目次
はじめに
第1章 産業集積に関する理論と産業立地政策
1.地域中小企業集団論(地全協)
2.地場産業・伝統的工芸品産業
3.産業集積の諸類型(中小企業白書)
4.産業団地論(W. Bredo)
5.コンビナート論
6.国土総合開発計画の推移
7.産業立地政策の推移
第2章 大阪サンダル産業の実証的研究
1.大都市製造業の特化度
2.全国の履物産業(とくにサンダル製造業)の動向
3.大阪サンダル製造業の沿革と競合産地の動向
4.大阪サンダル製造業の実態調査結果の分析
第3章 大都市住工混在地域の再開発と中小零細企業──大阪府豊中市庄内地域
1.豊中市庄内地域における再開発の必要性
2.豊中市庄内地域の企業構成
3.住工混在地域の再開発と中小工場の集約化
4.大都市における小零細企業の増加とその問題性
5.豊中市庄内南部地域製造業実態調査の方法
6.豊中市庄内南部地域製造業の立地条件と経営者の意識
7.要約と提言──庄内地域再開発のための工場「集約化」の可能性と条件
第4章 絹織物産地における産業構造調整──丹後機業を中心として
1.絹織物業をとりまく経営環境の変化
2.丹後織物産地の最近の動向
3.丹後織物業(後染)の生産構造
4.西陣機業の空洞化と丹後への分散化
5.丹後における賃織業者の実態
6.『繊維産業ビジョン』と賃加工生産形態
第5章 絹織物産地の再構築──滋賀県長浜産地を中心として
1.絹の需給構造の変化
2.絹織物産地の概況──全国・丹後・西陣
3.長浜産地の生産構造と経営実態──過去の「産地診断」より
4.長浜産地の再構築のための課題
第6章 大阪府南部の融合型クラスター──テクノステージ和泉を中心として
1.地方自治体支援型産業団地──テクノステージ和泉
2.テクノステージ和泉の企業実態調査
3.テクノステージ和泉を支援する公的機関
4.むすび──先端産業と在来産業の融合型クラスターを提案する
第7章 衛星都市・枚方市の産業集積の変化と生活環境史
1.大阪府枚方市の概況
2.戦前期の枚方市の産業集積の推移
3.第2次大戦後の枚方市の産業集積の変化
4.中小企業団地の形成
5.枚方市の生活環境史
6.民間企業・商工団体のリサイクル推進活動
7.枚方市における公害対策から生活環境保全政策への転換
あとがき
著者紹介
前書きなど
はじめに
私たち社会科学研究者は、中小企業を理解したり分析する場合、産業の次元、規模の次元、地域(立地)の次元から接近したり、さらに時系列的・歴史的に把握したり、生産性や収益性の視点から分析している。さらにそれらの指標を複合させ多次元的に分析している。さらに企業集団になると集団内部の関係性、集団外部との関係性にも着目しなければならない。
筆者は1950年代後半から約50年間、中小企業集団や産地の実証的研究にたずさわってきた。最初の調査は大阪府八尾市およびその周辺地域の歯ブラシ産業の全数調査であった。その後、綿織物産地、絹織物産地、製糸業、大阪府の地場産業の調査を重ねてきた。また、特定地域の地域振興政策、「産業振興ビジョン」策定のための調査にも関わってきた。
そのような経験から、産業集積と地域振興に関する論文の中から数編を選んで本書に収録することにした。ただし、第6章、第7章は未発表の論稿である。
したがって、冒頭において各章の論文の意図・動機を記述しておきたい。
第1章では、第2次大戦後におけるわが国の産業集積論を取りあげた。歴史研究者や経済地理学者の研究成果は含まれていない。したがって学会展望というより、私が学んだ産業集積論の学習に限られている。
第2章は、都市型産業の一部であるファッション産業の中のサンダル産業の調査研究である。文部省科学研究費による研究で、大阪府立大学の中山徹氏との共同研究である。大阪のサンダル工業組合の協力を得て全数調査を行った。さらに、静岡市、神戸市のサンダル組合で聞き取り調査・工場見学を行い協力を得た。その後、阪神淡路大震災で神戸のサンダル業は壊滅的打撃を受けた。また、経済のグローバル化によってサンダルは海外の低価格製品による激しい競争にさらされることになった。最近の業界の現状について追補すべきであるが、それは果たされていない。
第3章は大阪府豊中市南部の庄内地域の製造業事業所の全数調査である。大阪市内の製造業が、高度経済成長期に大阪市周辺部の衛星都市に滲透し、「住工混在」地帯を形成した。住民からは騒音、振動、悪臭、水質汚濁などの公害苦情が出た。それを都市再開発という名の下に住宅地または工場地帯に純化させるのではなく狭い地域内で分離する方法が模索された。その手法として中小零細企業の共同工場計画が1960年代後半に提起され、その視点からその可能性について中小零細企業の意向を尋ねた。この調査には、桃山学院大学庄谷ゼミの学生、京都大学工学部建築学科三村浩史ゼミの学生、院生の皆さんの協力を得た。とりまとめは故安藤元夫氏と筆者の共同作業で行った。
第4章は「産地型」産業集積の調査研究である。第2次大戦後、とくに高度経済成長期に農村地域で農家の兼業が急増した。在来型の織物産地の周辺農村では農業と織物業が結合した。筆者は1964年兵庫県西播地域の綿織物地帯での織物業と農業との兼業、ついで京都府丹後地方の兼業農家の織物部門に焦点をあて、1970年代から1990年代にかけて追跡調査を行った。それは京都府農業会議の専門調査員として「兼業農家」の生活安定のための調査でもあった。
丹後織物は、1960年代以降在来の「丹後ちりめん」(後染)と京都市の先染織物業(帯生産など)の下請(賃織り)生産が併存してきた。本章では、京都西陣織と丹後賃織業者との関係の動態的変化にも着目した。
第5章は丹後織物と同じ絹織物産地である滋賀県「長浜ちりめん」の調査である。ここでは、先行研究(産地診断報告書を含む)をふまえ、筆者が参加した「産地診断」と結びつけ、時系列分析を試みた。和装需要が減少しつつある中で、東京、名古屋、大阪、京都の問屋・百貨店との関係、マーケティング問題に悩みをかかえている。
第6章は、地方自治体主導の産業集積を取り上げた。大阪府和泉市に誘致した「テクノステージ和泉」である。ここには革新的中小企業とともに在来型の中小企業も入居している。業種、業態、規模も多様である。しかし、大阪府立産業技術総合研究所など公的機関との結びつきが強く、今後発展が期待される産業クラスターといえよう。
第7章は大阪市の衛星都市、大阪府枚方市の戦後史を「工業化」と住民の生活環境との関係で把握するよう努力した。筆者は長らく枚方市民として生活し、「工業団地のまち」枚方と「ベッドタウン」枚方の両側面を観察してきた。
以上が各章の問題意識、動機、視点である。筆者が「調査」という場合は面接調査とアンケート調査の併用方式である。