目次
図表・写真一覧
主要単語
表記法
初出一覧
第 I 部 序論
第一章 先行研究と問題提起
一 はじめに
二 オセアニアにおける社会運動の研究——メラネシアを中心に
三 フィジーにおける社会運動の研究
四 問題提起
五 本論の構成と用いられる資料
第二章 フィジーの概説
一 フィジー概説
二 フィジー内部の多様性
三 フィジー略史
四 最後に
第 II 部 フィジーにおける協同組合の導入過程
第三章 初期間接統治体制の成立とフィジー社会の変化
一 植民地化以前のフィジー社会
二 フィジー初期間接統治体制の形成
三 原住民行政の形成とフィジー社会の組織化
四 最後に
第四章 協同組合の導入過程
一 協同組合の導入以前(一九四七年まで)
二 協同組合の導入過程(一九四七年以降)
三 協同組合導入初期の問題点とその解決への提案
四 最後に——フィジー人に適した開発とは何か
第III部 ラミの歴史的展開
第五章 ラミの活動展開
一 問題提起
二 ラミ以前の先駆的活動
三 ブラ・タレの誕生と脱「伝統」運動の成立(一九六一年一月十日—八月)
四 ブラ・タレ共産党期の活動(一九六一年八月—一九六二年六月)
五 ラミの活動展開
六 考察——ラミの発生原因再考
七 最後に——植民地政府の政策との並行面
第六章 ラミ運動の活動初期の一側面——「共産党宣言」をめぐる混乱
一 ブラ・タレの誕生
二 ブラ・タレの分裂
三 ラミの追放——地域社会での軋轢
四 最後に——問題系としての共産主義
第IV部 ラミの民族誌
第七章 ラミの儀礼的実践の現在
一 先行研究でのラミの「伝統」改変の論理
二 研究の背景
三 「伝統」の改変としてのラミの儀礼的実践
四 ラミにとってのフィジーの「伝統」
五 最後に
第八章 ラミ退会者の動向
一 はじめに——ラミからの退会
二 退会に至る手順と退会後の行動
三 ラミ退会者の各出身村落における生活
四 出身村落以外でのラミ退会者の生活
五 考察——ラミ退会後の居住地と新宗教への改宗に着目して
六 最後に——「伝統」でもラミでもなく
第V部 ラミ運動とフィジー人の「伝統」
第九章 フィジー人開発モデルとしての協同組合
一 はじめに——フィジー人開発モデルとしてのダク村落
二 ダクにおける開発の展開
三 考察——ダク運動からみる開発概念
四 結論
第十章 ダク村落との比較の視点からみたラミ運動の特質
一 ラミ、ダクと協同組合
二 ラミとダクの差異——両者を扱うメディアと研究者の検討から
三 最後に
第VI部 結論
第十一章 総括と結論
一 総括
二 社会運動研究におけるラミ運動
三 土着の開発概念とは何か——ラミ運動からみた開発の概念と伝統の改変
四 あらたな社会関係の創出と社会運動の宗教的側面
五 最後に
参考文献
一次資料
二次資料
あとがき
索引
前書きなど
第一章 先行研究と問題提起(一部抜粋)
(…前略…)
五 本論の構成と用いられる資料
本論は全VI部からなる。第 I 部である序論では、本論の対象とするラミ運動が、学問上分類される社会運動に関する人類学的研究について整理する。
第II部では、フィジーにおける協同組合の導入過程の記述に紙幅が割かれる。まず、その背景の説明として、先住民を保護するフィジー初期間接統治体制の成立にともない、フィジー人が植民地内で自給自足的な生活を推奨する政策的傾向のもとにおかれた経緯を分析する。ついで、ラミ運動が生起した背景として、フィジーの開発を目的とする組織的な経済活動集団の形成という視点から、協同組合の導入過程を統計データに依拠しつつ記述していく。同時に、協同組合的活動を行っていた土着の組織として社会運動についても若干触れる。
第III部から、本論の主たる対象であるラミを取り上げる。第五章では、歴史的な活動展開という視点から、活動開始から現在までを通時的に検討していく。同時に、ラミ運動の先行研究を批判的に読み直して、その問題点を指摘する。ついで、第六章として、ラミ運動の転換点となった、またラミ運動のなかでも活動が顕著に変質した一時期であるブラ・タレ共産党の活動をその指導者(のその後)にも着目しつつ記述する。
第III部がラミの歴史的展開に関する箇所であったとすれば、第IV部は筆者の現地調査の時点でラミがいかなる活動を行っていたかに焦点をあてた、いわばラミの民族誌にあたる。まず、第七章は、歴史的な記述でも焦点のひとつとなっていた、ラミの特徴とされる儀礼的実践の記述にあてられ、そのうえでラミの活動から伺える伝統概念について考察を行った。またラミからの退会者、及び彼らの活動について、第八章で検討を加えた。ここでは、退会者の視点からラミの退会者の特質を見返すことで、ラミの伝統概念について明晰化することを目的とした。また、新宗教とのラミ活動との相関性についても論じた。
そしてこれまでの背景説明と筆者が提示したデータに基づいて、ラミ運動とフィジー人の「伝統」について論じたのが第V部である。考察に踏みこむ前に、ラミに先駆け、またラミの活動と重なる時期にフィジー政府、フィジー人からフィジー人にとっての開発モデルとまで称揚されたことのあったダク村落の協同組合に関するデータを提示する。第九章はラミの活動の可能性と特質を浮き彫りにするための補助線を引くことを目的としている。そしてこの補助線を利用して第十章では、ラミの特質を考察する。具体的には、ラミ、ダクはともに協同組合として活動していた期間があること、また、独自の開発運動として一定の成果を収め、フィジー人の伝統に対して改変を試みているという共通点を両者はもっていることを指摘した。そして、にもかかわらず、両者はフィジーにおいて対照的な側面をもちあわせ、一般からの評価という点でも対照的であることをあきらかにした。たとえば、フィジー西部で起きたラミ運動が反フィジー人的活動としてフィジー人から否定される傾向がある一方、フィジー東部で起きたダクは、概ねフィジー人の好む価値観を体現した活動として、肯定的に扱われている。同時に、こうした評価が分かれた原因についても一定の分析を試みている。
最後に、第VI部において、本書で提示したデータを踏まえて、社会運動研究史のなかにラミ運動を位置づけたうえで、ラミの活動からみえてくる土着の開発概念、彼らが生み出しているあらたな社会関係の特質を考察していきたい。
(…後略…)