目次
監訳者まえがき
序論 異なる政策間のより強固な連携の構築にむけて
第1章 多様性、インクルージョン、公正——特別な要求への資源提供に関する考察
1 はじめに
2 公正とインクルージョン
3 特別な要求に対する教育の提供に関しての国際データ
4 公正な教育努力の創出
5 結論
付表 各国の資源提供の定義に含まれる障害、困難、社会的
不利のある生徒の各カテゴリーの該当範囲、1999年
第2章 キャリア・ガイダンス——先駆的方法
1 はじめに
2 キャリア・ガイダンスの現在
3 キャリア・ガイダンスは、なぜ公共政策にとって重要なのか?
4 意思決定からキャリア・マネジメント・スキルへ——教育政策における課題
5 成人のためのアクセスを拡大すること
6 結論
付表 OECD加盟諸国の学校教育カリキュラムでのキャリア教育の位置づけ
第3章 高等教育ガバナンスの転換期の形態
1 はじめに
2 機関の自律性
3 資金
4 教育水準の査定
5 教育機関のガバナンス
6 教育機関のリーダーシップ
7 結論
付表 各国における大学自律性の詳細
第4章 成人の生涯学習が持続するために
1 はじめに
2 成人学習——生涯学習の枠組みにおける弱い関係
3 経済的な持続可能性の評価
4 財源を持続可能なものとするために
5 結論と政策課題
付録 OECD加盟各国における最近の教育政策の展開
前書きなど
監訳者まえがき
本書は、OECD(経済協力開発機構)の教育政策分析2003年版(Education Policy Analysis 2003 Edition)の全訳書である。
本書では、所与の条件や所得や教育歴の多寡によって諸個人に格差ができないように教育機会を実質的に公平にするにはどうしたらいいのかを探ることを主要テーマとしている。ただしそのための資源は限られているから、その限りある資源をどのようにすれば適正に配分できるのか、各国ごとの工夫やアイディア、取り組みなどを紹介し、それらを比較検討することで、新たな政策を各国が模索できるような配慮をしている。
本書の構成は以下のとおりである。
・特別な支援を必要とする子どもたちへの教育の現状に関する比較分析(第1章)
・各国のキャリア・ガイダンス施策とその政策的意義に関する研究(第2章)
・高等教育機関が財政面での自律性を保ち質保証がおこなわれるための新たなガバナンスとは何かの検証(第3章)
・成人による生涯学習が経済的に成功するために各国でとられている施策の比較(第4章)
各テーマの内容については日本でも新しい取り組みが始まっている。特別支援教育については2004年8月に中教審の中間まとめが出され、2006年の学校教育法改正でそれまでの盲学校、聾学校、養護学校を特別支援学校に、特殊学級を特別支援学級に改称している。またキャリア・ガイダンスについては、昨今の若年労働者の雇用形態の問題ともあいまって、文部科学省がキャリア教育として近年特に重点的な取り組みをはじめている。高等教育のガバナンスの問題は、本文中にとりあげられている国立大学の法人化に見るまでもなく、ここ20年の間に日本中の大学を巻き込んだ大嵐を吹き起こし続けてきた。成人による生涯学習については、2007(平成19年)度より「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」がはじまっている。
ただしそれらの諸政策が本当に適切な形でおこなわれているのかについては今後の継続的な検証が必要であろう。政策が適切であるかどうかの検証をする場合、他国の取り組みとの比較をおこなうのも重要な手段となる。たとえば、学習活動に対する支援を、学習者の意思を反映させるために学習者個人に対しておこなうのか、支援に係る事務費用を効率化するために教育機関に対しておこなうのか、といった選択は文化的背景にも左右されるだろうが、教育システム全体の効率化という視点で考えられる必要がある。個人支給をベースにしたためにニーズの少ない機関が廃業に追い込まれ、教育機関の地域的偏在が生まれる危険もある。その一方で、機関支給に甘んじて各教育機関が教育訓練の質の向上を図れないようでは、資源の適正な配分はおこなわれないことになる。常に具体的なところでの検証が必要となるであろう。
OECDでは2002年9月に教育局を教育・雇用・労働・社会問題局から独立させた。これはOECDが教育の問題をより重要視しはじめたことを意味する。本書はそれから最初の教育政策分析になる。教育政策というものは、みずから思考し行動する個人に対する政策であることを前提とする。第2章のキャリア・ガイダンスの問題も、第4章の成人の生涯学習の問題も、強硬な市場主義者であれば、就労も再訓練も労働市場のメカニズムに任せておけばよいということになってしまう。しかしながら現実の人間は迷う。その迷いに対して、それぞれの国がどのような政策提案をしているのか本書によって比較できるだろう。また第1章と第3章とでは、特別支援教育や高等教育を財政面から分析している。少ない資源の下で教育効果を最大にするためのシステムを各国ではどのように構築しているのか。そこからは各国の教育観の相違(たとえば第1章)と共通した傾向(たとえば第3章)とが見えてくるであろう。