目次
まえがき(河原俊昭)
発刊に寄せて(野山 広)
第1部 言語サービスとは
第1章 外国人住民への言語サービスとは(河原俊昭)
——外国人住民との共生社会をめざして
第2部 関東・甲信越・東北地方
第2章 集住地域の言語サービス(野山 広)
——群馬県太田市・大泉町の場合
第3章 共同作業としての言語サービス(猿橋順子)
——川崎市の事例から
コラム 駅における言語サービス(井上恵子)
第4章 支援基盤と支援者の言語意識の問題について(山川智子)
——千葉県の例
コラム 常総市のブラジル人とレディングの日本人(飯田 毅)
第5章 長野県における官民協働ネットワーク化の取組み(春原直美・熊谷 晃)
——現場ニーズから生まれた言語サービスの展開
第6章 秋田県における外国人住民へのサポート(藤田美佳)
第3部 北陸・関西地方
第7章 金沢(石川)の国際交流の歴史と現状(辻 建一)
第8章 災害時の多言語サービスネットワーク:神戸から(大原始子)
——外国人と日本人による構築に向けて
第9章 多言語コミュニティ放送と災害情報提供(樋口謙一郎)
——FMわぃわぃの事例から
コラム 外国人妻と日本語(近藤 功)
第10章 京都府精華町における外国人への言語サービス(榎木薗鉄也)
第4部 中国・四国・九州地方
第11章 言語サービスの充実に向けて(仙田武司)
——島根県における外国人支援の取り組みを例に
第12章 香川県の言語景観(小野原信善)
——国際化と言語サービス
第13章 北九州市の言語教育サービス(仲 潔)
第14章 宮崎県における国際化と外国語による言語サービスの現状と課題(徳地慎二)
前書きなど
まえがき
この本のタイトルは、『外国人住民への言語サービス』である。この本はどのような意図から書かれたのか、そして、なぜ現在、このような本が必要であるのか、という点から説明していきたい。
昔、単一民族・単一言語神話(日本列島に住んでいる住民は日本人だけであり、話されている言語は日本語だけである)が信じられていた時期があった。しかし、近年の外国人の増大という現象を前にして、改めてそんな神話は過去のものであることを再認識したい。
この本では、日本列島は多民族・多言語社会である事実を出発点とする。そして、とりわけ、多言語社会である点に注目をしていく。多言語社会を我々はどのように迎えるのか。日本語を十分に理解し得ない人々が急速に増加していく事実をどのように受けとめるべきか。このことは我々が取り組まなければならない大きな課題である。
外国人は急速に増えていくだけではなくて、彼らの定住化が進み、彼らを示すのに「外国人」から「外国人住民」という表現がふさわしくなっていく。彼らは、定住していくなかで、日本語が不自由であるということからさまざまな不利益を被っている。彼らが言語に関することで、不利にならないように、何か支援をしていきたい。その支援の具体的な現れとして、言語サービスが存在するのである。
言語サービスとは何であろうか。詳しくは、第1章「外国人住民への言語サービスとは」を読んでいただきたいが、簡単に述べると、町の公共の掲示を多言語化する、外国語によるパンフレットを制作する、日本語教育を提供する、母語保持教育に財政支援をする、等々が含まれる。そして、これらの活動にはそれぞれ理念や方法論のしっかりとした裏づけがなければならない。
このような支援を行うのに最も貢献しているのは、自治体関係者、各種ボランティア、NPO/NGO、公共交通機関で働く人々である。この本では、各地域・地方自治体における取り組みを紹介していきたい。
この本の執筆者たちは、以上のような問題意識をながらく抱いていたのである。執筆者たちの切り口はさまざまである。ある者は言語景観や防災サービスを調査したり、ある者は日本語教育に焦点をあわせたり、またある者は母語保持教育に関心を示している。それぞれが独自の立場から考察をしているのである。いろいろな視点から考察が行われているので、外国人住民への言語サービスに関しては、かなりの部分が網羅されていると自負している。読者の方が、この本を読まれて、外国人住民への言語サービスの必要性を深く理解してもらえばと強く願う次第である。
河原俊昭