目次
『考えるための日本語【実践編】』へようこそ
第1章 総合活動型日本語教育とは何か
第2章 総合活動型日本語教育を行うために——私達の実践から
1.背景
2.学期前——活動目標を設定し、活動内容を決めていく
第3章 レポート作成活動の進め方
《学生への配布資料》
《活動の流れとレポート・ワークシートの対応表》
第4章 レポート作成活動の実際——授業実践をのぞいてみよう
1.「自己紹介文」の活動例
2.「魅力的な人」の活動例
3.「好きなテーマ」の活動例
参考資料(授業の録音を文字化したもの・ワークシート・レポート)
第5章 活動を進めていくための工夫とポイント
1.学期開始——学生へのオリエンテーションと雰囲気作り
2.学期中——活動を動かしていくための工夫
3.学期終了——担当者の振り返り
第6章 学生から見た総合活動型日本語教育
おわりに
【補遺】総合活動型日本語教育は何をめざすか
【付録】より考えを深めたい方へ 参考文献
前書きなど
『考えるための日本語【実践編】』へようこそ
この『考えるための日本語【実践編】』は、先般出版した『考えるための日本語──問題を発見・解決する総合活動型日本語教育のすすめ』(細川英雄+NPO法人「言語文化教育研究所」スタッフ著、明石書店、2004年)の実践活動編です。
総合活動型日本語教育では、ことばの教育をさまざまな社会形成の中で他者との人間関係において自己を表現する力をつけることであるとし、教室活動を行ってきています。前著の刊行以後、多くの読者の方々からさまざまな応援をいただいてきました。ことばを学ぶとはなにか、そのことによって学習者たちはどのように成長するのか、という問いを持つ言語教育関係者が確実に増加しているからだと思います。
しかし、実際のクラスでは、そうした総合活動型日本語教育の考え方をどのように実現したらいいのかよくわからないという質問や意見もこの数年絶えず受け続けてきました。
第1章のはじめにもあるように、総合活動型日本語教育は決して教授法の1つではありません。つまり具体的な方法ではなく、1つの考え方なのです。
ですから、この考え方にもとづいて活動する具体的な仕方は、クラス活動を考える人の数だけあるといってもいいわけです。
でも、そうすると、その方法がわからない、という意見が必ず出てきます。
このように、総合活動型日本語教育をめぐっては、いつも議論が堂々巡りをしてきた嫌いがありました。
そこで、この総合活動型日本語教育の考え方にもとづいて実際の活動を行ってきた有志のメンバーから自分たちのやってきた(やっている)クラス活動の実際をそのまま記述し、この教室の魅力や困難を具体的に感じてもらいたいという声が生まれ、その声を集約する試みとして本書が編まれることとなりました。本書は、執筆者の絶え間ない議論によって形成された、教育実践の内実であり、この記述の背景には、担当者たちのさまざまな知恵が十分に注ぎこまれています。
執筆者の多くは、早稲田大学日本語教育研究センター(2006年4月より改称)で非常勤講師や契約講師をつとめてきた人たちですが、同時にいろいろな日本語学校での経験もある人たちです。また海外での日本語教育経験のある人も多く含まれていますし、現在、海外の日本語教育機関に赴任中の人もいます。
このように、とても多彩なメンバーによって1年以上の合議を重ねて編集された実践編ですから、この本の中には、実践活動のさまざまな工夫がちりばめられ、それが教育実践活動として自覚的に活用されています。
この総合活動型日本語教育がめざすものは、問題を発見し解決する学習者のための学習です。この問題発見解決学習を支えるものは、学習者1人1人の思考と表現の活性化と言えるでしょう。こうした教室活動は、学習者自身が自分を自分として確認できるような、もっと簡単に言えば、「ここにいてよかった」という自分の居場所を学習者1人1人が持つことを待望しているのです。そうした環境設定を教師の役割として行うことが、この総合活動型日本語教育のめざすものだといえます。
こうした考えに賛同してくださる方へ向けて、この『考えるための日本語【実践編】』の出版は、大きな福音となるでしょう。
ここで、各章の簡単な紹介をしておきます。
第1章「総合活動型日本語教育とは何か」では、まず、総合活動型日本語教育の考え方について簡単に述べ、第2章「総合活動型日本語教育を行うために」では、実際の担当者が何を考え、どのような準備をして実践に臨んだのかということが、学期開始までの流れを追いながら、具体的に説明されています。
第3章「レポート作成活動の進め方」では、総合活動型日本語教育の考え方にもとづき設計、実際の教室活動として展開した場合にはこのような形になる、という活動の一例が紹介されています。活動の全体像をイメージしていただくために、活動の各段階にワークシートを載せ、学習者がどのような活動をしたかということに焦点をあてて、実際の授業の進め方が提案されています。また第4章「レポート作成活動の実際」では、学生たちが実際に書いたワークシートやレポートを載せ、具体的な教室活動の実際が示されています。さらに第5章「活動を進めていくための工夫とポイント」では、担当者はどのような準備をして日々の授業に臨んだのか、そして、活動を動かしていく際にどのようなことに留意していたのかということが、学期開始後の流れを追いながら、より具体的に描かれています。
第6章「学生から見た総合活動型日本語教育」では、学生の側に立ち、学生にとってこの活動はどのような意味があったのかということについて、さまざまな学生たちの生の声が挙げられています。
その他、随所にQ&Aが配され、「付録」としてより考えを深めたい方へ向けて、参考文献が添えられています。
また、「補遺」では、理論的な立場から、総合活動型日本語教育を核とした今後の日本語教育実践研究の展望と課題を展開しました。この実践編をもとに、さらに日本語教育全体の展望を考えてみたいという人のために役立てば幸いです。
この『考えるための日本語【実践編】』によって、学習者1人1人の自己表現の実現をめざして、教室担当者1人1人が自らの立場をしっかりと踏まえることができ、その設計と支援によって、1つ1つの教室活動が大きく変容することを期待します。
編著者の立場として
細川 英雄