目次
もくじ
人に好かれたい(メル・レヴィーン博士)
まえがき(ロブ&ミシェル・ライナー)
はじめに(子どもの社会生活——教室以外の16時間)
パート1 どうしてこの子はこうなの?——LDがソーシャルスキルの発達に与える影響
1.頭の配線が違う子ども——謎はすべて脳に
2.不安——社会的孤立の原因、そして結果
3.言語の困難——メッセージを理解し、伝える
4.パラ言語——メッセージを伝えることば、感情を伝えるボディランゲージ
5.注意欠陥障害——不幸せなさまよい人の社会生活
パート2 家庭生活でのソーシャルスキル——親、きょうだい、その他の人々とのつきあい
6.管理能力を育てる——ずぼらな子どもに秩序と枠組みを
7.きょうだい、その他の人々
8.遊びの約束
パート3 学校でのソーシャルスキル——読み書きソロバン人間関係
9.いじめっ子、いじめられっ子、傍観する子——学校でのからかい、脅し、いやがらせを防ぐ方法
10.“裏”カリキュラムをマスターする——学校の不文律
11.先生を喜ばせる秘訣——覚えめでたい生徒になるには?
パート4 地域社会でのソーシャルスキル——子どももひとりでは生きられない
12.公共空間でのソーシャルスキル
13.友だちと出会う、友情を築く、友情を保つ
おわりに
付録
監修者あとがき
前書きなど
まえがき
子どもを深く愛する親として人間として、子どもが自信に満ち、幸福で、健康な大人に成長するために必要な支援やチャンスを与えることほど大切なつとめはないと、私たちは思います。私たちは1997年に「アイ・アム・ユア・チャイルド基金(I Am Your Child Foundation)」を立ち上げ、2004年には、幼児期の重要性に対する認識を高め、親の教育と支援を通して公共政策を促進することを目的とした「ペアレンツ・アクション・フォー・チルドレン(Parent's Action for Children)」を設立しました。こうした仕事の中で、私たちはリック・ラヴォイと出会い、彼の貴重な仕事を知りました。学習に問題のある子ども(children with learning problems)の社会的・精神的ニーズに対する彼の深い理解は、子どもとその親にかかわった30年以上の経験に裏打ちされており、本書には彼の知恵と情熱とスキルの最上の部分が現れています。
子ども時代のもっとも重要な課題のひとつは、友情を形成し維持することです。仲間との良好な関係は、現在も将来にわたっても子どもの自己評価、幸福感に大きなプラスになることは、よく知られています。友だち関係から学ぶスキルは生涯にわたって使い続けるスキルです。友情は学習、成長、安心、喜びの機会をふんだんに与えてくれます。子どもが自分の感情や考えを理解して表現し、対立を解決し、ストレスに耐え、健全な自己主張を学び、多様性の素晴らしさを理解し、リーダーシップと協力のスキルを習得し、共感とユーモアを身につけるのは、友だち関係を通してです。
どんな子どもにも、他者と有意義な関係を結びたいという生来のニーズと願望があります。リックが本書で説明するように、学習に問題のある子どもは対人関係に苦しむことが少なくありません。社会的場面がなかなか理解できず、友だち関係の形成や維持がぎこちないのです。彼らは往々にして仲間から受け入れられにくく、孤立し排斥されていると感じがちです。こうした困難のゆえに、学習に問題のある子どもは対人的問題を解決するのが苦手で、往々にして社会的場面で受け入れられない行動を選択してしまい、その結果、周囲から支持を得られず否定的な反応を受けやすいのです。それに加え、きょうだいやその他の家族との関係も、大変に困難が多く不安定なことがあります。子どもにとって安全地帯であるはずの家庭が、もうひとつの試練とストレスの場になっているのです。無論、このことは親たちの生活のストレスと困難を増します。
学習に問題のある子どもが抱える学習上のニーズへのとり組みについては、多くの関心が払われてきました。これは非常に大切なことではありますが、現実としては、子どもが教室で過ごすのは生活の20%のみで、残りの80%は地域社会や遊び場、もしくはきょうだいをはじめとする家族と家庭の中で過ごすのです。たとえ教室で過ごす8時間が順調でも、残りの時間はひどくストレスがたまり気落ちすることだらけかもしれません。
あなたの人生で友情がどれほど大切だったかを、思い出してみてください。人生でもっとも意義があり、心満たされる、楽しい瞬間は友情の中で起こります。子どもの頃を思い返してください。もっとも幸福な記憶のいくつかは、人との結びつきや友情に包まれているはずです。もし子どもの頃にこうした瞬間がなかったらどうでしょう。私たち大人は、生産的で満足感のある人生にはいろいろな側面があることを知っています。たとえば充実感のある有意義な仕事を見つけることも大切です。しかし成功や苦闘を分かち合える友や愛する人なしで、人生は本当に充実しているでしょうか。子どもの頃に身につけた人間関係のスキルこそ、大人の人生の喜びや試練の中で私たちの助けとなるのではないでしょうか。
どんなに努力しても、人とつながる方法がわからない人生はどんなものでしょう。もし友だちとの交わり、信頼、共感を切に求めているのに、疎まれ、拒絶され、いつもひとりぼっちだったら? 学習に問題のある子どもの多くは、まさしくそれを経験しています。しかし、そのままでよいはずはありません。リックは学習に問題のある子どもが対人関係の困難にぶつかるときのパターンを紹介しています。安定した友だち関係のない子どもは対人的な場面を回避しがちです。そして孤立感や孤独感を一層深めるのです。リックはそのライフワークで、そして本書で、子どもが幸福で充実した生産的な人生に必要なスキルを身につけるために、親はどんな支援ができるかを教えています。本書は、学習に問題のある子どもとその家族に対するリックの深い理解と共感を物語る温かさと知恵と例話があふれています。親や、子どもにかかわる仕事をする人々が、子どもに友情の言語を実際に教えるのに必要なツールが、明快にわかりやすく語られています。
本書でリックは社会生活能力(social competence)を、時と場所に応じてどう使えばよいかを知っている一連のスキルと定義しています。こうしたスキルの中には、会話で交互に話すこと、相手の意見に興味を示すこと、反対の意思を適切なやり方で表現すること、グループに参加すること、感受性、柔軟性、応答性などがあります。多くの子どもはこうしたスキルを自然に身につけているようですが、学習に問題のある子どもはそうではありません。リックはさまざまな形の学習の困難を紹介し、それぞれが具体的な社会生活能力の問題にどう現れるかを説明しています。そして個々の問題について実際的で明快な介入方法を紹介します。十把一絡げではなく、個々の学習の問題に対応した方法です。たとえば言語に困難のある子どもは、とくに「言語の対人的側面」が苦手なことがあります。そういう子どもには、会話で交互に話す、アイコンタクトを保つ、声のトーンを調整することを丁寧に教え、練習させる必要があります。また聴くことに問題のある子どもは、耳で聞いた情報の理解や記憶が非常に難しいことがあります。そのために態度が悪い、無神経、反抗的と誤解され、仲間や大人から否定的な反応を引き出してしまいます。注意力に問題のある子どもは、自分のまわりの対人的世界を観察し、理解し、反応するのが大変に不得手です。本書では、こうした問題から生じる対人的な困難をあげながら、必要なスキルを直接的に教える方法を提供します。
リックが紹介するさまざまな手法のひとつが、「ソーシャルスキルの解剖」です。この画期的なアプローチでは、子どもと一緒に対人的なエラーを分析し、それに代わるやり方を考え出すことによって、子どものソーシャルスキルの向上を支援します。また好ましい社会的相互作用に貢献する行動を検証し特定するのにも役立ちます。自分の行動のどの面がよい反応を引き出したのかがはっきりとわかると、他の状況にも応用できるようになります。このテクニックには、学習障害(LD)の子どもが発達し学習するために必要な3つの要素——すばやいフィードバック、反復練習、正の強化がそろっています。社会生活能力が養われる支援的で体系的で建設的なアプローチです。子どもは自分の学習プロセスに積極的に参加して問題を解決することができます。リックの本には、子ども時代を幸福に過ごすために不可欠なソーシャルスキルを養うのに役立つさまざまなテクニックが数多く紹介されています。
学習に問題のある子どもの親にとって、子育てはことさら困難でストレスのたまるものです。押しつぶされそうに感じ、ときには無力感すら覚えます。学習に困難のある子どもを持つ親なら誰でも身にしみてわかっている通り、愛するわが子が孤独と混乱と悲しみを味わうのを見るのは身を切るよりつらいことです。リックは、友情の形成と維持に必要な能力を身につけさせるための方法をより包括的に理解させてくれます。彼の教える知識と手法を利用して、親は子どもが社会的に成長し開花するために必要なスキルを身につける手助けができます。有意義な友情の中で子どもの自己価値観が育つのを見ることほど、うれしいものはありません。こうした交流によって築かれ支えられるスキルこそ、人生を生き抜くよすがなのです。リックの仕事は、何千人もの子どもとその家族の生活を大いに前進させています。多くの人々の手に届くであろう、この素晴らしい本を推薦できることを心から喜ばしく思います。
ロブ&ミシェル・ライナー
カリフォルニア州、サンタモニカ