目次
はじめに
第1章 アスペルガー症候群と自閉症の特性:パワーカード法の使用根拠
・DSM-IV-TR(2000):アスペルガー障害の診断基準
・自閉症の診断基準
知能指数(IQ)
・機械的記憶〔丸暗記能力〕
・心の理論
・問題解決
言葉/言語
・語用論〔言語運用〕――社交言語
・抽象概念
・使う語句の選択
視覚情報処理
ソーシャル・スキル
・人と交わるときの問題
・対人関係についての機会利用型学習
行動
・注意散漫と不注意
・堅苦しさ
暗黙のルールを理解することができない
・暗黙のルールの例(トイレ/学校)
・特別な興味
意欲〔動機づけ〕
般化
第2章 パワーカードの作成と使用方法
パワーカード法の構成要素
パワーカード法が使える場面
パワーカード法を使うときのステップ
パワーカード法は家庭でも使うことができますか?
まとめ
第3章 学業成績の向上に、パワーカード法と特別な興味を利用する
第4章 パワーカード法の実例
第5章 教室でのパワーカード法の使用結果
参考文献
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
本書は、Elisa GagnonによるPower Cards: Using special interests to motivate children and youth with Asperger syndrome and autismを訳出したものです。原書は2001年にAutism Asperger Publishing Co.から刊行されていますが、パワーカード法はまだ我が国ではあまり知られてはいません。北海道教育大学旭川校の萩原拓先生が紹介されているようですが、パワーカード法を話題に上しておられる方は、今のところおそらく萩原先生だけではないでしょうか。そして萩原先生には、著者名の発音がアイリーサ・ギャニオンであることを教えていただき、あつかましくも本書中のパワーカードの実例の作者名の発音もいくつか教えていただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
さて、アスペルガー症候群や自閉症など自閉症スペクトラムの子ども(大人も)には、視覚的支援が欠かせないことは言を俟たないことでしょう。それは、聴覚的情報処理よりも視覚的情報処理の方が良好であるという特性を持つ者が多いからです。
パワーカード法も、自閉症スペクトラムの子どもへの視覚的支援の具体的な手段の一つです。しかし、他の視覚的支援手段とは異なるユニークな特徴は、子どもの興味の対象、特に子どもの憧れの対象や子どもにとってのヒーロー(あるいはヒロイン?)を利用するという点です。
パワーカード法は、シナリオとカードとの2つの要素から構成されます。シナリオは、その子どものヒーローや特別な興味の対象と、その子どもにとって難しい行動や状況を素材にして書きます。そしてヒーローが問題をどう解決するかを説明し、その解決策をあなたにも勧めているという内容で書きます。シナリオの部分は、キャロル・グレイのソーシャル・ストーリー的なものになります。カードは、名刺程度の大きさの紙に、ヒーローや特別な興味の対象の小さな画像を加え、問題の解決策を箇条書きにします。このカードは財布やポケットに入れて持ち歩くこともできますし、マジックテープで本やノートやロッカーの内側、あるいは、子どもの机上の端に置くこともできます。問題の解決や予防のための適切な行動を思い出す手がかり(リマインダー)にするのです。
パワーカードといえども、決して万能ではありません。これを使うことが適切な場合と適切ではない場合については、本文をお読みください。
(…後略…)