄子)
NGOの組織開発のためのオルタナティブな学び――ポジティブ・アプローチからの参加型学習への示唆(三宅隆史)
実践事例報告
〈学校〉
体験的学習活動で子どもの意欲・態度の変容を試みる――ストリート・チルドレン宿泊体験等を通して(原郁雄)
〈地域〉
地域課題を解決する子どもの参画――中山間地における地域・学校・行政による「開発教育」の新たな取り組み(肥田進)
〈NGO〉
学びを社会を変える力にする――「おいしいチョコレートの真実」ワークショップの実践から学んだ開発教育の可能性(白木朋子)
投稿論文
ESDの考え方を生かした総合的な学習の時間の単元開発――「つながり意識」を育成する「世界の12歳は、今」の授業実践(小玉敏也)
1950年代の国際理解教育とアジア・アフリカ問題――「開発教育」の前史として(小瑶史朗)
研究会報告
開発教育・ESDにおける国際交流の成果と課題――アジアのNGO関係者との交流事業をふりかえって(田中治彦)
カマル・フヤルさんから学んだこと――PRA事始め(岩崎裕保)
参加型学習を通じた日・タイ研究交流事業(田中治彦/上條直美)
図書紹介
『開発教育で実践するESDカリキュラム――地域を掘り下げ、世界とつながる学びのデザイン』(阿久澤麻理子)
『グローバル時代の国際理解教育――理論と実践をつなぐ』(西岡尚也)
『若者のためのESD――「私」から広がる世界』(岩本泰)
『写真で学ぼう! 「地球の食卓」学習プラン10』(磯田厚子)
2011年度の開発教育協会の活動
機関誌『開発教育』59号への投稿募集
編集後記
『開発教育』誌バックナンバー
開発教育協会(DEAR)の紹介
執筆者略歴
前書きなど
特集にあたって――その問題関心と掲載論文の概略
本誌前号では、今日のグローバル市場経済の矛盾や限界を乗り越えていこうとする「オルタナティブな経済」を特集のキーワードに掲げ、開発教育との関連を論考し、各分野の実践から多くを学びました。その学びを引き継ぎながら、今号では「オルタナティブな教育」へと論考を展開させていくこととしました。
オルタナティブな経済は、オルタナティブな社会と無関係ではないはずです。そうした社会の変革やその取り組みに対して、既存の学校教育や社会教育、そして地域活動や市民活動での学びは、どのように応答し連動していくことができるでしょうか。それができなければ既存の教育や活動に代わる新たなオルタナティブを求めていかざるをえません。そのオルタナティブとはどのようなものでしょうか。その時、開発教育はどのような役割を果たすことができるのでしょうか。このような問題関心から、本誌第58号では、「オルタナティブな教育と開発教育」をテーマとする特集を企画することとなりました。
今回の特集は、総論を含めた理論編4本と実践編5本の計9本の論文で構成されます。その「理論編」では、まず卷頭の山西論文がオルタナティブ教育の持つ特質を、教育実践、教育制度、教育パラダイムの3つの側面から整理。その上で、開発教育の実践、制度、パラダイムを比較検討しながら、開発教育の今後のあり様を提起しています。続く里見論文は、従来の教育によって提供される知識や事実が、学習者にとって「意味をなすもの」として立ち現れてこない実態を指摘。フレイレの「意識化」理論などを参照しながら、テキストや社会を読み、そこに意味を再構成していく主体としての学習者が存在するようになることが「教育のオルタナティブ」であると論じます。奈須論文は、学習指導要領の改訂に伴う「総合的学習の時間」に関する記述の変化に着目して、そこにオルタナティブな教育の特質を看取するとともに、開発教育が持つ学習論や学力論との共通性を指摘します。理論編最後の永田論文は、従来のオルタナティブ教育を伝統的な近代化型学校教育と比較しながら、その特性や役割を整理。オルタナティブ教育がそのミッションを果たすためには運動体として脆弱であることを指摘し、従来のオルタナティブ教育を補完する上で、持続可能な開発のための教育(ESD)が持つ機能とその可能性を論じます。
「実践編」では、学校教育、地域活動、そしてNGO活動の現場の経験や視点から、オルタナティブな教育のあり方や開発教育の課題が論じられます。まず、学校教育の立場からは千葉論文が、公立小学校における長年の授業づくりや学校づくりの経験を踏まえ、知識伝達中心の東アジア型教育の枠組みから脱皮する「弾む教師」を育てていくことの必要性を論じます。続いて、地域活動の立場からは椿原論文が、地域における国際協力活動などへの住民参加のプロセスを事例に、当事者の「関わり方」とそれが生み出す「学び」の特徴を分析。地域再生や地域づくりに向き合う開発教育のあり方を考察しています。また、小泉論文は、札幌を拠点に活動を続ける自由学校「遊」の取り組みを事例に、「北海道の地域性」と「アイヌ民族との共生」を強く意識したESDとしてのアイヌ民族学習を分析しながら、オルタナティブな社会づくりに求められる市民の主体的な学びの重要性を論じています。
最後の2本の論文は、NGO活動の立場からオルタナティブな教育を論じています。寺西論文は、日本・韓国・北朝鮮での共同絵画展の実践経験をもとに、これら三ヵ国の間に横たわる過去の歴史の形成に教育が少なからず加担してきたことを指摘。北東アジア地域における今後の平和実現に向けた教育のあり方や開発教育の課題を投げかけています。続く三宅論文では、設立以来30周年を迎えた自らの所属するNGOの組織開発の取り組みを事例に、従来の問題可決型アプローチに代わるポジティブ・アプローチを重視したワークショップ実践を紹介。NGOの組織開発に向けたオルタナティブな学びを提示するとともに、実践から導き出された教訓や参加型学習に対する示唆を提示しています。
国内外に山積する問題の中でも教育問題は重大です。日本の昨今の“教育改革”政策も現状の教育に危機感を持ち、また別のオルタナティブを訴求しているようです。世界に目を転じれば、2015年までに世界中のすべての子どもの初等教育修了を掲げる国連ミレニアム開発目標は達成可能なのでしょうか。貧困や格差、排除や暴力の連鎖から逃れようとする多くの子どもたちや大人たちにとっての「オルタナティブな教育」についても考えていかなければなりません。
他方、いくら困難な時代にあっても、その困難を克服するために、教育は絶えずオルタナティブを模索し提示してきたこともまた事実です。国内外で連綿と続けられてきたそうした実践や研究に開発教育も学びながら、「オルタナティブな教育」を、そして開発教育自身の新たなオルタナティブを提示していきたいと思います。本特集がそうした議論の参考や材料になることを期待します。