目次
序文
日本語版のための序文
序章 トランスナショナルなアメリカ史
トランスナショナルなアメリカ史に向けて
トランスナショナルな歴史とは
新たなグローバル化
アメリカの多様なトランスナショナル関係
第1章 諸帝国の戦いの中に生まれて——戦争と革命の中のアメリカ、1789〜1815年
フランス革命とトマス・ジェファソン
フランス革命・ナポレオン戦争と新国家アメリカ
ラテンアメリカ諸国の独立とアメリカ
ヨーロッパ諸国間の対立と西部開拓
大西洋・地中海世界と19世紀前半のアメリカ
第2章 通商は世界を覆う——経済的な統合と分断
グローバル経済への統合
国際的な枠組みの中でのアメリカ経済
アメリカの経済成長における「外的」「内的」要因
グローバル化における投資の役割
移民とアメリカ経済
反外国人感情と外国金融勢力
グローバル経済への統合と経済的自立のせめぎあい
第3章 進歩のかがり火——政治と社会の改革
大西洋をはさんだ政治改革運動
トランスナショナルな共和主義と千年王国思想
トランスナショナルな刑務所改革運動
トランスナショナルな禁酒運動
トランスナショナルな奴隷制廃止運動
第4章 移動する人々——19世紀の移住体験
グローバルな「人の移動」の中のアメリカ移民
世界経済のグローバル化と移民への影響
移民による社会的移動の国際比較
移民の同化と帰還
移民排斥と移民のアイデンティティ
「人の移動」の多様性
第5章 不本意な移民とディアスポラの夢
奴隷貿易とアメリカ生まれの黒人奴隷
解放された奴隷のアフリカ帰還
アフリカ人のディアスポラ
黒人のアメリカ帰国と国内での移住
第6章 人種的・民族的フロンティア
トランスナショナルな場としてのフロンティア
異人種間の混交
インディアンの同化・排除と、彼らの抵抗
チェロキー族などの同化と、その意味
メキシコ戦争とヒスパニックの伝統
第7章 アメリカの内戦とその世界史的意味
南北戦争とトランスナショナルな関係
再建の時代とトランスナショナルなつながり
第8章 文化はどのように旅したか——海外渡航の時代、1865〜1914年頃
海外旅行の時代
海外旅行のグローバル化
海外旅行とナショナル・アイデンティティの強化
旅行本と外国への知識
宣教師たちの海外渡航
道徳的社会改革者たちとアメリカ文化の伝達
アメリカ大衆文化における外国からの影響と外国への輸出
海外でのアメリカ文化の受容
企業家たちの海外渡航とアメリカ文化の輸出
海外居住者たち
第9章 革新主義時代における国民国家の建設——トランスナショナルな分脈の中で
南北戦争以前におけるナショナリズムの遺産
国民国家のトランスナショナルな形成
国境の厳格化と強大な政府
ナショナリズムの成長とトランスナショナルな言説
第10章 無自覚な帝国
大陸での膨張から海外への膨張へ
反植民地的伝統とアメリカ帝国主義の特質
道徳的な帝国主義による国内への影響
植民地の処遇とアメリカ帝国主義
「ソフト・パワー」とアメリカ帝国主義
豊かさと大量消費のアメリカ帝国
世界を飲み込むアメリカ経済
第11章 ウッドロー・ウィルソン時代の新たな世界秩序
第一次世界大戦への参戦とアメリカ人のヨーロッパ直接体験
国際主義の文脈におけるウィルソンの外交政策とその影響
アメリカの対外的経済政策とその影響
アメリカの新たな文化的覇権
大戦後の国内不和と、外国との関係
大戦後における道徳的改革運動の国際性
大戦後の文化的対立および排他的政策と、トランスナショナルな状況
第12章 統合のための諸勢力——戦争と「アメリカの世紀」の到来、1925〜1970年
アメリカの拡大する国際的関与
大恐慌・ニューディール政策と国家の強化
1930年代からの孤立主義
1930年代半ばからの対外的認識の高揚
第二次世界大戦と「招かれた帝国」
冷戦とアメリカによる文化的・経済的な攻勢
トランスナショナルな民間団体——宣教師の役割
トランスナショナルな民間団体——非宗教的団体の分野
第13章 偏狭な衝動——国際的統合の限界、1925〜1970年
移民制限による人種的再編と愛国心
第二次世界大戦がもたらした偏狭さ
外国旅行の大衆化と国内旅行の拡大
メディアとアメリカの文化的覇権
国際教育・ポップカルチャーとトランスナショナルな交流
冷戦と公民権運動の関係
アフリカ人ディアスポラと公民権運動
第14章 1970年代からの新たなグローバル化——トランスナショナルなアメリカの国力とその限界、1971〜2001年
ヴェトナム戦争のトランスナショナルな結果
国内の非運な出来事と国外の関係
新たなグローバル化とアメリカ政治・経済
新たなグローバル化とアメリカ社会
新たなグローバル化とアメリカ文化・思想
麻薬問題のトランスナショナルな側面
海外でのアメリカ文化の土着化、国内でのグローバル化による民族的再編
トランスナショナルなNGO——環境・貧困の問題
トランスナショナルなNGO——反核・人権の運動
貿易の自由化と反グローバル化運動、移民のディアスポラ
終章 「変わらぬものは何一つなし」——「9・11」と歴史の帰還
「9・11」とナショナリズム
グローバル化時代の軍事行動
訳者あとがき
原注
さらに学ぶための読書リスト
索引
前書きなど
訳者あとがき
本書は、Ian Tyrrell, Transnational Nation: United States History in Global Perspective since 1789(Palgrave Macmillan, 2007)の全訳である。原著刊行(2007年末)から2年半後の翻訳出版であり、原著の温もりは十分に保たれている。
本書は、トランスナショナルな視点(一国史の枠を超え、国境を越えた歴史の見方)で書かれたアメリカ史の通史を代表する著作の一つとして日本においてもよく知られ、最近出版されたアメリカ史研究の入門書に参考文献として2度とりあげられている。また、今までのアメリカ史概説書にはなかった具体的な史実にあふれており、アメリカ史の専門書ではあるが同時に一般読者も興味深く読むことができる。読者の理解のために、原著にはない小見出しを、著者による点検を受けて各章に入れることにした。
著者イアン・ティレルは1947年にブリズベンに生まれ、現在はニュー・サウスウェールズ大学の歴史学教授である。オーストラリアにおけるアメリカ史研究の重鎮であるが、国外でも著名で、2007年にフランス社会科学高等研究院、2009年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の各客員教授を歴任し、2010年にはオックスフォード大学客員教授に就任する。来日講演も数回あり、2006年には日本アメリカ学会40周年大会に招聘されている。著者には、拙稿に助言をいただいたことを契機に、その後に学会を通じて知己を得ることになった。原著の邦訳は、原著刊行直後に私から願い出たところ、著者は快く承諾してくださった。
(…中略…)
トランスナショナル史は、類似のグローバル史や比較史とは異なる。グローバル史は近代化論と結びつき、また一方向のみの活動と世界の同質化に焦点を当てるのに対して、トランスナショナル史は、それと重複する部分はあるものの、双方向的な活動に注目し、しかも複数の地域間での相互浸透という考えを前提とする。また、後者の意味で、国境を所与のものと理解しそれを越えないものとする比較史とも異なる。
アメリカでのトランスナショナル史研究の試みは1990年前後から始まり、学術・教育の面でのものと、現実世界の国際情勢の両方を反映している。前者(このテーマに関する学会での取り組みの経緯についての詳細な紹介は、専門雑誌に譲る)においては、人・物・資本などの世界的な移動と関係性を叙述するものとして「世界史」が生まれ、アメリカの大学では「世界史」科目への学生の受講者が顕著に増加したという報告がある。これは歴史学自体に文字どおり世界史的な関心が集まったからであり、これによって、おのずと自国史の再検討に至るようになった。またトランスナショナル史研究は、社会史研究によって断片化した歴史叙述における統合が容易にできない現状に対する一つの答えでもあると指摘されている。後者の場合は、アメリカの国際政治とのかかわりであり、1990年代以降の政治・経済・社会のあらゆる面で顕著になったグローバル化現象の与えた影響である。これらの中の象徴的な事件としてとくに「9・11」同時多発テロ事件は、当時の政権とアメリカの直面する現実が、いかにトランスナショナルな歴史観を生み出す背景に影響を与えたかを象徴している。「もし我々が9月11日の出来事から何か学ぶものがあるとすれば、アメリカだけのことを考えていてはアメリカ史を理解することはできないということである。9月11日の攻撃は我々を国外に目を向けさせ、アメリカを、孤立してではなく、世界の中の、そして世界の一つとして、見るようにさせたことである。というのは、今まで世界の人々は、アメリカという国家が与える期待を、ときには共有したこともあったが、しかし、ときにはそれを解釈し直し、そして、拒絶してきたからである」。
(…後略…)