目次
巻頭のことば ワーキングプア問題の解決をめざして(福原宏幸)
特集●現代日本における貧困の特質をどうとらえるか
貧困をめぐる社会構図の転換——現代日本の貧困の特徴(中川清)
現代の消費・生活様式の特質と貧困(馬場康彦)
ひとり親家族から見た貧困(岩田美香)
雇用・失業の視点から見た現代の貧困——流動化する不安定就業に着目して(伍賀一道)
ホワイトカラーの非正規労働者化と貧困化——「就業構造基本調査」の分析を中心に(森岡孝二)
「貧困」から見た現代日本と開発途上国(野上裕生)
小特集●貧困研究の課題
〈I〉在日外国人・帰国者の生活と貧困
1.在日ブラジル人世帯の貧困(小内透)
2.中国残留日本人孤児に見る貧困——歴史的に累積された剥奪(浅野慎一)
〈II〉現場から望む研究課題
1.「生存権裁判」から貧困研究に対する要望(舟木浩)
2.「ハウジングプア」という問題系(稲葉剛)
この人に聞く 第3回
今野晴貴(POSSE)/藤田孝典(ほっとポット) 労働と福祉の分野から貧困問題に迫るNPO活動(インタビュー:岩田正美)
投稿論文
北海道における救護施設利用者の分析——研究ノート——(福間麻紀)
書評論文
湯浅誠・冨樫匡孝・上間陽子・仁平典宏編著『若者と貧困——いま、ここからの希望を』(山田勝美)
藤本典裕・制度研編『学校から見える子どもの貧困』(金澤ますみ)
海外貧困研究動向
ドイツにおける貧困をめぐる動き(嵯峨嘉子)
国内貧困研究情報
1.注目すべき調査報告書を読む
タクシー運転者、介護職、季節労働者、官製ワーキングプアの調査研究(川村雅則)
2.興味深い統計と数字の動きを見る
パネル研究から見た日本の貧困動態(濱本知寿香)
貧困に関する政策および運動情報 2009年1月〜2009年6月(村上英吾/五石敬路/鳥山まどか/松本一郎/北川由紀彦)
貧困研究会規約
原稿募集及び投稿規程
編集後記
前書きなど
ワーキングプア問題の解決をめざして(福原宏幸:大阪市立大学)
1.ワーキングプアが多い日本社会
2005年OECDが、日本の相対的貧困率は15.3%と先進諸国の中でアメリカに次ぐ数値になったと報じたことは、記憶に新しい。このOECDが最近刊行した『雇用アウトルック2009』において、日本ではワーキングプアが貧困層の80%以上を占め、OECD諸国平均の63%を大きく上回ることが報じられた。これは、日本の貧困の大きな特徴が、労働者の不安定化と貧困化にあることを示している。
2.民主党の貧困対策
さて、政権交代によって登場した民主党政権は、マニフェストの中で、貧困への対応策をいくつか示した。まず、「子育て・教育」では、子ども手当、公立高校生への授業料無償化、生活保護の母子加算の復活などを掲げた。「雇用・経済」では、雇用保険の適用を非正規労働者へ広げるとともに求職者支援制度を柱とする雇用のセーフティネットの拡充、常用雇用の拡大・製造業派遣の原則禁止、最低賃金引き上げと均等待遇などを示した。とくに、求職者支援制度は、雇用保険と生活保護との間をつなぐ第二のセーフティネットと位置づけられ、失業給付終了者や自営業廃業者への能力開発手当の支給などの導入を掲げた。これらは、ワーキングプアの雇用と賃金の安定をめざすものである。
子育て・教育と雇用に向けたこれらの施策が速やかに実施されることを期待したい。しかし、貧困に対する最も重要な政策である最低生活保障制度の改善・改革が取り上げられなかったのは残念である。今日、生活保護制度は、貧困者すべてに対し、利用しやすい最低生活保障へ、また彼らの社会・経済への参加と生活の自立を支援するものへ向けた改革が求められているのである。
3.ワーキングプア問題へのアプローチ
ところで、ワーキングプア対策として示された雇用施策には、有効性があるのだろうか。労働者の貧困は、一つは非正規という雇用形態や高い失業の可能性といった雇用の不確かさ(雇用の“不安定さ[プレカリアスネス]”)に起因し、もう一つは、低賃金、単純な繰り返し労働、企業内での信頼できる人間関係のなさ、仕事ぶりに対する低い評価、将来の見通しのなさなど、労働とその管理に起因する不安定さ(仕事の“不安定さ[プレカリアスネス]”)によってもたらされる。
前者に対して、民主党は、雇用保険、常用雇用の拡大と製造業派遣の禁止を打ち出し、後者には、最低賃金引き上げと求職者支援制度を掲げたのである。
この求職者支援制度は、日額3300円の能力開発手当を2年限度の支給でもって、貧困を予防するものであり、最低所得保障と職業訓練をセットにした欧州諸国のワークフェアに似た政策である。これが実施されれば、日本の雇用政策転換の大きな節目となるだろう。
しかし、これが効果を発揮するには、いくつかの課題があるだろう。社会的な職業資格制度がない中で、職業訓練で得た能力はきちんと評価されるだろうか。これまで単純な仕事の担い手を求めてきた雇用主側が、質の高い仕事を提供するのだろうか。さらには、貧困と社会的排除の中で自尊感情や社会への参加意欲がそぎ落とされ、その回復という課題を抱える求職者の問題もある。制度的枠組みの議論と併せて、その就労支援の内実をどう構築するのかが、検討されなければならない。