目次
序文 二一世紀の「地域学」(平松守彦)
1 大分学
1 東京から見た大分——「大分学講座 in 東京」の試み(植村修一)
2 情報通信最先端県大分(尾野徹)
3 阿南惟幾と重光葵——日本を破滅から再興の途へ舵切った大分人(辻野功)
4 日出藩はこうして生まれた——秀吉・ねね・家康と大分(辻野功)
5 磨崖仏に湧水が存在する謎を解く(河野忠)
2 大分楽
1 別府八湯を楽しむ(平野芳弘)
2 「いいちこ——下町のナポレオン」はこうして生まれた(山邑陽一)
3 大分銘菓「一伯」はこうして生まれた(辻野功)
4 タウン情報誌『シティ情報おおいた』から見た大分(宮崎和恵)
3 地域再生
1 「一社一品運動」のすすめ(味岡桂三)
2 ハイブリッド型の地域再生戦略(角野然生)
3 宇佐神宮と国東半島を世界遺産に(永岡恵一郎)
4 『宇佐細見読本』から始まる地域再生
——キーワードは「発掘・保存・伝承」(平田崇英)
5 「海部のまつり」と大分市のまちづくり(姫野清高)
6 竹楽による竹田市の再生(井上隆)
7 厄介者の竹が観光資源に——新聞記者が取材した竹楽(佐藤弘)
あとがき(辻野功)
前書きなど
序文 二一世紀の「地域学」(NPO法人大分一村一品国際交流推進協会理事長 平松 守彦)
辻野先生が日本文理大学の教壇に立たれた平成一三年一一月、学生や一般市民を対象に公開講座『大分学事始め』が開かれた。
大分の風土、歴史、文化、また大分の生んだ賢人の思想と行動を分かりやすく解説するもので、当時、知事であった私も「一村一品運動」について講師として演壇に立った。文理大学菅記念講堂の円形の広い講義室には、学生諸君を始め、老人学校の皆さんや、主婦の方々も出席され盛況だった。
大分県は、地形が複雑で平野が少なく、多種少量の産品が多い。歴史的には小藩分立の国柄で、熊本が二藩(細川・相良)五六万石に比べ、五三万石で八藩七領、お互いに足を引っ張る「赤ネコ根性」という言葉も生まれたほどだ。
よしそれならば、それを逆手にとって一村で全国に誇れる名物を作り売り出そう。豊後なば師で有名な椎茸どんこ。大相撲の千秋楽で竹製カップに入った椎茸優勝杯を見た方は多いだろう。大分にしかない「かぼす」、麦焼酎「吉四六」「いいちこ」、豊後水道に水揚げされる「関あじ」「関さば」などの大分ブランド商品、ローカルにしてグローバルな産品が競い合いの中から生まれてきた。
翌年から始まった正式の「大分学」講座では、井上別府市長は別府観光の始祖・アイデアマン油屋熊八翁の別府八湯バスガイドのアイデアや地獄めぐり観光などのエピソードを語り、日本文理大学杉浦助教授は、大分の豊かさは素晴らしい自然なくしては語れないとして原生林の山「黒岳」の神秘さを紹介し、さらに大草原「久住高原」の自然は年一回の「野焼き」によって保たれていると語った。この講義の内容は『大分学・大分楽』というタイトルで刊行された。
私は「大分学」という言葉に鮮烈な感動を覚える。これまでは日本文化という名のもとに日本の伝統・文化・芸術が語られ、地域文化は日本文化のサブカルチャーとして取り扱われてきた。東京一極集中を是正し、地域が自立し、独自な文化を生み出し、個性ある地域が連合して日本国家を形成する。このような分権国家の実現には、地域の文化・歴史を探求し、ローカルにしてグローバルに通用する地域文化を作り上げることが必要だ。そのためにはその地域の歴史・文化を研究する「地域学」の確立が不可欠である。
最近、関西地方の歴史・文化の特性を探求する「関西学」研究や、司馬遼太郎氏の『街道をゆく』のように日本の地方の歴史、民話、風俗を旅行記風に探求する著書もある。
辻野先生は『大分学・大分楽』という題名を付けた。「スタディ大分・エンジョイ大分」である。こんな魅力的なテーマ、こんな楽しいネーミングはない。先生は今年から、植村・前日本銀行大分支店長と東京で「大分学講座 in 東京」を開講し、多くの聴講者を集めている。
『大分学・大分楽3』は、世界に通用する麦焼酎「いいちこ」誕生秘話や情報先進県大分のトップランナー「COARA」の苦労話など、大分学の真髄が語られている。二一世紀の『豊後風土記』として後世に伝えられる本である。