目次
はじめに
I 自然
第1章 人はどこに住む?――ラオス人の居住空間
第2章 居住地の高度による民族分類――民族分布、分類の方法、分布状況
第3章 モン(Mon)・クメール系民族――暮らしと文化、その変容
【コラム1】モン族(Hmong)の生活と文化
第4章 森の国ラオス――暮らしを支える雨緑林の恵み
第5章 季節の移ろい――水環境の変化から
第6章 母なる河、メコン――開発の時代を迎えた生活の河
II 生活と生業
第7章 ラオス人と「タマサート」――暮らしをとらえるキーワード
第8章 村の成り立ち――移住と稲作
第9章 焼畑民の暮らし――複合的な生業形態とその変化
第10章 タケは万能の材料――ラオスの暮らしとタケの利用
【コラム2】ラオスの森で起きていること
第11章 水田農民の暮らし――稲作・漁撈と乾季の活動
第12章 水田って何!?――多様な水田と、米だけじゃないその恵み
第13章 多様な市とモノの動き――暮らしを支える町や村の経済活動
第14章 暮らしとからだ――変わりはじめた健康像
III 環境と開発
第15章 現金収入は魅力的――商品作物栽培
第16章 コーヒー――小生産国のコーヒー事情
【コラム3】非合法アヘン生産
第17章 観光立国へ向けて――エコツーリズムの可能性
第18章 東南アジアのバッテリー――ラオスのダム開発
第19章 押し寄せる中国――90年代半ばからの中国民衆の動き
第20章 戦争の残したもの――平和な時代に想う環境と開発
IV 歴史
第21章 ラオス史はいつから始まるのか――ランサン王国の創始者、ファーグム
第22章 ラオスの英雄はタイの謀反人――アヌ王の反乱が残したもの
第23章 「ラオス」をつくった男――パヴィ
第24章 夢見たものはラオスの独立――ラオスナショナリズムの父、ペッサラート
第25章 赤の殿下とラオス中立の顔――スパーヌウォンとスワンナプーマー
第26章 革命の成就――カイソーン・ポムウィハーン
【コラム4】シンカポ・シコートチュンナマリー氏の思い出
V 経済
第27章 ビエンチャンの素顔――首都機能を持った村から都市へ
第28章 街からネオンが消えた――社会主義経済体制への移行
第29章 うどんが時価?――チンタナカーン・マイとアジア経済危機
第30章 最貧国でもビールが飲める!――ラオス経済の現況
第31章 国家の発展は世界との協力で――対ラオス援助
VI 政治と外交
第32章 ラオス人民革命党――党の発展と改革路線の継続
第33章 国家機構――一党支配体制下の法治国家建設
第34章 中央地方関係――党中央による一元的な地方掌握
第35章 世界の国々となかよくしよう――全方位外交への転換
第36章 東南アジアで生きる――社会主義ブロックからASEANへ
第37章 21世紀の特別な関係――対ベトナム・中国関係
VII 宗教と儀礼
第38章 質素・倹約は美徳――社会主義政権下の仏教
第39章 ラオスの仏教――日常的実践・全体性・習合性
【コラム5】出家
第40章 農民と精霊――ラオス人村落の生活世界、精神世界とピーの世界
【コラム6】ヤオ儀礼とピー・タイの踊り
第41章 バーシー儀礼――手首に巻かれる白い糸
【コラム7】ラオスの結婚式
第42章 お正月は4月――暦と年中行事
【コラム8】タートルアン祭
第43章 増える記念日――記念日、祝祭日
VIII 言語と文学
第44章 カラフルなことばの世界――言語状況の全体
第45章 耳を澄まそう、話してみよう――ラオス語の特徴
【コラム9】ラオス語のカタカナ表記
第46章 文字は独立のあかし――ラオス文字とナショナリズム
第47章 奧が深いことばの扉――語彙から見える諸相
第48章 王朝文学とラオス版「一休さん」――ラオス古典文学の世界
第49章 ラオス現代文学の歩んだ2つの道――王国政府とパテート・ラオ
【コラム10】辞書のはなし
第50章 文字を持たない人々の口承文化とラオス語教育――伝えられてきたこと、伝えていくこと
第51章 ことわざに込められた想い――ことわざの理想の人
IX 文化
第52章 世界遺産を生きる(1)――ルアンパバーン
第53章 世界遺産を生きる(2)――チャムパーサックの生きている文化的景観
第54章 ともに働き、ともに食べ、助け合う――家族と親族、その絆
【コラム11】ラオスの男女の育て方
第55章 日々の食生活――ラオス料理と食事風景
第56章 美と心地よさを身にまとう――織物・衣装
第57章 ラオスの住居――変わりゆく人々の生活の器
第58章 暮らしに生きるラオスの芸能――「芸術・芸能」と「習慣」のはざま
【コラム12】ケーン(ラオス笙)
第59章 親戚・友人と過ごす休日――訪ね、集い、食べて、しゃべる
第60章 都市の若者文化――ただいま青春、楽しんでます!
【コラム13】シンにも流行がある
参考文献
ラオスを知るためのブックガイド
前書きなど
はじめに
ラオスは、北を中国、東をベトナム、南をカンボジア、西をタイ、北西をミャンマーに囲まれた内陸国である。人口はわずか630万ほど。千葉県よりもやや多いぐらいである。山がちで、人口が集中できる平地がほとんどない。首都はビエンチャン。全国は首都ビエンチャンを含むビエンチャン首都区以外に16県からなる。国の西方を東南アジア最大の川、メコン河が流れる。
時間の流れがゆったりとしており、メコン河の向こうに沈む夕日をながめていると、この世の喧騒を忘れさせてくれる。ラオスには目に見えない豊かさがある。それこそがラオスに人々が魅了される所以であろう。
ラオスは目立たない小さな国であるが、いくつも素晴らしい点がある。
まず自然である。他の多くの国々では失われてしまった森林や汚れていない豊かな河川、さらに自然と調和した生活が今日もいたるところに見られる。本書の第I部では、その豊かな「自然」について、そして第II部では、その自然を賢く利用する人々の「生活と生業」について、主に自然科学者が執筆している。出自も言語も文化も歴史も違う多様な民族が、さまざまな自然環境のなかで、上手に棲み分け共存している点は、多くの執筆者が指摘している点だ。
ここ10年でラオスもビエンチャンも瞬く間に変わった。開発に揺れるラオスの自然。第III部では、「環境と開発」にかかわる話題を取り上げた。
第IV部では、ラオスの「歴史」について知ることができる。ラオスに行ったら、この国の創始者や救国の英雄の一生に思いをはせてほしい。
第III部で取り上げた人と自然のかかわりと同じように、ラオスの経済と政治も、外世界とつながり開かれることで変わってゆく。近隣諸国との関係にとりわけ注目しながら、「経済」は第V部で、「政治と外交」は第VI部で扱った。
第VII部は「宗教と儀礼」。変動する社会のなかで、安寧を願う人々の祈りは変わることがない。第VIII部は「言語と文学」。語彙の1つ1つに豊かな表現があることを知れば、丸っこい文字からなるラオスの言葉を勉強したくなる。
最後の第IX部は「文化」で、再び人々の日常生活を垣間見ることになる。日本にはないこともあれば、共通していることもある。読み進めるうちに、ラオスの人々の等身大の姿が浮かび上がってくることを期待している。
残念ながら、日本でラオスのことがニュースになる機会は多くない。今日の世界の大きな強い流れに身を置いていると、ゆったりと生きている小さな国の人々のことには、なかなか関心がいかない。しかし小さなことのなかにこそ大切なものがある。本書の以下のさまざまな話題から、ラオスにはそれがあふれていることを実感してもらえるのではないか、と思っている。
本書が企画されてから出版にいたるまで、予想外に時間がかかってしまい、多くの方々にご迷惑をおかけする結果となってしまった。ここにお詫び申し上げる。そして執筆者の方々をはじめ、ラオス関係諸氏・諸機関にこの場を借りてお礼申し上げる。
最後に、本書の企画を立ち上げてくださった明石書店の大江道雅氏、いろいろなアイディアを提供してくださった大槻武志氏、丁寧に編集してくださった兼子千亜紀氏に心よりお礼申し上げる。
2010年9月 編者一同