目次
年表 南アフリカの歴史
第三版(最新版)への序文
日本語版(一九九八年)への序文
一九九五年版(第一版)への序文
第一章 アフリカ人
1 植民地期以前の歴史の重要性と諸問題
2 南部アフリカの環境
3 はじまり
4 最初の農民
5 狩猟民と牧畜民の諸関係
6 混合型農業経済
7 混合型農業社会
8 混合型農民と狩猟民・牧畜民との諸関係
第二章 白人の侵略——ケープ植民地・一六五二〜一八七〇年
1 序
2 オランダ領ケープ植民地 1(一六五二〜一七九五年)——ケープタウンと南西部の耕作地
3 オランダ領ケープ植民地 2(一六五二〜一七九五年)——北東の牧畜民
4 イギリス領ケープ植民地(一七九五〜一八七〇年)
第三章 アフリカ人の戦争と白人の侵略——南東部アフリカ・一七七〇〜一八七〇年
1 序
2 コーサ人
3 ズールー王国とムフェカネ
4 アフリカーナーのグレート・トレック(一八三六〜五四年)
5 イギリス領ナタール植民地(一八四三〜七〇年)
6 ハイフェルト(一八五四〜七〇年)
第四章 ダイヤモンド、金、イギリス帝国主義——一八七〇〜一九一〇年
1 序
2 ダイヤモンド、金、鉱業都市
3 征服の完了
4 イギリス帝国主義と南アフリカ戦争
5 戦争、平和、権力移転
第五章 隔離の時代——一九一〇〜四八年
1 序
2 白人の政治(一九一〇〜三九年)
3 隔離と差別(一九一〇〜三九年)
4 黒人の適応と抵抗(一九一〇〜三九年)
5 第二次世界大戦とアフリカーナー民族主義の勝利
第六章 アパルトヘイトの時代——一九四八〜七八年
1 序
2 アパルトヘイト
3 アパルトヘイト社会
4 アパルトヘイトへの適応と抵抗
5 世界のなかの南アフリカ
第七章 アパルトヘイトの危機——一九七八〜八九年
1 序
2 アパルトヘイトの改革
3 国内の抵抗運動(一九七八〜八六年)
4 南アフリカの対外関係(一九七八〜八六年)
5 非常事態
第八章 政治的移行——一九八九〜九四年
1 交渉の背景
2 話し合いに関する話し合い
3 憲法をつくる
4 暫定憲法
5 一九九四年の総選挙
第九章 新しい南アフリカ——一九九四〜二〇〇〇年
1 アパルトヘイトの遺産
2 政治体制
3 国家機関を脱人種化する
4 真実と和解
5 経済
6 多数派の民衆の生活の質
7 マンデラの退場
8 ムベキの登場
解説『新版 南アフリカの歴史』を読む——リベラル・ラディカル論争をこえて(峯陽一)
はじめに
(1)レナード・トンプソンとリベラル史学
(2)ネオ・マルクス派による批判
(3)南アフリカ史研究の現在
(4)展望——南アフリカの未来と歴史研究
第三版(最新版)への付記
訳者あとがき
訳注
統計
表1 南アフリカの人口
表2 都市地域に居住すると推計される人口の割合
表3 実質成長率と所得水準
表4 人種および性別の失業率(一九九六年)
表5 二〇歳以上の者が受けてきた教育レベル
表6 南アフリカにおけるエイズの影響
表7 国際的な犯罪動向(一九九六年)
表8 人間開発と一人あたり所得の推移
表9 人間開発指数(一九九七年)
原注
口絵写真の出典一覧
索引
前書きなど
訳者あとがき
本書は、Leonard Thompson, A History of South Africa, third edition, Yale University Press, 2000, pp.xxiv+358の全訳である。
原著者、イェール大学名誉教授レナード・トンプソン氏は一九一六年生まれ。訳者の一人、峯陽一氏の「第三版(最新版)への付記」に見られるとおり、この稀有の碩学は、二〇〇四年六月、ニューヨークで逝去された。享年八八歳であられた。
トンプソン氏はイギリス生まれであったが、幼い頃にご両親とともに南アフリカへ移住、インド洋岸の大都市ナタールの高等学校を卒業後、「一八二〇年の入植民」で知られるグレアムズタウンのローズ大学、同大学院で学ばれた。第二次大戦に従軍し、この戦争をはさむ数年間をイギリスで過ごしたあと、再び南アフリカへ戻り、その後ケープタウン大学で一四年間教鞭をとった。アメリカ合衆国へ移住したのは一九六〇年のことであった。修士論文「ナタールへのインド人の移民問題」以降、南アフリカの歴史に関する数多くの業績があるが、本書は、長年リベラルな立場から南アフリカ歴史学の確立に努力してきた同氏の学究生活の総決算ともいうべき精華である。概説書とはいえ、渾身の力をふり絞って、見事な文章で書き上げられた、文字通りの力作であるといってよい。
本書の初版は一九九〇年に刊行され、我々の日本語訳はこれを原本として、すでに一九九五年に明石書店から出版されており、幸い好評を持って各方面に迎えられた。一九八四年のノーベル平和賞を受賞した南アフリカの黒人司教デズモンド・ツツ師がこの初版について、次のような賛辞を贈っている。
「黒人の南アフリカ人から見て、この美しい国土とそこに住む人々について、公正かつ正確と思えるような南アフリカの歴史を白人に書くことができるとは思わなかった。トンプソン氏のこの『南アフリカの歴史』は正確かつ信頼のできるものであり、見事な文学的文体で書かれている」
この初版の改訂版が一九九五年に出た。そこで我々は、改訂版を底本として、一九九八年には新しい日本語訳『新版南アフリカの歴史』を出版することになった。その改訂版は、原著者の説明をそのまま引用すると、「一九八九年以降になって南アフリカの姿を一変させた劇的な諸事件をあつかう第八章」を追加し、「初版の第一章から第七章について二、三の修正を施し、年表を最新のものに改めている。また、付録の統計を改訂し、注では最近の多くの出版物を参考文献に追加」したものだった。
ところで、今回の第三版では第八章が大幅に書き直され、新たに第九章が追加されている。すなわち、一九八九年から九四年までの熱気溢れる移行期の政治を扱う第八章では「多くの新しい証拠に照らして複雑な政治的移行プロセス」が詳細に説明されている。第九章は、「ネルソン・マンデラ大統領および後継者のターボ・ムベキ大統領のもとでの新生南アフリカを評価した」書き下ろしの章である。そこでは、マンデラの人気と腕前に世界の耳目が集中したあの高揚期を過ぎて、ターボ・ムベキの政権に至る道で、しだいに混迷を深めるポスト・アパルトヘイトの社会状況が活写されている。これら二つの章が引き受けている南ア現代史の叙述方法、そのトーンについては、忌憚のない批判的見解をも含めて、峯陽一氏の筆になる解説「第三版(最新版)への付記」に詳しい。
いま、民主化と市場経済の大義のもとに、すべてがグローバル化の進展の時代にあって、アフリカ、特に南アフリカがアパルトヘイトの時代を含めて、それ以前も、それ以後も、世界の最大の焦点の一つであることはいささかも変わらない。著者は、本書で、南アフリカの歴史を、オランダ東インド会社のヤン・ファン・リーベック一行の移住からスタートさせるのではなく、考古学的過去をも含めた植民地以前の時代から書き起こし、アパルトヘイト廃絶以後、ネルソン・マンデラ大統領のもと、国内的には再建復興と和解を旗印に、新生南アフリカが国際舞台でますます重要な役割を演じつつも、次代を引き継いだターボ・ムベキ政権が取り組まざるを得なかった途方もない課題——「奴隷制、征服、およびアパルトヘイトによって三世紀半にわたって形成されてきた多様な文化をもつ人々をつくりかえ、平和的で公正な社会を築いていくという恐るべき事業」——と直面している現在の苦境を情け容赦なく抉っている。
(…後略…)