目次
はじめに
第一章 わが国における施設養護の動向と課題
第一節 児童養護の展開(山縣文治)
第二節 近年の施設養護の展開と地域小規模児童養護施設制度・小規模グループケア制度の創設(高橋利一)
第三節 地域小規模児童養護施設における実践例と職員・子どもの思い(喜多一憲)
第四節 小規模グループケアの実践例と職員・子どもの思い(野口啓示/谷口剛義)
第五節 社会的養護システム変革と児童養護施設の地域化・小規模化(山縣文治)
第六節 子どもの権利と児童養護(林 浩康)
第二章 わが国における里親・養子縁組の動向
第一節 家庭養護の歴史・現状・これから(宮島 清)
——子どものための里親委託と養子縁組のために
第二節 里親実践例と里親・子どもの思い(山中ゆりか)
第三章 海外の児童養護の動向
第一節 アメリカの児童養護と子どもの権利(平本譲/スティーヴン・トムソン)
第二節 イギリスにおける児童養護の現状と課題(内本充統)
——入所型児童福祉施設の変遷を通じて
第三節 オーストラリアにおける社会的養護および子どもの権利動向とグループホームの実践例(渡邊 守)
第四節 オーストリアで発祥した国際児童福祉組織SOSキンダードルフの実践(金子龍太郎)
第四章 わが国における社会的養護の近未来
第一節 施設養護と家庭的養護の架け橋(竹中哲夫)
第二節 子どものパーマネンシー保障をどう考えるか(林 浩康)
あとがき
前書きなど
はじめに
社会的養護を取り巻く状況は目まぐるしく変化してきた。とりわけ、児童養護施設には、大きな改革が要請された。高度経済成長期における社会構造的変化に伴う新たな貧困・養護問題への対応に追われた時期が過ぎ、一九八〇年代後半から九〇年代前半にかけては、定員割れへの対応が大きな課題となった。ニーズとサービス内容の齟齬について論じられ、新たな事業が創設された。しかしながら「児童虐待の発見」により、その後状況は一変し、多くの施設が満杯状況となった。それは子どものケアに対する認識の変化を促し、児童養護施設では、被虐待児への対応が施設ケアの中心を占めるようになってきた。そのため従来のケア枠組みの転換が要請され、人材養成のあり方も問われてきた。
このように社会的養護について語る際、主として施設養護について論じざるをえない状況、さらに大舎制施設養護が主流を占める状況について、一部の実践者や研究者により批判されてきたが、これまで一貫してこうした状況が継続してきた。近年、施設における生活単位の小規模化を目的とした、地域小規模施設や小規模グループケア(ユニット制)が新規事業として導入されたが、一部の動きに留まっている。里親の拡大が困難な状況のなかで、施設の「家庭化」を図ることは、一つの方策として考えられるが、現在の最低基準を維持したままでの小規模化は、職員に過重な負担をもたらすことも明らかにされてきた。また養育者が一貫し、「家庭化」する中でのリスクについても認識されるようになってきた。現代家庭のもつ危うさが、社会的養護においてもその「家庭化」の中で顕在化してきている。
本書は家庭型養護・施設型養護双方を視野に入れ、それらの現状認識に基づき、今後の社会的養護のあり方について論じることを主たる目的としている。子どもや家族の状況が多様化するなかで、一つの方向性でもって社会的養護のあり方を論じることには無理があり、あるべき社会的養護の姿を具体的に提示することは困難であろう。おそらく永遠にそれを問い続けることが我々の使命かもしれない。
本書では、多様な立場の執筆者により、片寄りのない論の展開がなされている。今後の社会的養護を検討する際の材料として、本書を活用していただければ幸いである。
二〇〇七年八月