目次
監訳者まえがき――本書の意義
はじめに
第1章 里親は何をするのでしょうか?
第2章 子どもとは誰でしょうか?
第3章 協働すること
第4章 安全な養育
第5章 行動を理解すること
第6章 旅立ち
付録
1.語彙の説明
2.英国国家基準(The UK National Standards)
3.参考文献・資料
監訳者あとがき――本書翻訳の経緯
前書きなど
監訳者まえがき――本書の意義(谷口純世:愛知淑徳大学)
イギリスの里親養育ネットワークは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4地域で展開されています。本書は、里親になる人のためのワークブックとして、この里親養育ネットワークがまとめた、下記の著書を訳したものです。
The Fostering Network (2003), The Skills to Foster : A Foundation for Quality Care.
本書の特徴は、里親が自分たち自身について、子どもについて、そして里親として行う養育そのものについて、里親養育を取り巻く人々やサービスについてなど、里親の家族員それぞれが、あるいは皆で一緒に、考えながら学ぶことができるということです。考えながら学ぶなかで、里親は子どもの実親となって子どもを育てる立場ではなく、専門的な能力をもって子どもとともに生活し支援する立場なのだということがわかってきます。里親は社会的養護を担う立場であり、だからこそ里親養育には知識も技術も必要であるため、そのために自分たちに必要な能力とは何だろうか、どういった子どもたちを受け入れることになるのか、子どもにはどのような支援が必要なのか、また、自分たちをサポートしてくれるのはどういった人々や機関だろうかなど、細部にわたって里親として知りたいこと、知っておく必要のあることが1冊のなかに網羅されているのです。なかには、子どもの抱いている気持ちや、子どもそれぞれの特長など、考えようとしてもわかりにくいこともあるでしょう。けれども本書には要所に事例があり、わかりやすいように工夫がされています。
第1章では、里親養育が必要な背景、里親養育にかかわる専門職、そしてチームワーク、里親としての能力や里親養育が自身や自身の家族に与える影響、子どもの環境づくり、個々の子どもの尊重など、里親養育の全体像が簡単にわかるようになっています。
第2章では、里親養育を受ける子どもについて、分離による影響、ヘリテージ尊重の大切さ、差別や先入観、大切にしている人やことの継続、子どもの意見の尊重など、子どもを受け入れ、ともに生活し、支えるために不可欠な事柄が詳細に書かれています。
第3章では、子どもの実親や専門職と協働することの大切さが書かれています。里親養育は、里親が抱え込まずに専門家と協働すること、また、実親と協働する役割が里親にはあることがわかります。
第4章では、子どもを守るという点だけではなく、里親自身が自分たちを守ることについて書かれています。危険な状況について具体的に書かれており、それを予防することについて考えさせられます。
第5章では、子どもの言動を理解するために、子どもの発達、愛着、そして子ども自身のレジエンスについて書かれています。また、子どもの行動に制限をかけるべきことについても具体的にわかります。
最終章である第6章では、里親家庭から子どもが去るときのことについて書かれています。里親の支援は、家庭復帰や他の里親への委託、養子縁組、宿泊施設への入所、そして独立自活など、子どもが次の生活へ旅立つときも非常に重要です。子どもとともに何を行うのか、子どもがどのような気持ちでいるのかなどのほか、急に委託が終了する場合の気持ちなどについてがわかります。
本書は、里親養育の重要性とともに、その養育の難しさについての深い認識に基づいて、里親は専門知識や技術をもって里子を支援していく存在であり、里親は専門職や可能であれば実親と連携して支援を展開していく存在であるという強い一貫した意識を持って書かれています。一方の日本では、里親養育の大きな可能性があるにもかかわらず、なかなか普及しないという状況が続いています。里親が専門的知識や技術などを高める自己研鑽の機会が不足していること、このために子どもと日々向き合うなかで子どもの多種多様な困った言動に疲れきってしまうこと、自己研鑽しようにもサポートがないために時間的余裕が不足していること、このために社会的養護をともに担っている存在なのだという意識が社会全体を通して薄いこと、児童相談所や児童福祉施設などからの十分なサポートが得られにくいこと(機関や施設も人的・時間的不足が著しい状態であるため)、そして里親への経済的支援も不足していることなど、日本の里親を取り巻く現状は厳しいものとなっています。このような状況のなか、日々子どもとの生活を通した支援を展開し続けていらっしゃる里親の皆さまに、そして里親に関心を持っていらっしゃる皆さまに、里親がすばらしい役割を持っておられ、その生活を通した支援には無限の可能性があるのだということを改めてお伝えしたく、本書ができあがりました。少しずつ少しずつ、里親養育をめぐる環境を、里親にとっても里子にとっても、より居心地よく変えていくことができますように。
最後に、本書の出版まで迅速かつ丁寧に、そして根気よくご対応くださった明石書店編集部伊得陽子さんに心からの感謝の気持ちをお伝えします。