目次
はじめに——人権政策への転換を(田中宏)
第 I 部 2009年改定法の検証
第1章 「新たな在留管理制度」批判
1.2009年改定法とは(佐藤信行)
2.どのように改定法が策定されたか(旗手明)
3.個人情報のデータマッチング(旗手明)
4.在留資格の取消し(古屋哲)
5.「在留カード」常時携帯義務(佐藤信行)
6.過重な負担、加重された罰則(佐藤信行)
7.改定「入管特例法」の諸問題(金朋央・佐藤信行)
8.難民申請者と改定法(石川美絵子)
9.移住女性と改定法(山岸素子)
10.改定「住基台帳法」の諸問題(西邑亨)
11.非正規滞在者と改定法(古屋哲)
第2章 もう一つの入管法改定
1.入国者収容所等視察委員会の設置(金哲敏)
2.法改定は研修制度の延命策にすぎない(旗手明)
第II部 在日外国人の現在
第3章 未済の戦後補償
1.「慰安婦」問題と歴史責任(渡辺美奈)
2.朝鮮人強制動員・遺骨問題(福留範昭)
3.日韓会談文書の公開問題(小竹弘子)
4.サハリン残留韓国人の補償問題(尹徹秀)
5.在韓・在朝被爆者(市場淳子)
6.ウトロ立ち退き問題(斎藤正樹)
7.無年金の高齢者と障がい者(田中宏)
第4章 「雇用危機」と「労働力導入」
1.使い捨てでない外国人雇用対策を(鳥井一平)
2.在日ブラジル人コミュニティは苦境をどう乗り越えるか(アンジェロ・イシ)
3.看護師・介護福祉士の受入れ(藤本伸樹)
4.外国人労働者受入れ政策と金融危機(鈴木江理子)
第5章 人種主義・人種差別
1.外国籍教員への任用差別(韓裕治)
2.入居差別と自治体の責務(康由美)
3.警察官違法発砲傷害致死事件(安田浩一)
4.草の根排外主義(田中守)
第6章 子どもの教育権
1.学齢超過、中学入学拒否(高橋徹)
2.不就学の子どもたちと自治体の取り組み(小島祥美)
3.ブラジル学校で学ぶ子どもたちは今(リリアン・テルミ・ハタノ)
4.外国人学校の制度的保障(李春熙)
第7章 人権の法制度を
1.在留特別許可(西中誠一郎・草加道常)
2.難民認定制度の現状と法改正の必要性(関聡介)
3.国籍法改定—出生後認知による国籍取得(張學錬)
4.外国籍住民の地方参政権(山田貴夫)
第8章 国際人権基準
1.自由権規約委員会の勧告(大曲由起子)
2.国連マイノリティ・フォーラムの勧告(師岡康子)
3.外国人人権基本法制への提言(丹羽雅雄)
4.新政権への提言——外国人住民への施策に関するNGO共同要請書)
おわりに——今、ここで(渡辺英俊)
資料編
資料1 2009年改定法の抜粋
資料2 衆・参議院の附帯決議
資料3 在日外国人の人口動態
「外国人人権法連絡会」とは
前書きなど
はじめに——人権政策への転換を
2010年は、日本の韓国併合100年にあたる。日本における外国人・民族的マイノリティの中心的な存在は在日コリアンであり、それが朝鮮植民地支配に起因することはいうまでもない。
日本では戦後初めて、本格的な政権交代が行なわれたが、それが日本の外国人政策にどう影響するだろうか考えてみたい。民主党は野党時代に「次の内閣(NC)」を設け、さまざまな議員立法案を提出し、なかには参議院で可決されたものもある。
外国人に地方参政権を開放する問題が長い経過を辿っている。地方参政権を認めるかどうかは立法政策の問題であるとの最高裁判決が出たのが1995年2月。国会に永住外国人地方選挙権付与法案が初めて提出されたのは98年10月で、野党の民主党と公明党の共同提案だった。その後公明党が与党入りし、その政策協定に盛り込まれたが、結局未成立のままである。
いっぽう韓国では2005年、永住外国人に地方選挙権を認める法改定が実現し、翌年5月の統一地方選挙において初めて一票が投じられた。韓国が開放したことによって、OECD加盟30カ国で、まったく開放していないのは日本のみとなった。さて、政権の座についた民主党中心の連立政権は、地方参政権の開放に踏み切るだろうか。
自民党政権下で教育基本法の全面改定が行なわれた際、民主党は対案として「日本国教育基本法案」を提出した。そこには、「国及び地方公共団体は、すべての日本国民及び日本に居住する外国人に対し……適切かつ最善の学校教育の機会及び環境の確保及び整備に努めなければならない」(第4条)とあった。
憲法、教育基本法、学校教育法はいずれも「国民」の教育であり、例えば、就学義務を負うのは日本国民のみであるとし、従来から外国人の「教育への権利」を認めようとしなかった。そうしたなかで、民主党がかつて提出した高校無償化法案では、各種学校である外国人学校もその対象に加えていた。
1989年の入管法改定の特徴は、日系人の就労自由化と、研修生という名の移住労働者の容認といえよう。ブラジルやペルーの日系人は、自動車関連の下請け、孫請けに吸収され、東海地方や北関東地方には多くのブラジル学校やペルー学校が誕生している。長い歴史をもつ中華学校、戦後生まれの朝鮮学校などを合わせると、外国人学校は200校に達している。新政権が高校無償化政策において、外国人学校が従前通り対象に加えることが実現すれば、外国人学校公認への重要な一歩となろう。
2009年は、外国人管理の主要2法である出入国管理及び難民認定法(入管法)と外国人登録法(外登法)が改定された年である。とくに、外登法が廃止され、同じ住民なのに従来は外国人を適用除外としていた住民基本台帳法(住基台帳法)を、今後は適用することになった点は、大きな変更である。今回の法改定について、次の点だけ指摘しておきたい。
住所変更の届出義務違反への罰則は、従来、日本人は「5万円以下の過料」(住基台帳法)、外国人は「20万円以下の罰金」(外登法)となっていた。法改定により外国人も住基台帳法に統合されたので、この“差別”は解消されるかと思いきや、入管法の中にわざわざ「20万円以下の罰金」を移し存続させたのである(したがって、外国人は規定上、両方の対象に)。
また、従来の「外国人登録証」に代わって、新たに「在留カード」(特別永住者には「特別永住者証」)が交付されるが、その有効期限は在留期限のない永住者・特別永住者の場合でも「7年」であるが、日本国民の「住民基本台帳カード」の有効期限は「10年」である。こうした“差別”がなぜ必要なのだろうか。
日本ではICチップ付き「在留カード」導入など新たな外国人管理制度が作られたが、外国人との共存・共生のシステムを作ろうとする視点は見られない。
隣国の韓国では、国連の求める国内人権機関として、政府から独立した「国家人権委員会」が設置され、また「在韓外国人処遇基本法」や「多文化家族支援法」なども制定されている。同基本法には、「国民と在韓外国人が相互に理解し尊重する社会環境を作り、大韓民国の発展と社会統合に寄与する」とある。
保守政権といわれる韓国の李明博大統領は、2009年8月15日(光復節)の記念演説の冒頭を次のように始めた。「尊敬する国民の皆さん、愛する北の同胞と700万在外同胞の皆さん、国家功労者と内外の貴賓、そして100万の外国人住民の皆さん」と。
日本の新政権は、その人権政策の転換をはかるべきである。
2010年2月 田中宏(たなか・ひろし/一橋大学名誉教授)