目次
第1章 障害とは何か
第1節 障害と社会的・文化的文脈
第2節 現代の障害観
第3節 専門家の役割と障害当事者
第2章 障害科学とは何か
第1節 総合科学としての障害科学
第2節 融合科学としての障害科学
第3章 障害科学の成立と展開
第1節 近代における「障害」の発見
第2節 障害児教育における科学的研究の端緒
第3節 教育的成果と教育的・社会的排除の機能
第4節 インクルーシブ社会と障害科学の役割
第4章 障害科学の対象
第1節 障害別によるアプローチ
第2節 障害横断によるアプローチ
第5章 障害科学の研究方法
第1節 教育学的方法
第2節 社会福祉学的研究方法
第3節 心理・生理学的方法
第4節 事例研究法
第5節 文献による研究法
第6章 これからの障害科学
第1節 今後の障害科学の方向性と展開
第2節 基礎的研究の充実、応用研究との相互補完性
第3節 政策への提言──障害児の教育を中心として
トピックス
1 排除とは何か
2 子ども虐待とは
研究ノート
1 インクルーシブ教育の普遍性
2 途上国の障害概念は遅れているのか
索引
前書きなど
第1巻 序
本巻は、このシリーズの第1巻として、シリーズ全体の構成を示すことによって、障害科学の全体像を鳥瞰的に示すものである。障害科学が捉えている領域は、その範囲がきわめて広くまた内容的な深さも多様であるため捉えがたい面があるが、本巻によって、その主要な点がその構造とともに的確に理解されることを意図している。また、本巻で全体の枠組みを捉えたうえで、続く第2巻から第6巻において、それぞれの専門領域での内容がより深く学習、理解できるように内容が配列されている。執筆者は筑波大学障害科学系の教員が中心となっており、第1巻とそれ以降の巻での内容的な整合性も保たれ、理解しやすい構成となっている。
第1章では、「障害とは何か」という第1巻の課題全体への最も基本的な応答を、歴史とリハビリテーションの観点から試みる。「障害」とその意味を理解するには、障害の背景にある社会的・文化的文脈と関連させることが必要であることを示す。また、障害当事者の利益を最大限に考慮することが必要なことが歴史的帰結であることを示す。
第2章では、「障害科学とは何か」の骨格を示している。障害科学が多様な次元と範囲から構成される理由と特徴、特殊教育における医学・心理学・教育実践・教育(学)の関与と総合化の意味を探ったうえで、個別科学がそれぞれの特長を生かしたうえでの科学の融合が必要となる理由と条件を提示する。
第3章では、障害科学の成立と展開における特徴について、近代における宗教と社会問題と心理学や医学、教育(学)における科学的知見との関係から検討する。また、諸科学の知見は貢献だけでなく、障害者に制約をも与えた経過を踏まえたうえで、インクルーシブ社会の建設にあたって障害科学が果たすべき役割を構想する。
第4章では、障害科学への研究的なアプローチという観点から、障害科学の内容に言及している。障害科学では、各障害に固有の課題の解明に取り組む障害種別のアプローチと、障害種を越えた共通の課題に取り組む障害横断のアプローチが取られている。研究の知見は、それを得るために用いられた研究アプローチとの関連が強く、これらの二つのアプローチによってもたらされる知見を総合的に捉えることによって、障害をより幅広く、またより深く捉えることができよう。
第5章では、障害科学で用いられる研究の方法について述べている。障害科学は総合的な学問であり、用いられる研究方法も多様である。研究法の理解は自らが研究を適切に進めるうえで、また、既におこなわれた研究を的確に理解するうえで、きわめて重要である。
第6章では、本巻のまとめとして、障害科学の基本的な考え方や特質、学問としての位置づけ、またこれからの障害科学の発展の方向性等について述べる。障害科学を適切に理解して、今後の積極的な展開について考えていただきたい。
2007年4月
筑波大学障害科学系
中村 満紀男
四日市 章