目次
序 今、本当の多重債務の解決法を知ってほしい(弁護士・木村達也)
第1章 多重債務者はこんなにいる(司法書士・水谷英二)
はじめに
1 どうして多重債務者になるのか
2 多重債務者の苦しみと社会的な影響
3 貧困問題と多重債務
4 改正貸金業法の施行と今後の展望
○貸金業法完全施行に伴う声明
第2章 多重債務の法的な解決方法(司法書士・小澤吉徳)
1 借金は必ず解決できる―さまざまな解決方法
2 それぞれの解決法の長所・短所は
○住宅ローンが家族をバラバラに(K・Y)
第3章 多重債務者に対するあるべき支援とは(弁護士・河野聡)
1 多重債務者へのアドバイスや支援のあり方
2 支援者・相談窓口のそれぞれの役割
○借金のない生活(平安の会会員K・A)
第4章 事業者の経営再建への道(弁護士・鈴木嘉夫)
1 事業者の多重債務の解決の仕方
2 本当の事業再生とは
第5章 ヤミ金融・システム金融は恐くない(弁護士・木村裕二)
1 なぜヤミ金融・システム金融がはびこるのか
2 ヤミ金融・システム金融とのたたかい方
第6章 依存症に向き合う(松山たちばなの会・青野貴美子ほか)
1 依存症と多重債務の関係
2 依存症を持つ多重債務者にどう対応するか―相談者の実態と対応の留意点
○20の質問
第7章 多重債務者を自死に追い込まないために
1 借金・多重債務の問題と「自殺」について(弁護士・辰巳裕規)
2 自殺念慮者や遺族のケアについて(司法書士・木下浩)
○生きがいを見つけて(和歌山あざみの会会員E・M)
第8章 多重債務者へのセーフティネット
1 多重債務解決後の生活を考えることの必要性(弁護士・村上晃)
2 あらゆるセーフティネットを活用する
3 生活保護制度の活用(弁護士・髙木佳世子)
4 労働問題への対応
○訪問販売をきっぱりと断れず(M・Y)
第9章 今後の多重債務問題解決のあり方(弁護士・及川智志)
1 多重債務者支援の法的整備を
2 金利はまだまだ高すぎる
全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会加盟団体受付・相談窓口一覧
前書きなど
序 今、本当の多重債務の解決法を知ってほしい(全国クレジット・サラ金問題対策協議会・代表幹事:弁護士・木村達也)
2010年6月、改正貸金業法が全面的に施行され、貸金業界は大きく様変わりしています。大手消費者金融をはじめ中小貸金業者の多くが、貸金業界から撤退を始め、信販会社までもが経営危機にみまわれています。これは今日まで利息制限法違反の高利を徴求してきたことに対する借主側の反攻とも言うべき現象で、1.最高裁判決に基づく不当利得返還請求の急増、2.貸付金利を利息制限法以下とすること、3.借主1人当たりの与信額(融資限度額)を借主の年収の3分の1以内とすること、また、4.貸金業開業規制としての資産要件5000万円を要すること、5.貸金業取扱主任者の常置、指定信用情報機関の照会、その他かなり厳しい業務規制が法定されたためです。
はたして貸金業界は、今回の法改正によって消費者・市民にとって安全・安心な庶民金融たりうる存在として脱皮しうるのか。それとも旧態依然のまま、消費者被害・多重債務被害をまき散らし続けるのか。私たちは今、貸金業法の施行によって、貸金業界、並びに多重債務問題がどのように改善されていくのかを、じっと見守っているところです。
一方、「多重債務の背景に貧困がある」と私たちは訴え続け、今ようやく政治や行政、さらには、関係者の多くの方々が、多重債務の背景にあるさまざまな貧困問題に目を向けつつあります。自殺、うつ病、依存症、過労死、生活保護、DV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)、ホームレス・住居問題、いわゆる「貧困ビジネス」問題、そして貧困を生み出す最大の原因たる雇用・労働問題など、問題はますます深刻かつ広汎になってきています。
私たちはこうした事態に備え「多重債務による自死をなくす会」(2007年3月)、「生活保護問題対策全国会議」(2007年6月)、「セーフティネット貸付実現全国会議」(2008年7月)、「依存症問題対策全国会議」(2008年7月)、「全国追い出し屋対策会議」(2009年2月)、「行政の多重債務対策の充実を求める全国会議」(2003年10月)、「クレジット被害対策・地方消費者行政充実会議(略称「クレちほ」)」(2005年7月)、さらには別組織ですが「非正規労働者の権利実現全国会議」(2009年11月)などを結成して、調査研究だけでなく運動にも取組んできました。
そういう意味で、今日、多重債務相談は大きな転換期を迎えており、私たちにとって多重債務対策は任意整理、特定調停、自己破産の知識だけでは、その対応が不十分となっています。私たちは行政相談窓口の方々にも、こうした事実をお伝えして広汎な知識を持っていただけるよう努めてきました。
そこで、今般私たちは、大きな転換期を迎えつつある多重債務相談、貧困相談を行う上で、また家族や同僚のための多重債務の解決を行う上で、ぜひ知っていただきたい基本的知識と解決のノウハウを本書にまとめることとしました。
この本は多重債務問題に対処する方々が、相談者の持つ悩みや問題点、そしてその背景事情を的確に把握し、適切な助言と救済方法を提供できるように編集しています。この本が今日の多重債務・貧困相談の現場で、より多くの方々のお役に立つこと、さらにはこうした救済を通じて、わが国の貧困問題が解決されることを願っています。
最後になりましたが、多忙のなか本書の執筆にご協力いただいた方々、さらには、今日まで多重債務救済の現場で頑張ってさまざまなノウハウを開発された多くの先達の方々に対し、心よりお礼申し上げます。
また、急遽出版にご協力いただいた、明石書店・神野斉氏のいろいろなご尽力に対し、心よりお礼申し上げます。
2010年6月18日、貸金業法完全施行の日に