目次
序章 大学教育の課題と本書のねらい(斎藤里美)
第1節 大学教育の課題と本書の意義
第2節 本書の構成
第1章 国境を越える高等教育の質保証とその課題(斎藤里美)
第1節 高等教育の質の保証をめぐる国際的背景
第2節 日本における高等教育の質保証とその背景
第3節 高等教育において保証すべき「質」とはなにか
第4節 質保証の可能性と課題
第2章 大学教育の質の保証と保障——高等教育政策史の視点から(藤本典裕)
第1節 課題の設定
第2節 戦前の高等教育とその質の問題
第3節 戦後教育政策のなかの大学——新制大学への役割期待とその変遷
第4節 大学に対する経済界からの期待——教育の経済への従属
第5節 大学の「大衆化」と教育の質——競争の質的変化
第6節 高等教育の新たな動向
第7節 保証と保障——大学のめざすべき方向
第3章 大学教育/学習論(杉山憲司)
第1節 大学をとりまく社会的・時代的背景
第2節 学生は大学に何を求めているか——教師の学生観/教育観の重要性
第3節 学習/動機づけ心理学と成人教育/生涯学習論からの示唆
第4節 大学教育/学習要因モデルと教育実践試案
第5節 授業場面から見た学習の質保証
第4章 大学教育と学生相談(篠崎信之)
第1節 学生相談の定義と動向
第2節 学生相談の実態
第3節 学生相談のモデル
第4節 これからの学生相談
第5節 学生相談の質保証
第5章 都会型大学におけるキャンパスアメニティ(鈴木哲郎)
第1節 快適空間——身体的視点から空間アメニティを考える
第2節 快適距離——人間関係に及ぼす「人と人の距離」を考える
第3節 個体距離と社会的距離
第4節 感覚器と快適距離・空間
第5節 都会における身体——身体疎外と都市化
第6節 快適空間と学生生活の質
第7節 現代の発達
第6章 地域連携型の大学教育とその展開——地域論からみたその意義と課題(小林正夫)
第1節 加速する大学と地域との連携
第2節 地域連携と地域社会
第3節 プロジェクト志向と現場主義による人材育成
第4節 地域連携型教育の実践に向けた課題
第7章 大学教育と就職——学生に対する出口の質保証(松村直樹)
第1節 卒業後の進路の実態
第2節 企業が求める人材要件
第3節 大学に求められるキャリア教育
終章 大学教育と質保証の課題(杉山憲司)
第1節 大学をとりまく国内・外の状況
第2節 大学戦略としての「質保証」とは
第3節 授業改善としての教育の「質保証」とは
あとがき(斎藤里美)
前書きなど
序章——大学教育の課題と本書のねらい
(…前略…)
第2節 本書の構成
本書は以下の7章から構成されている。
第1章では、今なぜ「高等教育の質保証」なのかを、国際的背景および日本国内の政策動向から整理する。また、高等教育政策のなかで語られる「質保証」の「質」や「保証」とは何を意味するのかを最近の国内外の政策文書から探り、この「質保証」システムがどのような課題を抱えているかを分析する。
第2章では、日本における高等教育の質保証政策とその変容のプロセスを高等教育政策史の視点から明らかにする。とくに、チャータリング(設置認可)とアクレディテーション(適格認定)の歴史に着目し、日本の大学(高等教育)の質がどのように問われ、確保されようとしてきたかをみる。従来、国家のための人材養成を果たしうるかどうかをメルクマールとして展開されてきた国民教育の質保証システムが、市場原理を背景とする大学側の自己統制へと移行していく変容のプロセスを描きたい。
第3章では、学習心理学の視点から現代の大学教育の前提となる学習モデルと学習環境デザインを論じる。大学教育における学習モデルはこれまで、研究・講義を通じて専門的知識が付与されると考える伝達型学習モデルが中心であった。ここでは、動機づけ理論および成人学習の研究成果から、学習者の自律性と参加を重視した協同型の学習モデルがより大きな学習成果を生み、学習成果の質保証につながることを示す。また、それを可能にするための学習環境とはどのようなものかについても具体的に提案する。
第4章では、臨床心理学の視点から、学生相談が大学教育の質保証にとってどのような意味をもっているかを問う。従来の学生相談は、大きな問題をもつ一部の学生を対象とした相談活動と位置づけられていたのに対し、ユニバーサル化した大学の学生相談は、大学入学者が「学生になること」を支援する活動の1つと位置づけられる方向に変化していることをここで指摘する。こうしたかたちで「学生相談」が大学の「教育」と接続していけば、学生相談の質が大学教育の質を左右する重要な鍵となるのである。
第5章では、キャンパスアメニティ(快適空間)の視点から大学教育の質とはなにかを明らかにする。とりわけ、狭隘な校地に立地する都会型大学は、そのアメニティが教育の質を大きく左右する。アメニティを考える際には、学生および教員のコミュニティ形成、学習支援、課外活動促進、人間関係形成などの視点が必要であり、それぞれの視点からの質の確保にはどのような条件が必要かを整理する。
第6章では、地域社会論とりわけ大学と地域とのコラボレーションの視点から大学教育の質を論じる。大学による社会貢献は、これまで、学術研究成果の開放を通じた地域との結びつきが大半であった。しかしここでは、地域の課題の解決に大学と地域とが連携・協力してあたる「コラボレーション」の可能性と課題を示す。こうしたコラボレーションは、学生と地域の人々との交流を活発にし、学生の主体的参加を促すだけではなく、大学教育の質とその意義が社会のなかで検証されることになるからである。
第7章では、学生に対するキャリア支援教育の視点から大学教育の質を論じる。人材流動化社会を前提にこれを考えれば、大学に求められるキャリア支援教育の質は、単なる就職率の高さでは測れない。したがって、キャリアを自律的に計画・管理していくための基礎的能力とはなにか、それを大学教育のなかにどのように組みこんでいくかを提案する。
日本の高等教育に関する研究は、これまで教育史研究、社会学研究、政策研究など理論研究を中心に発展してきた。また、教授法研究や大学評価論にも光があたるようになった。さらに1990年代後半から国立大学に高等教育研究を目的とする研究センターが次々設置され、1997年には高等教育学会が設立されるなど、高等教育研究はこの10年でめざましい広がりと進展を見せている。ただし、こうした高等教育研究に、当事者である大学教員が関与する機会は、必ずしも多くなかった。
そこで本書は、それぞれが日々大学教育の現場で実践し、追求してきた教育の「質」を、それぞれの専門領域から多角的に議論しようとしたものである。
「大学教育の質」を教員がどのようにとらえているのか、またそれを保証するためにどのような試みがなされているのかをあわせて伝えたい。