目次
はじめに
第一章 裁判言語モデル
1.裁判言語モデル
2.表層と深層の異質性
(1)英語の言語的特徴
(2)日本語の言語的特徴
(1)語彙と文
(2)専門用語
(3)論理の表出
(4)司法論理
第二章 表層のわかりやすさへの技法
1.時系列
2.同音異義語
3.オーディエンス・デザイン
第三章 深層のわかりにくさ
1.ゴールデンホース事件
2.スナックシャネル事件
第四章 法律家と市民の殺人に対する意識調査
1.方法
2.結果と考察
第五章 市民の殺意の認定方法
1.法律家の殺意認定方法
2.市民の認定方法
(1)殺人事件に関する自由作文
(2)記憶想起による作文
第六章 裁判員裁判のわかりにくさ
1.冒頭手続き
2.冒頭陳述
3.証拠等関連カード
4.証人尋問
5.最終弁論
6.評議
資料1 「殺人および殺意に関するアンケートのお願い」の質問項目
資料2 殺人事件に関する自由作文
おわりに
参考文献
索引
前書きなど
はじめに
裁判員裁判の導入が目前に迫り、新聞紙面でも裁判員裁判関連の記事がほとんど毎日のように掲載され、大手書店では裁判員裁判コーナーまで設けるほど裁判員裁判関連の書籍も多く出版されている。裁判員関連の書籍では、制度の解説から制度へ反対のものまで、多様な書籍が出版されている。そのような状況の中で、本書は、法律家ではなく市民の目線から、「裁判は市民にはなぜわかりにくいのか」をテーマに書き上げたものである。法律家ではない者が書いているため、本書の記述の様々な箇所で、刑事訴訟法や刑法の点から問題があることは重々承知している。ただ、非法律家があえて書いた「裁判」に関する本書から、「市民は、裁判をこのように見ている」「市民は、裁判のこのようなところがわかりにくいと感じている」ことなどを汲み取っていただいて、市民が参加する裁判員裁判に何か少しでも役立つようなことがあれば幸甚である。
本書において、専門的知識の欠如のみならず、法律家に対して僭越な箇所や礼を失した箇所が多々あることも、併せてお許しいただきたい。裁判員と裁判官の協働が求められている裁判員裁判ではあるが、異質な者同士の協働作業は容易ではない。市民は、司法の抽象的で細分化した判断基準に驚愕してしまう。一方、法律家は、市民になかなかうまく伝わらないことに苛立ちを覚えることもあるのではないだろうか。法曹三者合同の模擬裁判員裁判を傍聴して、裁判員裁判の成功は、評議の活発な意見交換に期待するより、評議に入る前の審理のわかりやすさを実現することの方が現実的であると実感した。審理が裁判員に理解できるようにわかりやすくなれば、評議における裁判官の誘導に関する懸念は、相当程度解消されるはずである。そこで、本書では、わかりやすい審理の実現のための市民の側からの裁判に対する素朴な感想をまとめてある。
本書は、六章から構成されている。第一章では、市民と法律家の乖離を「裁判言語モデル」から解説している。両者の異質性は、表層では言語的特徴として表れ、深層では異なった論理として内在している。第二章では、表層の言語的特徴に注目して、わかりやすさの技法について述べている。第三章では、二つの商標の類否裁判を取り上げて、市民の類似判断と法廷における類似判断の違いを解説して、深層のわかりにくさについて述べた。第四章では、法律家と市民が殺人に対して異なった意識を持っているか否かを、アンケート調査を行って分析した。殺人そのものについては、両者にはそれほどの異なりが見られなかったが、殺意の認定においては、両者の異なりは顕著であることが明らかになった。第五章では、この殺意の認定に焦点をあて、市民の認定方法を法律家の認定基準から分析し、その異なりを解明した。第六章では、模擬裁判を中心に、現行の裁判もふまえて、市民から見たわかりにくさについて論じ、わかりやすくする技法についても言及した。
(…後略…)