目次
                     謝辞
 読者へ
 舞台裏——序にかえて
第1幕 社会的思考の二つの視点
 1 私の世界は私のなすこと——テンプル・グランディン
 2 社会意識のもうひとつの視点——ショーン・バロン
第2幕 二つの思考・二つの道
 自閉症的思考は社会理解にどう影響するか
 幕間
第3幕 人間関係の暗黙のルール10ヵ条
 1 ルールは絶対ではない。状況と人によりけりである。
 2 大きな目でみれば、すべてのことが等しく重要なわけではない。
 3 人は誰でも間違いを犯す。一度の失敗ですべてが台無しになるわけではない。
 4 正直と社交辞令とを使い分ける。
 5 礼儀正しさはどんな場面にも通用する。
 6 やさしくしてくれる人がみな友人とはかぎらない。
 7 人は、公の場と私的な場とでは違う行動をとる。
 8 何が人の気分を害するかをわきまえる。
 9 「とけ込む」とは、おおよそとけ込んでいるように見えること。
 10 自分の行動には責任をとらなければならない。
 エピローグ
 訳者あとがき
 参考文献
                 
                
                    前書きなど
                    訳者あとがき
 本書は The Unwritten Rules of Social Relationships(二〇〇五年)の全訳です。自閉症スペクトラム障害のあるテンプル・グランディンとショーン・バロンの二人を語り手とし、編集者が全体をまとめるというユニークな構成になっています。
 テンプルが誕生した一九四七年当時、自閉症はまだよく知られていませんでした。二歳で脳障害と診断された彼女が社会人として自立するまでの歩みを綴った著書『我、自閉症に生まれて』(学習研究社)は、自閉症のある人による自伝として大きな反響を呼びました。現在、テンプルはコロラド州立大学で教鞭をとり、家畜施設設計の第一人者としても知られています。
 もう一人の語り手ショーンは一九六一年生まれで、三歳のときに自閉症と診断されました。両親の支えのもと、困難な症状を徐々に克服しながらコミュニティカレッジを卒業。その後、老人介護施設の職員を経て、一九九二年、母親と息子それぞれの視点から生い立ちをふり返った母ジュディとの共著There's a Boy in Hereを出版し、現在はフリーライターとして活躍中です。
 自閉症は社会性やコミュニケーションにまつわる障害で、場の雰囲気や暗黙の了解を察するのが苦手というのが特徴の一つです。本書のテーマである「人間関係の暗黙のルール」は、自閉症のある人にとってもっとも不可解な領域といえるでしょう。
 本書の10のルールは、自閉症のある人が社会性を身につけていくうえで、ぜひ留意すべき大原則を、テンプルとショーンが自身の体験から導き出したものです。たとえば二人とも自閉症スペクトラム障害のある人にありがちな「白か黒かの二者択一的思考」のために、さまざまな社会的場面でつまずき、やがて「ルールは絶対ではない。状況と人によりけりである(ルール 1)」ことに気づきます。また場面が読めずに他人を傷つけ自ら傷ついた経験から、「正直と社交辞令とを使い分ける(ルール 4)」「やさしくしてくれる人がみな友人とはかぎらない(ルール 6)」ことを理解していきます。
 また本書は、同じ自閉症とはいえテンプルとショーンにいかに大きな違いがあるかを浮き彫りにしています。テンプルはこれを「感情的つながり」という独自の視点から説明します。幼いときから愛し愛される関係を切に求めながらも、奔流のような感情に翻弄されるショーン。一方、すべてを論理的・分析的に思考し、他者と感情的な絆を結ぶことが自分の人生の最大の関心事ではないというテンプル。また彼女はこの社会で他人と協調して生きるのに必要な基本的社会生活能力の習得を強調しますが、ソーシャルスキルの訓練において、社会生活能力と感情の交流の問題が一律的に扱われていないかと疑問を呈しています。
 テンプルとショーンは異なる道をたどりながらも、それぞれ社会性を身につけ、才能を開花させて充実した人生を歩んでいます。ソーシャルスキルの勉強は一生続くとして、挫折を繰り返しながらも努力し、成長し続ける姿には感動させられます。また私たちとは異なる視点から読み解かれた人間関係の暗黙のルールの世界に、訳者自身、さまざまな再発見をさせられました。「誰しも互いに貢献できるものを豊かにもって」いて、「パレットにたくさんの色があるほど、美しい世界を創り出せる」ことを信じられる気がします。著者らの願いの通り、本書が自閉症スペクトラム障害のある子どもを育てる方々へのヒントとなるなら、これ以上喜ばしいことはありません。
(…後略…)