目次
佐々木兼俊師 近影
第一章 佐々木兼俊師へのメッセージ
土生川正道:宗教法人高野山無量光院住職代表役員/前高野山総本山金剛峯寺執行長/前高野山真言宗宗務総長
組坂繁之:部落解放同盟中央本部執行委員長
友永健三:部落解放・人権研究所理事
村田恭雄:社団法人和歌山人権研究所前理事長
第二章 佐々木兼俊師 口述録
仏教と差別――佐々木兼俊師の歩んだ道(小笠原正仁)
第三章 仏教と差別に寄せて
不可触民解放運動にみる新仏教徒の視点(藤田和正)
五輪塔をめぐって(藤田光寛)
「日本のチベット」考(奥山直司)
人間の尊厳と苦――日本的尊厳の概念を求めて(山脇雅夫)
浄土真宗における「真俗二諦論」――その差別性について(神戸修)
『沙石集』に表れた非人――高野の僧覚海の前生譚について(下西忠)
密教思想の新展開(山口幸照)
資料 佐々木兼俊師 年譜
あとがき
前書きなど
あとがき
佐々木兼俊先生が高野山真言宗同和局長を引かれた後、先生の橋本市のご自宅へ度々お訪ねして、断片的に同和問題のお話を聞くにつけ、一度体系的にじっくり記録したいものだと思いました。先生は、実に五十年近くにわたって高野山真言宗宗務庁に勤務され、その多くが同和問題とのかかわりでした。現実に仏教界の差別事件や高野山真言宗の七大差別事件などにかかわって来られ、その言葉は深く私たちの脳裏に残っています。そのきっかけなどは本文に詳しいので重複は避けますが、まさに仏縁だと思います。
私たちと先生とのご縁は、高野山真言宗宗務庁同和局から委託された高野山大学同和研究会(現 人権研究会)での出遇いです。研究会での先生は、寡黙ですが、とても熱心にわれわれ後輩の研究発表に耳を傾けておられました。若い学究の徒を育てようという気持ちが充分にあったと思います。未熟な研究発表も、いやな顔ひとつせず聞いておられました。寄稿者のほとんどがその同和研究会に参加し、また研究発表をした経験があります。
本書所収の佐々木先生の口述録は、先生個人の歩んできた道ですが、同時に日本の仏教界の様々な差別事件等の歴史そのものになっていることに気がつきます。これほどの臨場感は他の証言には例がなく、興奮すら覚えるものです。しかも体系的でわかりやすく、仏教界の差別問題がわかるようにもなっています。僧侶、仏教者、学生のテキストとしても最適だと思います。
また、本書を読まれれば明らかになることですが、先生は高野山真言宗宗務庁同和局長の職にあったから同和問題について取り組んできたのではなく、真に一仏教者としての基本的スタンスが明確であったからに他なりません。アイデンティティがしっかりしているからこそ、長くその職にとどまることができたと思います。差別と一番遠いところにいるはずの僧侶が平気で差別をしてしまうという現実を直視し、けっして目をそらさずに丁寧に一つひとつ解決していくという手法は実に明快です。
このような自身の内面から真剣に自らの問題として取り組もうとするこころざし、この「佐々木イズム」こそ同和問題に取り組む姿勢として、後に受け継いでいかなければならないことだと、このたび、記念誌の編集を通じてより強く思った次第です。
佐々木先生にはこれからも、ご健康に留意されて、後進にいつまでもご指導いただけたら幸いです。
この佐々木先生の貴重な証言を残すことができたのは、この出版をお引き受けいただいた明石書店の石井昭男さん、ならびに大江道雅さんの協力があったからです。心から感謝いたします。
なお、本書のなかで差別語等の表記がそのまま使われていますが、本書のめざすところを深くお酌みとりいただき、解放へのこころざしを共有できればと思います。