目次
はじめに
はしがき
第1章 本研究の概要と児童虐待防止プログラムの枠組み
1−1 本研究の概要16
1−2 児童虐待防止プログラムの分類「予防・調査・介入・治療」について
1−3 児童虐待防止プログラムの枠組み:第1次・第2次・第3次予防
1−4 アメリカ厚生省による第1次・第2次・第3次予防の定義
1−5 精神保健モデルの枠組み
1−6 全米家庭基盤型サービス・児童福祉資源センターの全児童虐待防止活動サービスのリストと枠組み
第2章 香港——行政とNGOのパートナーシップ
2−1 概要
2−2 香港の社会的背景
2−3 香港における児童虐待防止活動の歴史的背景
2−4 香港の現状
2−5 香港の行政機関とNGOの関係
2−6 政府からのNGOへの補助金
2−7 NGO組織「香港コミュニティ・チェスト」による児童虐待防止関連NGOへの助成金
2−8 香港のNGOの児童虐待防止活動の実態
2−9 まとめ
第3章 アメリカ——行政とNGOのパートナーシップの全体像
3−1 アメリカの概要と児童虐待防止の歴史的背景
3−2 アメリカにおける児童虐待防止関連の連邦法
3−3 児童保護および児童虐待防止の現状
3−4 アメリカ連邦政府とNGOの関係
3−5 地域におけるGOとNGOの両方が関与する児童虐待防止活動の動向
3−6 連邦政府による全米における区別対応システム・コミュニティ・パートナーシップの現状に関する全米アンケート調査
3−7 連邦政府による全米における区別対応システム・コミュニティ・パートナーシップの現状に関する聞き取り調査
3−8 連邦政府による全米における最新の児童虐待防止プログラム把握のためのプロジェクト
3−9 広く認知されている全国版児童虐待防止関連NGO
3−10 まとめ
第4章 アメリカ——NGOの活動と行政との連携の実態
4−1 概要
4−2 カリフォルニア州ロサンゼルス郡の児童虐待防止活動に関わるNGOの現状
4−3 ロサンゼルス郡のNGO
4−4 アメリカにおける家庭訪問プログラムを行うNGO
4−5 アメリカにおけるペアレンティング・クラス専門のNGO
4−6 アメリカの学校基盤型第1次予防プログラム
4−7 まとめ
第5章 アメリカ・ノースカロライナ州——地域開発型子ども虐待防止
5−1 カタウバ郡社会サービス局
5−2 カタウバ郡の虐待防止民間団体
5−3 相互支援
5−4 まとめ:日本が学ぶべきこと
第6章 イギリス——行政とNGOのパートナーシップの全体像
6−1 イギリスの概要
6−2 イギリスの児童虐待防止活動の歴史的背景
6−3 ヴィクトリア・クリンビエ虐待死事件と最近の動向
6−4 イギリスの児童虐待防止活動と児童保護の枠組み
6−5 イギリスの新・児童虐待/児童保護ケース対応のプロセス
6−6 「2004年児童法」に盛り込まれる新しい試み
6−7 イギリスにおける児童虐待・児童保護の現状
6−8 イギリスの児童虐待防止・児童保護システムにおけるNGOの位置づけ
6−9 まとめ
第7章 イギリス——NGOの活動と行政との連携の実態
7−1 全国版児童虐待防止専門NGOその1:全国子どもの家(NCH)
7−2 ノースリンカンシャイヤー・NCH・子どもと家族プロジェクトの場合
7−3 全国版児童虐待防止専門NGOその2:全国児童虐待防止協会(NSPCC)
7−4 全国虐待防止協会がリード機関として運営管理する「ソープハムレット・シュアスタート」の場合
7−5 全国版児童虐待防止関連NGOその3:ファミリーサービスユニット(FSU)
7−6 FSUのプロジェクト「ウェスト・ロンドンFSU」の場合
7−7 地域小規模NGO:ノースフォーク・ノーウィッチ・ファミリーズ・ハウスの場合
第8章 子ども虐待防止NGO国際比較質問紙調査
8−1 質問紙調査の概要
8−2 各国における民間非営利団体活動の活発さ
8−3 民間団体と他機関との役割分担
8−4 民間団体の今後の発展
8−5 重要な民間団体
【付録】児童虐待防止関連NGO国際研究調査用紙
第9章 結論
9−1 第1次・第2次・第3次予防をになう組織の量的結果から
9−2 第1次・第2次・第3次予防に関する聞き取り調査の結果
9−3 児童虐待防止活動におけるNGOの役割に関する政策提言
編著者あとがき
前書きなど
はじめに
児童虐待防止活動の発端は、1874年にアメリカ・ニューヨーク市のボランティア家庭訪問員の1人が虐待を受けていた子どもメリー・エレンを発見し、救済したことにあったといえる。この事件をきっかけに世界初の児童保護民間団体であるニューヨーク児童虐待防止協会が設立され、その後児童虐待防止活動は全米に広がった。
そのニューヨーク児童虐待防止協会の感化を受け、イギリスでは1884年に現在の全国児童虐待防止協会(National Society for Prevention of Cruelty to Children)の前身である民間組織すなわち児童虐待防止協会(Society for Prevention for Cruelty to Children)が設立され、全英に児童虐待防止活動が広まった。
その後、アメリカでは1960年代初期にケンプ医師が児童虐待(当時は「児童虐待症候群 Battered Child Syndrome」の名称)を再発見したが、日本では1990年代になって、ようやく一般市民の児童虐待への関心が急速に高まってきた。
それ以来日本でも各地で虐待防止のための取り組みが始まっている。注目すべき点は、この取り組みの発端は民間非営利団体によるものであり、現在も民間団体は各分野で高い専門性を持って活動している。一方、虐待防止先進国と同様に、現在の日本では法的権限を持つ行政機関(GO)が児童虐待防止活動/児童保護の中核を担っている。
つい最近、2004年4月14日に「児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律」が公布された。その第4条に、国および地方公共団体は、児童虐待の防止および早期発見、児童虐待を受けた児童の迅速かつ適切な保護・指導・支援などを行うため、「関係省庁相互間その他関係機関および民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援」その他児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めなければならない、と書かれている。
また児童福祉法が改正され2005年4月より各市町村は新たに虐待の通告を受理・調査・介入・フォローアップする義務を課せられ、これらの任務を果たすために要保護児童対策地域協議会を設置することとなったが、その協議会の一構成員としての民間団体の活躍も今後期待されるところである。
しかし残念なことに現在の我が国の民間団体のあいだで、自分たちの能力を地域の中で十分に発揮できないという不満の声がよく聞かれる。それは一体なぜなのだろうか。行政と民間団体のパートナーシップの構築は今後どのような方向に進めていくべきなのであろうか。
我が国と比べて虐待防止先進国では、長年の努力の積み重ねにより、行政機関と民間団体による子どもの虐待防止の取り組みが緊密な連携を保っているようである。
たとえば、本研究聞き取り調査対象国の1つであるイギリスでは、民間機関が行政機関と対等なパートナーシップを取りつつ、多くの民間機関が行政からの委託事業として虐待防止活動を行っている。また、アメリカは、虐待問題を世界に先駆けて発見した国であり、さすがに行政の取り組みが手厚いと同時に、民間組織も地域を基盤とした多様なサービス提供を行っており、さまざまな分野にわたる連携の様態はきわめて興味深い。本調査の対象国としてアジアから選択した香港は、イギリスのインディペンデント・テリトリーとして児童虐待の取り組みは古く、1997年の中国返還以来、児童虐待防止ならびに児童保護分野において独自の試みが見受けられる。
このような状況をふまえ、各国の歴史と現状について情報を集めて整理することにより、今後の日本における虐待防止非政府組織(NGO)のあり方を論ずるうえで重要な視点を提供することが可能になると考え、本研究に着手した。本研究の成果が、日本の児童虐待防止活動の発展に少しでも貢献できたらと願うものである。
2005年9月
研究代表者 桐野由美子