目次
序文 先住少数民族について(綾部恒雄)
本書の構成について
〈インド〉
解説——インド部族民の今日(金基淑)
ラージボンシ◇トライブからカーストへ(金基淑)
ナガ ◇辺境における民族アイデンティティの模索と闘争(井上恭子)
サンタル ◇抑圧に抵抗してきた人々(金基淑)
ビール ◇揺らぐアイデンティティの境界線(三尾稔)
サハリア ◇窮乏化する「後進的部族」(岡橋秀典)
ドゥーブラー◇開発に取り残される平原部の部族民(篠田隆)
アーディ・ドラヴィダ◇実体化された不可触民カースト(杉本良男)
トダ ◇外部からの視線(杉本良男)
〈バングラデシュ〉
チャクマ ◇バングラデシュの知られざる少数民族問題(高田峰夫)
〈スリランカ〉
ウェッダー◇スリランカの先住民の実態と伝承(鈴木正崇)
〈パキスタン〉
ブラーフイ◇パキスタンのドラヴィダ語話者たち(村山和之)
ヌールバフシー派◇バルティスターンの宗教マイノリティ(子島進)
カラーシャ◇ヒンドゥークシュの谷間に生きる「異教徒たち」(丸山純)
〈ネパール〉
マガール ◇仏教への集団改宗をめざす先住民(南真木人)
マジとボテ◇「川の民」と呼ばれる先住民(南真木人)
チェパン ◇後進性をめぐる問い(橘健一)
ネワール ◇民族移動と文化的アイデンティティをめぐって(和智綏子)
監修者あとがき
索引
編者・執筆者紹介
前書きなど
本書の構成について(金基淑)
本書で扱う「南アジア」とは、大陸部のインド、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、ブータンと、島嶼部のスリランカ、モルディブの七ヵ国を指す。これらの国々は自然環境や社会・文化などにおいて類似性をもち、長い間歴史・政治・経済的に緊密な関係を保ってきた。またそのほとんどがイギリスによる植民地支配を経験しており、現在ネパールとブータンを除く五ヵ国すべてが英連邦加盟国である。
南アジア各国の少数民族を取り巻く環境やかれらが直面している問題はほかの地域との共通点も多いが、国家レベルでの少数民族政策はさまざまである。
本書では、南アジア七ヵ国のうち、ブータンとモルディブを除く五ヵ国を取り上げ、各国の先住民族を含む少数民族の現状を紹介している。多民族国家ブータンには、多数派であるチベット系のガロンNgalong、インド・モンゴロイド系のツァンラTshangla(シャチョップSharchopとも呼ばれる)、ネパール人のほかに、遊牧生活を送るブロッパBrokpa、半農半牧生活を営むブラミーBrami(ダクパDagpaとも呼ばれる)、ラヤッパLayapa、総人口わずか数千人弱といわれるドヤッパDoyapa、レプチャなどの少数民族が存在している。今回ブータンを取り上げることができなかったのは、これらの少数民族に関する利用可能な文献資料がほとんど見あたらず、また執筆者の確保が困難だったためである。モルディブの場合も同様の理由で執筆までには至らなかったのだが、ただモルディブはスリランカから渡ったひとびとによって築き上げられた国と言われており、ほかの国々に比べて先住民族の存在自体が明らかにされていない面もあるようである。
本書で採り上げた各国の少数民族の事情や国家政策などについては、インドのみ別途に「解説」があり、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン、ネパールについては、それぞれの該当民族のところで紹介していることを付け加えておきたい。さらにパキスタンとバングラデシュは独立前にインドの領土だったため、一九四七年以前の両国の少数民族事情・政策はインドのそれと共通しており、また一九七一年にパキスタンから独立したバングラデシュの独立前の民族事情などについてはパキスタンの項を参照されたい。
なお、本書では現地語のローマ字表記は初出のみに限り、二度目からはカタカナ表記だけとする。地名、民族名、人名などは原則的に現地語の表記に従うが、日本で慣用となっているものはその限りではない。