目次
はじめに
用語・略称
第1章 障害者福祉改革と障害者自立支援法
1 問題の所在——障害者自立支援法をめぐる現状
2 障害者福祉改革の展開 I ——介護保険法の成立と障害者福祉施策の展開
3 障害者福祉改革の展開 II——社会福祉基礎構造改革の展開と支援費制度の導入
4 介護保険・支援費制度の財政問題と統合案の浮上
5 支援費制度から障害者自立支援法へ
6 障害者自立支援法の見直しと障害者福祉改革の特徴
第2章 障害者自立支援法による応益負担化と障害者の権利
1 問題の所在——障害者福祉の応益負担化
2 障害者福祉における費用徴収制度の変遷とその特徴
3 支援費制度のもとでの費用負担
4 障害者自立支援法による応益負担の導入
5 障害者の権利保障からみた応益負担化
6 応益負担制度の廃止と10割給付の実現——むすびに代えて
第3章 障害者自立支援法の給付と福祉サービス請求権
1 問題の所在——障害者自立支援法と福祉サービス請求権
2 障害者福祉措置制度のもとでの障害者の福祉サービス請求権
3 障害者自立支援法の給付とサービス利用の法律関係
4 障害者自立支援法のもとでの福祉サービス請求権の諸問題
5 障害者自立支援法のもとでの福祉サービス請求権保障の法的課題
6 給付抑制の中の福祉サービス請求権——むすびに代えて
第4章 支給決定・障害程度区分認定と障害者の権利
1 障害者自立支援法における支給決定・障害程度区分認定
2 支給決定・障害程度区分認定の手続き
3 支給決定・障害程度区分認定と障害者の給付受給権
4 支給決定・障害程度区分認定と障害者の申請権・手続的権利
5 支給決定・障害程度区分認定と障害者の争訟権
6 障害者の権利保障からみた支給決定・障害程度区分認定の法的課題
第5章 障害者自立支援法と障害者の権利擁護
1 障害者福祉の契約化と権利擁護の問題
2 「権利擁護」の定義と権利擁護システム
3 障害者自立支援法令による障害者の権利擁護
4 関連法制による障害者の権利擁護
5 障害者の権利擁護システムの課題
6 障害者自立支援法と障害者の権利擁護システム
第6章 障害者自立支援法のゆくえと展望——高齢者・障害者総合福祉法の展望
1 障害者自立支援法改正法案の概要と問題点 I ——利用者負担の見直し
2 障害者自立支援法改正法案の概要と問題点 II——障害程度区分の見直しなど
3 民主党の障がい者総合福祉法構想
4 介護保険法の現実とその限界
5 厚生労働省の介護保険見直しの動向とその限界
6 障害者自立支援法のゆくえと課題
引用・参考文献
あとがき
前書きなど
はじめに
(…前略…)
社会保障のなかでも社会福祉分野については、2000年4月から施行されている介護保険法をモデルに、従来の仕組みが大きく変えられた(福祉の介護保険化。第1章参照)。それは福祉サービスを商品化し(だからこそ、利用者負担は応益負担となるのだが。第2章参照)、福祉給付(現物給付)についての公的責任を事実上消滅させ(第3章・第4章参照)、福祉を必要とする人々(高齢者や障害者、子ども)を儲けの対象にする政策と要約することができる。障害者福祉の分野で、それを実現したのが、本書が考察の対象とする障害者自立支援法(平成17年法律123号)である。今回の選挙で、そうした新自由主義的政策は否定されたはずなのに、なぜか社会福祉の分野では、いまだに推進されようとしている。確かに、民主党は、政権公約(マニフェスト)において、障害者自立支援法の廃止を打ち出したが、そのモデルとなった、まさに福祉の市場化を進めた介護保険法については推進の立場だし、障害者自立支援法についても、当選議員も含め詳しい議員がほとんどおらず関心が薄く、廃止の公約が実現するか不透明な状況にある(第6章参照)。
しかし、障害者自立支援法は、わずかな年金だけで生活している障害者に過酷な負担を強い、介助を必要とする障害者に対して必要なサービスを打ち切り、障害者から生きる気力さえも奪い取っている。障害者自立支援法の諸問題は、障害者の生存権侵害、さらには人権問題として捉えられる必要があり、そうした人権問題化している諸問題にこそ、研究者や法律家の目が向けられるべきである。実際、障害者自立支援法の応益負担を憲法違反とする障害者自立支援法訴訟が各地で提訴されている(第1章参照)。一方で、法律家の動きに比べ研究者の反応は鈍い。むしろ、現場で生じる問題を十分検証しないままに、厚生労働省の考え方を追認し、制度解説に終始する研究者が目立っている。障害者自立支援法の解説書はあるものの、それを批判的に検討した書籍はきわめて少ない現状が、その事を物語っている。その意味で、いまこそ、障害者自立支援法訴訟の理論的支柱となるような研究が求められているのではないかと思われる。本書では、以上のような問題意識から、障害者の権利保障という観点から、障害者自立支援法の諸問題を考察し、障害者自立支援法の廃止とそれに代わる新たな総合福祉法を展望した試論である。
具体的には、まず、第1章で、障害者自立支援法をめぐる現状を踏まえ、支援費制度の導入から障害者自立支援法の成立、さらに障害者自立支援法改正法案の廃案に至るまでの障害者福祉改革の動向を概観し、その特徴と問題点を指摘する。ついで、第2章では、障害者自立支援法の最大の問題ともいえる福祉サービスの応益負担化の問題を、障害者の権利保障という観点から考察する。そして、第3章では、障害者自立支援法の給付の特徴と問題点を、障害者の福祉サービス請求権の観点から考察し、第4章では、障害者自立支援法の給付決定の仕組みである支給決定・障害程度区分認定の問題を、障害者の給付受給権や申請権・手続的権利の観点から考察する。第5章では、障害者自立支援法のもとでの障害者の権利擁護の問題を、成年後見制度など関連制度も射程に入れつつ、考察する。最後に、第6章で、障害者自立支援法とそのモデルとなった介護保険法のゆくえと、それらに代わる新法(高齢者・障害者総合福祉法)の制定に向けての課題を展望してみたい。