目次
はじめに
I.韓国近現代史の理解
I −1.近代社会の胎動
I −2.近代社会の特性
I −3.現代社会の正しい理解
争点で見る歴史——経済発展と民主主義についての二つの見解
II.近代社会の展開
II−1.外勢の侵略的接近と開港
1.19世紀後半の世界
2.王権を強化した興宣大院君
3.和親をすれば、それは国を売ることである
4.開港と不平等条約体制
中単元のまとめ
II−2.開化運動と近代的改革の推進
1.開化思想の形成と開化勢力の台頭
2.開化政策の推進と反発
3.甲申政変——初めて近代国家の建設を試みる
4.歴史の渦の中で推し進められた甲午改革
中単元のまとめ
II−3.救国民族運動の展開
1.東学農民運動の展開
2.独立協会の活動と大韓帝国
3.燃え上がる義兵戦争の炎
4.ゆれ動く愛国啓蒙の波
中単元のまとめ
II−4.開港以後の経済と社会
1.列強の経済侵奪
2.経済的救国運動の展開
写真で見る歴史——黄布帆船と蒸気船
3.平等な世の中に進もう
4.生活のようすの変化
絵で見る歴史——西洋人の目に映った100年前の私たちの姿
中単元のまとめ
II−5.近代文物の受け入れと近代文化の形成
1.東道西器号に近代文物を載せて
写真で見る歴史——京義線100年、統一の希望へ
2.言論の発達
新聞で見る歴史——「この日に声をあげて、痛哭する」
3.近代教育と国学研究
4.文芸と宗教の新しい傾向
小説で見る歴史——親日文学の先駆者李人稙
中単元のまとめ
大単元のまとめ
III.民族独立運動の展開
III−1.日帝の侵略と民族の受難
1.20世紀前半の世界
2.日帝の侵略と国権の被奪
3.民族の受難
4.経済収奪の深化
5.まだ進行中の軍隊慰安婦論争
中単元のまとめ
III−2.3.1運動と大韓民国臨時政府
1.3.1運動以前の国内民族運動
2.わが民族の独立の意志を全世界に知らせた3.1運動
3.民族の願いを集めて、臨時政府を打ち立てる
中単元のまとめ
III−3.武装独立戦争の展開
1.疲れを知らない抗日の波、先頭に立つ学生たち
2.一身を捧げて、独立を達成できるならば
3.武装独立戦争を準備する
4.独立戦争の波が沸きあがり
5.苦難と逆境を切り開く
6.団結して、光復の道に!
人物で見る歴史——カザフの砂漠に埋められた独立戦争の英雄 洪範図
中単元のまとめ
III−4.社会・経済的民族運動
1.理念と路線の違いを乗りこえて
2.実力を養って独立を
3.農民と労働者が立ち上がる
小説で見る歴史——『岩泰島』
4.国外移住同胞の活動
事件で見る歴史——間島惨変と関東大震災時の韓国人虐殺
中単元のまとめ
III−5.民族文化守護運動
1.日帝の植民地文化政策
2.国学運動の展開
3.宗教と教育活動
小説で見る歴史——『レディーメイド人生』
4.文学と芸術にこめられた民族の魂
写真と絵で見る歴史——写真と絵で見た1930年代
中単元のまとめ
大単元のまとめ
IV.現代社会の発展
IV−1.大韓民国の樹立
1.第2次世界大戦以後の世界
2.取り戻した山河、分けられた南と北2
3.冷戦の現実の中で統一国家の夢破れ
4.同族相残の悲劇が起きる
中単元のまとめ
IV−2.民主主義の試練と発展
1.4.19革命
2.5.16軍事政変
3.民主主義の試練と民主の回復
漫画で見る歴史——新聞漫画を通して見た韓国現代史1・2
中単元のまとめ
IV−3.統一政策と平和統一の課題
1.6.25戦争後の北韓の変化
2.7.4南北共同声明——対話と協力を固く誓ったのだが……
3.民族の希望、平和と統一に向かって
中単元のまとめ
IV−4.経済の発展と社会・文化の変化
1.経済混乱と戦後復旧
2.目覚ましい経済成長、資本主義の発展
3.現代社会の変化
史料で見る歴史——国民教育憲章
ドキュメンタリーで見る歴史——在日同胞の「本名宣言」
4.多様で豊かになったわが国の文化
映画で見る歴史——映画から見た韓国現代史50年
中単元のまとめ
大単元のまとめ
訳註
索引
資料一覧
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
本書は、『高等学校韓国近現代史』(大韓教科書)の翻訳である。この教科は、韓国の高校生が2、3学年で学んでいる。そして、教科書が検定であるため、複数(6社——金星出版社、大韓教科書、斗山東亜、法門社、中央教育振興研究所、天才教育)の教科書が出版され、各学校で採択が行われている。訳者が関わって翻訳してきた、初等学校(日本の小学校にあたる)『社会』(『韓国の小学校歴史教科書』明石書店、2007年)、中学校『国史』(『韓国の中学校歴史教科書』同、2005年)、高校『国史』(『韓国の高校歴史教科書』同、2006年)はすべて国定で1種類しか教科書が発行されていなかったため、選択の余地がなかった。しかし、韓国近現代史教科書は検定であるため、どの教科書を翻訳することが日本の読者にとって有益であるかを考え、大韓教科書のそれを選んだ。それは、本書を一読すれば理解できると思うが、他の教科書と違ってはっきりとした特徴があるからである。その特徴とは、一言で「史資料に語らせる」ことである。
例えば、「IV−3 統一政策と平和統一の課題」の「3.民族の希望、平和と統一に向かって」では、本文で「2000年5月、平壌の子どもたちが分断後初めてソウルを訪れた。ソウルの子どもたちと平壌学生少年芸術団の子どもたちは抱き合って『われらの願いは統一、夢でも願いは統一』と統一の歌を歌った。南韓と北韓の子どもたちが思いのままに往来することができる国をつくるために私たちがしなければならないことは何だろうか」と問題を提起し、「第1次南北体育会談」「北から来た息子と会う父」「韓民族共同体統一方案」「手を握りかかげた南と北の総理」「南北韓の国連同時加盟直後の国連本部の前にかけられた太極旗と人共旗」「仁川港で出航の準備をする米輸送船」などの資料を見て高校生が考えて、発表したりするように教科書全体が編まれている。
これは、極めて斬新な教科書づくりといえる。日本や韓国でこうした教科書を探すのが困難なほどである。学校教育を覆っている「正解主義」からの脱却を図っているかのようである。
日本でも韓国でも歴史学習は「暗記」だとする思い込みが強いが、その根底をなすものが「正解主義」である。そこには、教科書には正しいことが記述されているのだから、それを学習するということは、すなわち「暗記」することだというメッセージが隠されている。そして、それを支えているのは、真実は常に自分とは関わりのない所に存在するという、極めてペシミスティックな歴史意識である。そうした歴史教育は高校生を含む子どもたちに何をもたらすのだろうか。真実を求めて真に追求している多くの研究をないがしろにし、さらには子どもたちに歴史学習は単に受験のためと割り切らせ、そうした「正解主義」を再生産させる役割しか果たさないことになる。そして、皮相的な、現状肯定の社会認識を育てることにつながっていくのである。
歴史認識を豊かなものにする学習とは、そうした地平から脱した所にある、というのが訳者の考えである。教科書の記述をめぐって、本当にそれが正しいかどうか、吟味する授業が構想されなければならないだろう。訳者の経験でも、例えば「モンゴル襲来」の学習で、文永の役の時暴風雨が元軍を全滅させたという資料集の記述と暴風雨に触れていない教科書の記述の違いを発見した中学生は、それぞれに手紙を送り、結局資料集の記述を訂正させた。訂正部分はわずかではあったが、それでもたいへん満足そうであったし、そうした学習を通して、当時の日本と元の関係はどうであったのか真剣に考えていった。
(…中略…)
最後に、この「韓国近現代史」という教科は、2003年3月に登場し、2013年2月に完全に消えることになる。『改訂第7次教育課程』が2007年に告示され、教科が再編成されて「韓国近現代史」は教科としては消えるからである。「国史」が「韓国史」となり、高校選択科目では、「韓国近現代史」がなくなり、「世界史」が「世界歴史の理解」と名称を変え、「韓国文化史」と「東アジア史」が新設される。そして、重要なことは、国定が廃止され、すべて検定へと移行することである。
すでに、韓国の教師たちの、新しい教科書づくりをめざした取り組みも始まっていると聞いている。自国史を礼賛するだけの教科書では、未来の主人公である子どもたちの歴史認識を豊かに育てる教育にとって障害となるだけである。日本でも、韓国でも、教育を取り巻く環境が悪化していることは事実である。特に、競争主義の蔓延と、それを後押しするかのような国家による「一斉テスト」の強制は、教育とはどうあるべきかを真剣に考えさせるものとなっている。
(…後略…)