目次
まえがき(影山秀人)
1 子どものシェルターはなぜ必要か(坪井節子)
2 子どものシェルターはどのように運営されてきたか
カリヨン子どもセンター:シェルターを生きる力をつける場に(一場順子)
子どもセンターてんぽ:開所から2年半、てんぽのシェルターってどんなところ?(高橋温)
子どもセンター「パオ」:安心して羽根を休められる場所づくり(高橋直紹)
3 シェルターは子どもとどう向き合ってきたか
はじめに(高橋温)
事例1 カリヨンがあったから――初めての試験観察事例(武藤暁)
事例2 彼女がステップハウスに巣立つまで(子どもセンターてんぽ)
事例3 ある子ども担当弁護士の関わり(高橋直紹)
事例4 教育をめぐる親との交渉事例(平湯真人)
おわりに(高橋温)
4 子どものシェルタースタッフの思い
カリヨン男子シェルター始動(平野梓)
シェルターで出会う子どもの現状から感じること(岩崎愛)
無理をせず、だれもが自分らしく生きられる世界を(やまもとひろこ)
子どもが安心して生活できる環境(坂爪弘樹)
はじめの一歩から時を重ねて(水野谷恭子)
役割をつなぎ、子どもに寄り添う私たちの挑戦(坂鏡子)
子どもたちの人生の一場面に寄り添う(滝井香里)
パオと関わることができた喜び(池戸紀子)
当たり前の生活の中で感じる子どものパワー(中上彩)
◆シェルターで過ごした子どもたちからの声
5 シェルターから子どもはどう自立していったか
事例1 目標は大学進学、やる気を出してつかんだ自立の道(川上寿世)
事例2 トラブル、転職……、紆余曲折の中で一歩ずつ成長を確かめて(細野直人)
自立援助ホームとは――カリヨン「夕やけ荘」「とびらの家」の取り組みから(飯島成昭)
6 子どものシェルターの現状から見えてくるもの
シェルター5年の歩みと課題(加藤實)
シェルター利用者を通して考える、若者の医・食・住の貧困(西岡千恵子・蝶谷綾子・百瀬圭吾)
7 これからの子どものシェルター―――行政の施策から今後の課題を考える(前田信一)
◆歩みを始めた子どもシェルターモモ(東隆司)
【子どものシェルターをとりまく支援の輪】
1.傷ついた子どもたちへのケアボイスワーク(濱田真実)
2.児童精神科医の診察室から――てんぽと私(陶山寧子)
3.カウンセラーがみた、シェルターに関わる人びと(平尾幸枝)
4.A子を支えた「パオ」との出会い(愛知県児童相談所職員(匿名))
5.伝えたい、体と心の大切さ(藤原志帆子)
あとがき(多田元)
子どものシェルター・プロフィール
カリヨン子どもセンター
子どもセンターてんぽ
子どもセンター「パオ」
子どもシェルターモモ
前書きなど
まえがき
2004年6月、東京で“お芝居から生まれた子どもシェルター”カリヨン子どもの家が開設され、それからわずか5年、神奈川県のてんぽ、愛知県のパオ、そして岡山県のモモが次々に設立され、子どものシェルターは全国に広がりつつあります。設立の経緯や方法、子どもに対するサポートのやり方などは、それぞれの地域ごとに違いはあるものの、10代後半の子どもたちにとって、安全で安心できる避難場所としてのシェルターの必要性は間違いなくあるのだろうと思います。
シェルターを利用する子どもたちの入所経路や態様などは、本当にさまざまです。徐々に荷物を運び出して、あらかじめ打ち合わせしていた日にシェルターに移ってきた子もいれば、我が身一つで家を飛び出してきた子もいますし、友人宅などを転々としていた子もいれば、公園などで野宿をしていた子もいました。どの子も、周囲の大人たちに大切にされず、心と体に何らかの傷を負っていました。さまざまな事情でシェルターにたどり着いた子どもたちは、本当に久しぶりに、温かい食事をスタッフと一緒に食べ、安心してゆっくり眠ることができました。
シェルターでしばらく休んで元気が出てきたら、子どもたちは次のステップを模索し始めます。その過程や速度は、その子その子によって全く違いますから、私たちはひとりひとりのペースに合わせてサポートをします。希望を見つけ、目を輝かせて退所していく子どもたちの姿を見ることは、私たちにとって無上の喜びです。
でも、なぜ、この子たちはこんなに苦しまなくてはならないのでしょうか。そして、なぜ、こんなにも、大人たちに傷つけられた子どもたちの行き場所がないのでしょうか。いったいいつから、この日本という社会は、こんなにも子どもを大切にしない国になってしまったのでしょうか。全国にまだ4ヵ所しかない子どものシェルターで、私たちが出会うことのできる子どもたちはほんのわずかです。シェルターの活動をしながら、ときに無力感に苛まれます。しかし、私たちの今はまだ小さな試みが、いずれは大きな流れとなることを期待したいと思います。子どもや若者を大切にする社会は、人間を大切にする社会であるはずです。全国各地で、それぞれの地域に合った子どものシェルターが作られ、広がっていくことを念願し、そのための一助になればと考えて本書を編みました。
本書では、今ある子どものシェルターが、それぞれどのような経過をへて設立されたのか、実際にどのように子どもたちに向き合っているのか、ひとりひとりの自立に向けたケースワークの中で、どのような壁にぶつかり、それに対してどのように対処しているのか、シェルターで子どもたちに寄り添う現場のスタッフたちはどのような思いを持ち、また若者の貧困などを放置する現代社会にどのような矛盾を感じているのか、そして、子どものシェルターの活動を通して見えてくる今後の社会が取り組むべき課題は何なのかなどを、それぞれのシェルターの実践の中から具体的に提起しています。
本書を通じて、多くの方々が子どものシェルターの存在を知り、その必要性と重要性に理解を示して下されば幸甚です。私たちは、シェルターを必要とする全国の子ども・若者に対して、全力で大人としての責任を果たしていきたいと思います。
NPO法人子どもセンターてんぽ 理事長:影山秀人