目次
謝 辞
著者所属一覧
1 序論:災害の人類学的研究の意義
(アンソニー・オリヴァー=スミス/スザンナ・M・ホフマン)
2 災害の理論的考察:自然、力、文化
(アンソニー・オリヴァー=スミス)
3 災害の歴史的研究
(バージニア・ガルシア=アコスタ)
4 危険とリスク否定論
(ロバート・ペイン)
5 不確実性の封じ込め:チェルノブイリ原発事故後の放射線防護の専門家の文化
(シャロン・スティーヴンス)
6 怪物と母:災害の象徴表現
(スザンナ・M・ホフマン)
7 大衆向けメディアによる人為災害の枠組みの作り替え:
ウォバーン有毒廃棄物汚染をめぐるあるベストセラーと被害者
(グレゴリー・V・バトン)
8 物質とエネルギーの断続的劣化:
エクソン・バルディーズ号原油流出事故(1989)とアラスカ先住民
(クリストファー・L・ダイヤー)
9 複数のカタストロフィの一体化:
長期化した旱魃(1100-1500)およびそれと並行して発生した自然災害そしてアンデス文明
(マイケル・E・モーズリー)
10 災害と生態人類学:東アフリカ大旱魃(1979-81, 1984-85)と牧畜民トゥルカナ族
(J・ターランス・マケイブ)
11 専門知識の欠如と断定的政治運動と慢性的災害:インド・ボパールでの有毒ガス漏出事故(1984)
(S・ラヴィ・ラジャン)
注
訳者あとがき
参考文献
前書きなど
訳者あとがき
米国ニューメキシコ州サンタフェにあるアメリカ研究学院(School of American Research, 以下 SAR)では、1968年以来、年に数回、上級セミナー(Advanced Seminar)と呼ばれる研究会を開催している。それは、数人の研究者が専用の宿舎に数日間泊まり込み、人類学分野での一つのテーマに関して集中的な討議を行うというもので、その討議を踏まえての研究成果は、セミナーから数年後に同研究学院の出版部門(SAR出版)より叢書(Advanced Seminar Series)の一冊として公刊されている。1997年10月18〜24日には“Catas-trophe and Culture: The Anthropology of Disaster”という標題の研究会(オーガナイザーはAnthony Oliver-SmithとSusanna M. Hoffman)が開かれ、その成果は2002年にSAR出版より刊行された(編者はSusanna M. HoffmanとAnthony Oliver-Smith)。これを邦訳したのが本書である。
わたくしが、編者の一人Oliver-Smithの名を最初に知ったのはPlace Attachment(Altman and Low eds., Plenum Press, 1992)という書物においてであった。簡単な記述ではあったが、同書で、1970年のペルー地震でユンガイというインディオの町がほとんど壊滅したこと、生き残った者は世帯を超えて助け合ったこと、町の集団移転計画に反対したこと、木を神聖視したこと、などを知り、それを契機にOliver-Smithの論文をいくつか集めて読んだ。
その後、わが国で北海道南西沖地震(1993年)が起こり、わたくしはその被災地の一つ、奥尻島青苗地区の町内会の方々とささやかながらもかかわり合っての活動を行うようになり、Oliver-Smithの論文を読むことは少なくなった。しかしユンガイのケースは絶えず頭の中にあった。ユンガイと同様、青苗でも、いやその他の被災地でも、植樹という形で、樹木に対して特別の目が注がれたが、災禍からの立ち直りと樹木は文化の違いを超えどこかで結びつくものがあるのだろうかと思った。
青苗とのかかわりが一段落したころ、Oliver-Smithを編者の一人とする著書が相次いで公刊された。The Angry Earth: Disaster in Anthropological Perspective(Routledge, 1999)と、今回邦訳したCatastrophe & Culture: The Anthropology of Disasterである。両書において編者らが最もいわんとしているのは、(1)災害に見舞われた社会を援助するのに人類学の考え方や知識が役に立つということ、そして(2)人類学の研究発展のために災害は適切なテーマであること、である。この両者は、まさしく、わたくしが考えていたことと重なっていた(ただし、わたくしの場合は、「人類学の」ではなく「心理学の」であったが)。個々の災害に関しては莫大な数の体験記や新聞・雑誌記事や調査報告が著されるにもかかわらず、学問的水準に達したあるいは達することを目指した人文社会科学的研究は決して多くはない。しかしどうすれば学問的水準に到達できるのか。わたくし自身が試行錯誤していたこともあり、浅学非才の身を省みず邦訳を試みたしだいである。
翻訳にあたり不明な点はできる限り編者のOliver-SmithとHoffmanの両氏および寄稿者のMcCabe氏に尋ねた。本書の「謝辞」の中で編者らは仲間たちと重ねた自由な討論のことを述べているが、わたくしも、尋ねる、返事がある、また尋ねるといったことを繰り返しながら、貴重な体験を味わった。
扱われているテーマは多岐にわたり、訳者の不案内な事柄も少なくはなかった。先に述べたように、不明な点は編者らに尋ね、またわたくしの同僚であるWright氏からも種々教えていただいたが、神ならぬ身どこでどんな誤りをおかしているとも限るまい。多くの方のご指摘をお願いするとともに、本訳書が被災地・被災者に対する援助そして人類学に寄与することを願ってやまない。
2006年8月
若林佳史