目次
はじめに(岡本雅享)
第1部 人種差別撤廃条約と日本における意義
第1章 人種差別撤廃条約の誕生と日本の批准(岡本雅享)
第2章 人種差別撤廃条約の概要と特徴(岡本雅享)
第3章 人種差別撤廃委員会(CERD)と報告制度の意義(岡本雅享)
第2部 在日コリアン、移住者をめぐる民族・人種差別の実態——人種差別撤廃条約(ICERD)に基づく検証
ICERD実施をめぐる政府とNGOの報告書(岡本雅享)
在日コリアン・マイノリティの権利に関する合同NGOレポート(在日韓国人問題研究所(RAIK)編(岡本雅享・佐藤信行・田中宏監修))
1 はじめに——歴史的経緯と現状(岡本雅享)
2 政府の人種差別撤廃条約実施状況に関する評価
朝鮮学校の児童・生徒への暴行事件(岡本雅享+安香秀)
日本式氏名への変更の圧力(岡本雅享)
民族教育を妨げず、促進する義務(岡本雅享+安香秀+金光敏)
就職をめぐる民族差別(金秀一+岡本雅享)
民族差別に基づく社会保障からの排除(金秀一)
住民投票における外国籍住民の排除(田中宏)
移住(労働)者、難民、滞日外国人の権利に関する合同NGOレポート(移住労働者と連帯する全国ネットワーク編(岡本雅享・鈴木健監修))
1 はじめに——歴史的経緯と現状(岡本雅享+小山かおる)
2 政府の人種差別撤廃条約実施状況に関する評価
血統および民族的出身に基づく外国人労働者の選別(古屋哲)
ブラジル人に対する集団暴行致死事件(岡本雅享)
「外国人犯罪増加」の流布——メディアを扇動する『警察白書』(中島真一郎)
「中国人かな、と思ったら110番」(岡本雅享+鈴木健)
私営および準公共施設における人種・国籍に基づく入場拒否
外国人に対する入居差別(塩路安紀子)
外国人女性——人身売買、家庭内暴力による被害と公的機関における差別的対応(本木朋子)
移住児童・生徒をしめ出す学校教育、ブラジル人学校を認可しない政府(島本篤エルネスト)
刑事拘禁施設内における人種差別(監獄人権センター)
入国管理施設における人種差別に基づく暴力行為(高橋徹)
第3部 人種差別撤廃委員会と在日コリアン、移住者問題
CERDの日本政府報告書審議と民族的マイノリティ問題(岡本雅享)
第4部 蔓延する排外主義——最近の動向から
第1章 拉致報道と朝鮮学校児童・生徒への暴行・嫌がらせの急増・蔓延(宋恵淑)
第2章 露骨な朝鮮学校差別と民族教育権の否定(宋恵淑)
第3章 公立学校の民族学級支援策と政府施策の不備——大阪市の事例から(金光敏)
第4章 「外国人」入店禁止という人種差別(有道出人)
第5章 移住者の子どもの教育をめぐる近年の動向——ブラジル人の就学、母語教育等を中心に(島本篤エルネスト)
第6章 ゼノフォビアを招く「外国人犯罪」報道——その作られた虚像(旗手明)
第7章 国家対策となった外国人犯罪——「警察白書」の浸透と激増する外国人犯罪報道(中島真一郎)
第8章 改善しない入管収容施設内での人種差別——中国人等に対する虐待の続発と実効性のない不服申し立て制度(高橋徹)
第9章 入管メール通報制度——政府による人種差別・排外主義の扇動(矢野まなみ)
第5部 民族・人種差別撤廃——国際基準、欧州の経験と日本の課題
第1章 人種差別禁止・処罰立法の不作為——CERDの審議、諸外国との比較(岡本雅享)
第2章 ヨーロッパにおける反人種差別法のいま(吉川愛子)
第3章 人種差別訴訟をめぐる判例法理の発展と課題(東澤靖)
第4章 民族差別禁止と政治の責務——欧州の経験と日本における実現可能性(岡本雅享)
あとがき(岡本雅享)
資料一覧
<資料1> 人種差別撤廃条約条文(実体規定)(岡本雅享訳)
<資料2> 人種差別撤廃条約第1・2回政府報告書抜粋
<資料3> 人種差別撤廃委員会の総括所見(在日韓国人問題研究所(RAIK)国際人権部会訳)
<資料4> 法務省が挙げる「人種差別撤廃条約第4条を担保する国内法」
<資料5> 反人種差別立法の制定における諸政府の指針となる国内立法モデル(山崎公士訳)
<資料6> 欧州各国の議会勢力(主要政党の議席数及び議席率一覧)
コラム一覧(岡本雅享)
<コラム1‐1‐1> 国連史上初めて人種差別撤廃を提起した国——日本
<コラム1‐1‐2> 日本の反中国・韓国朝鮮主義——東アジアの国際平和・安全への脅威
<コラム1‐2‐1> ゼノフォビア——新たな脅威
<コラム1‐2‐2> 日本のゼノフォビア——外人嫌い
<コラム1‐2‐3> 国籍による区別という名の民族差別
<コラム2‐3‐1> 引越しで110番された中国人
<コラム5‐1‐1> 留保と解釈宣言
<コラム5‐4‐1> アルゼンチンの反人種差別法
<コラム5‐4‐2> ブラジルの反人種差別法
<コラム5‐4‐3> 中央政府と地方政府——対等で異なる二つの政治体制
<コラム5‐4‐4> 法曹界のイニシャティブ
<コラム5‐4‐5> FTA・EPAと外国人受け入れ議論
表一覧
<表1‐1‐1> 国際人権条約一覧(2005年1月現在)
<表1‐1‐2> 日本の国際人権条約批准状況(2005年1月現在)
<表1‐3‐1> 人種差別撤廃委員会の一般的勧告
<表1‐3‐2> CERDとHRCの比較
<表1‐3‐3> 人種差別撤廃委員会(CERD)委員リスト(2001年3月)
<表2‐2‐1> 帰化許可者数(韓国・朝鮮籍)
<表2‐2‐2> 父母の国籍別に見た年別出生数
<表2‐2‐3> 法務大臣への届出により日本国籍を取得した者の数
<表3‐1‐1> 在日韓国・朝鮮人児童・生徒が利用する通学路における街頭啓発の主な実施状況(1998年)
<表4‐6‐1> 外国人犯罪関連の最近の動き(2003.7〜2004.4)
<表4‐8‐1> 非日本人を虐待する入管職員
<表4‐8‐2> 国籍別隔離室の使用状況
<表5‐1‐1> 主要国のICERD締結方式及び国内法の整備状況
<表5‐2‐1> ヨーロッパ諸国における反人種差別法とその施行、改正年
<表5‐2‐2> ヨーロッパ諸国の人種差別モニター機関
<表5‐4‐1> 人権擁護法案(2002−2003年)の概要
前書きなど
本書の目的と特徴
本書の出版はCERD審議直後の2001年春に企画され、その時点では巻末に民族差別禁止法案を掲載し、その解説をもって結論とするつもりであった。しかしその後、国際人権条約の履行を重視する議会勢力の減退、人権擁護法案の国会上程と廃案、弁護士主体のNGOによる人種差別禁止法案公表など、状況が大きく変化した。
こうした目まぐるしい状況変化の中で、本書を刊行する意義は、以下のような点にあると言えよう。まず、本書の中核は第2部の実態報告書であるが、在日コリアン、移住者、難民に関して、ICERDに基づくこれほど詳細で緻密な実態把握と検証作業は、いまだに類書がない点である。立法にあたってはその前提として、現在の日本でICERDに抵触する、どんな人種・民族差別が存在するのか、という立法の必要性を立証する具体的な情報を、より包括的・客観的かつ正確に収集する必要がある。第5部の吉川論文が検証する欧州における反人種差別諸法の制定過程や、千葉県の障害者差別禁止条例づくりの動向がそれを示唆していると言えよう。本書には、国会質問主意書に対する内閣総理大臣答弁書、国会質問によって引き出された、いまだ一般の人の目には触れていない貴重なデータや政府見解も随所に盛り込んでいる。
また、本書は1995年のICERD批准、2001年のCERD勧告を経てもなお、日本で人種・民族差別禁止法が制定されないという、この間の状況に鑑みて、当初の構想を改め、その実現にはどのような状況が必要かという、社会的推進・非推進要因の検証・分析(社会的推進要因の検証・分析)を、政治社会学的なアプローチによって行うことを最終章の課題に置き換えた。言い換えれば本書では、人種・民族差別禁止法案制定に向けた提言活動の意義と必要性を前提としつつ、それに資するべく、最終章で類書にはない視点を提起してみた。ただしこの最終章は、関係者間の議論を十分経ていない「試論」的な意味合いを持つものであることを、お断りしておきたい。
なお、本書をお読み頂くにあたって、いま一つお断りしておかねばならないことがある。本書は『日本の民族差別』と銘打ちながら、日本における人種・民族差別を、包括的に捉えるものにはなっていないという点である。CERDでは、ICERDの対象として、先住民族や被差別部落出身者の問題も審査されたが、本書は在日コリアン、移住者、難民への差別に限定し、さらにその中でも、ICERDに抵触すると思われる事象に絞っている。それは、本書の中核となる二つの合同NGOレポートを筆者が監修・編さんしたという経緯にもよる。しかしながら第一義的には、本書の目的が、政府が把握していない実態を市民社会で収集・分析し、ICERDという法的規準に基づいてその違法性を検証し、既存の法制度ではICERDの締約国義務を履行することができず、少なくとも刑法等の改定が不可欠であり、さらに人種差別禁止法の制定が望ましい状況にあることを立証する点にあるからである。
本書の構成
本書はもともと2001年春のCERDレビュー本という位置づけで構想・企画された。その発端からしても、本書の中核は、第2部の実態報告書、第3部のCERD審議レビューとその後の動向検証にある。この実態報告書は作成から4年を経ているので、第2部では統計数字など若干のアップデートを〔 〕で、より大きな状況の変化等はコラム形式で加えた。さらにコラム程度では書ききれない変化の大きいものや、新たに生じた人種・民族差別の動向を明らかにし、分析するために、第4部を設けた。第1部は、第2部、第3部を読む上での前提となるICERDやCERDの機能・特徴・意義などを整理したものである。第5部では、第2部〜4部の実証研究・分析によって、現行法制度の不備や、人種・民族差別禁止法制定の必要性を明らかにした上で、その課題を今後実践・実現していく際に必要・有効な視座や指標を提起している。第5部の1〜3章では、日本のICERD第4条留保の問題点、欧州各国の経験や、ICERD批准以降の人種・民族差別事件をめぐる訴訟の性質・司法の対応変化に関する、少し長めの論文を盛り込んだ。そして最終章で、人種・民族差別禁止をめぐる日本の到達点、欧州との比較を交えた差別禁止・処罰立法の推進要素・非推進要素の(議会における中道左派勢力と市民団体の力を主軸にした)分析や、日本で先行する女性差別(セクシャルハラスメント)、障害者差別禁止・処罰の動向との比較から見た、立法への試みが促され得る場合の予測的シナリオ等を提示している。
こうした本書が、日本で社会的に弱い立場に置かれている人々が、(自分のせいではまったくない)理不尽な人種・民族的偏見や差別によって、悔しい思いをしないですむ社会を作ることに、少しでも貢献できれば幸いである。
(2005年5月18日脱稿)