目次
謝辞
図表一覧
第1章 序論
〈教育改革における学校、学区、地域、州および連邦の連携〉
第2章 学校の有効性と改善
〈一般的な学校、困難な状況における学校および公正志向の学校の実践と有効性〉
第3章 学区レベルの改革努力
〈都会の改革の開発・履行および学区の役割〉
第4章 地域社会レベルの改革努力
〈地域の能力と役割および生徒の学業成績〉
第5章 州レベルの改革努力
〈州の学校改善政策の開発・履行、役割および説明責任〉
第6章 改革計画チームの役割
〈計画チームの役割、影響および包括的学校改革モデル〉
第7章 改革努力における連邦政府の役割
〈公立学校教育における連邦の政策、資金および説明責任〉
第8章 有効な改革のための組織統合の研究における方法論的問題
〈チャータースクールの供給と運営、およびバウチャー制度への影響〉
第9章 討論と結論
〈学校選択・個人指導制度への抵抗、学校での履行、制度上の制約および解決策〉
訳者あとがき
参考文献
索引
前書きなど
訳者あとがき
(…前略…)
本研究の主な内容
著者たちはまず、言語的、民族的および経済的多様性は、学校改革が地元レベル、州レベル、政府レベルでどのように成し遂げられるべきかに影響を及ぼす主な要因である、と述べている。その上で、多様な地域社会における教育改革の問題を調べている。本研究は、特に人種的・言語的に多様な生徒たちにふさわしい教育研究を初めて総合したものである。つまり、多文化的、多言語的環境において教育改革が成功するために、教師、学校、学区、州および連邦の各レベルで求められることを調べている。結論は、多様な地域社会における教育改革に関わる何百もの最近の量的・質的研究に関する周到な検討に基づいている。著者たちは、教育を相互に関連しており、かつ独立した政策制度として概念化し、危機に瀕している生徒たちを教える学校における持続可能な改善を達成するのに役立つ重要な政策上の結びつき、特定関係上の結びつき、政治的結びつきおよび資源上の結びつきを論じている。
結語—教育改革への貴重な示唆
原著が与える日本の教育改革への示唆のうち、重要な三つを挙げておきたい。第一は、第9章で著者が、教育改革における重要点を次のように明解に説いていることである。
成功する改革努力には、少なくとも三つのレベルのしっかりした指導力—学区、校長および教員—が必要である。これらのレベルの一つで支援がない場合、あるいは重要な地位の指導者たちに人事異動による再編成がある場合、協議議題と資源がすぐに変わるので、改革の持続可能性はしばしば台無しにされる。指導力はまた、教育委員会委員、地域社会委員、学区の局長、指導的教員、大学、校長、および可能ならば生徒の間で分配する必要がある。明らかに、州発案の諸改革はまた州レベルの改革を必要としている。(p. 262)
最近日本でよく話題になる「確かな学力」の向上、特色ある学校づくり、学校・教員評価制度、特別支援教育などの課題を解決し、教育改革をいっそう推進する上でも、著者による上記の主張は非常に貴重な示唆である。
第二は、同じく第9章で、学校に向けられる連邦および州の政策の調停役として、学区の役割の重要性を指摘していることである。学区の指導者たちは、多様でひょっとすると一貫性のない説明責任制度による要求を調整しながら、変化の速い政策または一貫性のない政策から学校を守るのに役立つことができる、と説いている。さらに、次のように指摘していることに注目すべきである。これらの指摘も読者にとって非常に示唆に富むものである。
教室の指導と学習を改善し始めた学区は、次のようないくつかの要素を実施していた。特に、(a)一つの主要な目的—生徒の学習機会の向上—に焦点を合わせた教育委員会、学区事務局および学校のすべてにわたる安定したリーダーシップ。(b)巧みな、調和のとれた資源配分。学校の指導者はより多くの他の専門家とネットワークで接続された。(c)問題解決能力と計画立案能力に加えて、内容と方法の知識を含め、制度全体の能力が開発された。(d)物的資源と人的資源が供給された。(e)危機状況は最小限であった。信頼と協力の歴史が存在した。(f)学校レベルの自治と権威の両者、またはそのいずれかが組合の支持同様にあった。(g)データ利用技術が開発され、多様なデータ源が計画立案と意思決定を伝えるために利用された。(p. 274)
第三は、第4章で、地域社会レベルの改革努力が強調されていることである。日本においても、学校は家庭と地域社会と連携協力して、地域全体として子どもたちの成長を支えていくことが必要であることがよく論じられる。しかしこうした連携協力ははたして十分進展しているであろうか。このような重要な問題を検討する際に、本研究における次のような主張に注目すべきであろう。
学校改革は都市中心地の社会的再建から、あるいは貧しい、遠く離れた田舎の地域社会が直面する経済的諸難題から切り離して考えられない。(中略)非常に貧困な田舎の文脈と非常に貧困な都会の文脈において、教育者の直面する諸問題を別々に取り扱う。たとえば高い退学率、生徒の低い学業成績、利益供与政治、および非常に有能な教師を引き付ける難しさなどの、これらの文脈全体の共通点があるけれども、これらの地域社会に立ちはだかる、はっきりと異なる難題もまたある(pp. 106-7)。
学校改革がともすれば学校と教師、親のみの責任に帰せられる風潮の中で、上記のように地域社会の再建や経済問題にも言及して、国家的な大事業である教育改革を考察した著者の鋭い洞察から学ぶべき点は多い。最も重要な示唆は、著者たちが教育改革を単に変革のための変革でなく、むしろ教育改善を意図した革新と定義づけたうえで、改革・改善の過程で重要である組織のレベル(たとえば、学校、学区、地域社会、州、連邦など)間の結びつきを明らかにすることを重視したことである。
日本の教育に当てはめて考えてみたい。国は当然、学校、地域社会、教育委員会と連携して教育改革という大事業に取り組んでいる。国と関係省庁の任務が、改革の施策を立案し、教育委員会や学校へ伝達するだけでないことは自明である。資金を含む必要な人的・物的資源の支援を行い、施策の履行まで責任をもつことが求められている。
ところが、実際には国と関係省庁は、施策の立案と伝達までは行うが、そのあとのフォローが弱い場合が多いとも言われる。一番問題であるのは、フォローの体制がとれていない場合や、教育委員会にフォローを任せきりにしている場合かもしれない。学校と地域社会にとって最も不幸なのは、教育委員会も伝達機関になってしまい、フォローの役割を果たせない場合であろう。また、国—教育委員会—学校(校長—教師、保護者)という流れ・循環が、中央から学校への一方通行になってしまっているか、途中で止まってしまっている場合も懸念される。学校(校長—教師、保護者)のレベルから中央に実践結果がフィードバックされ、さらに学校へより改善された施策が伝えられ、資源を伴うより有効な履行へ進むという循環システムが確立されなければならない。こうした循環システムなしに、教育改革に十分な成果は期待できないと言えよう。今述べた趣旨からも、学校、学区、地域社会、州、連邦間の結びつき・関わりを重視し、米国の教育改革の理論と実践を近年の主な研究に基づいて検討した原著の多くの示唆は、国・地域を超えて普遍的であり貴重である。
現在、実際に日本の教育改革と学校改善を成功させるためには、第一に、公教育の目的、公共性と機会均等などの観点から再検討する必要がある。第二に、学校の教育活動をいっそう充実させるために、必要な人的・物的資源や学校・地域における協力体制を保証することが求められている。第三として、学校、特に教師と保護者、地域社会へのいっそうの支援が必要である。こうした意味からも著者の示唆はいっそう重要である。また、市場化、民営化、IT化・グローバル化へ向かっていると言われる日本の教育を、国連の世界人権宣言が述べたように、「人格の十分な発達と人権と基本的自由尊重の強化」を目指す観点から再検討する上でも、これらの示唆はすべての人々にとって重く、普遍的である。
(…後略…)