目次
デリダの追悼文 C・ドゥージナス
1 最小限差異
ジャック・デリダへのオマージュ A・バディウ
差延への回帰の請願(マイナーな「自分の家のために」をともなって) S・ジジェク
2 単独的普遍性
民主主義は何かを意味するのか J・ランシエール
〈普遍的なもの〉の構築と脱構築——ジャック・デリダの感覚的確信 E・バリバール
マッド・デリダ——思考と狂気の事実そのものから J−L・ナンシー
3 他なるもの
ジャック・デリダへの謝辞に向けたノート G・C・スピヴァク
デリダ——未来の贈り物 D・コーネル
レイト・デリダ J・ヒリス・ミラー
監訳者あとがき デリダの幽霊奇譚
前書きなど
監訳者あとがき(抜粋)
翻訳について。本書はCostas Douzinas (Edit.), Adieu, Derrida, Palgrave macmillan, Hampshire, 2007の翻訳である。原書は二〇〇七年四月に出版予定である。本来ならば原書が出版されてから翻訳という段取りのはずだが、本書は論文が集められてから本になるまで原書出版社のほうでかなり時間がかかったこともあって、収録論文の原稿を前もって送付されていた私たちの翻訳のほうが先に出来上がってしまい、出版という運びになった。この後書きを書いている段階でようやく原書の校正刷りが届いたところだ。加筆修正箇所の確認等がかなり面倒であるが、大きな変更はないのでほっとしている。オリジナルよりも翻訳が先に公刊されるわけだが、これも「代補」と「遅れ(差延)」の哲学者デリダについての本らしくてよいのかもしれない。デリダにとって、起源(オリジナル)とは代補(コピー、翻訳)の効果=結果として「遅れた(差延した)」ものなのだから。
原タイトルAdieu, Derridaは「さらばデリダ」とでも訳すべきなのかもしれないが、各論者の議論は、デリダをいかに読み直し、書き直していくかに集約されると思われたので、日本語版は出版社とも相談のうえで「来たるべきデリダ」とした。
本書の翻訳は原書の編集と平行して行われたため、編者ドゥージナスから日本語版の編集にはかなりの自由が与えられた。例えば、日本語版では各論者の議論を、多少強引ではあるが、三つのグループに分けて章立てにした。そのため原書とは論文配列が異なる。原書の収録の順番はドゥージナス、ナンシー、バディウ、スピヴァク、バリバール、ランシエール、コーネル、ジジェク、ミラーである。また原書ではナンシーとミラー以外の論文には小見出しが付いていないが、これも議論の流れが見やすいように節に区分し、内容を示す見出しを付した。
翻訳はドゥージナスから送付された英文をもとにして行ったが、ナンシーだけはフランス語原稿を提供されたので、英訳も適宜参照しつつ、基本的にはフランス語から訳出した。その他の論者はフランス語圏の人であっても英語から訳出した。分担は、藤本がドゥージナス、ナンシー、スピヴァク、澤里がジジェク、ランシエール、バリバール、茂野がバディウ、コーネル、ミラーである。
本書は現代思想の入門者にもアプローチしやすいものにしたいと思い、かなり初歩的な人名や用語にまで訳注を付けた。内容も初心者向けを念頭に一般的な記述にとどめたので、専門家の眼には不十分・不適切と見える訳注もあるかもしれないが、ご理解を賜りたい。訳注は基本的に各論文の担当訳者が作成したが、なかには諸般の事情から監訳者が作成したものもある。
訳文の統一は基本的な用語等の最低限にとどめ、文体や句読点等は原則として各訳者の個性に任せた。
二〇〇七年二月二十日
訳者を代表して 藤本一勇