目次
序文 先住少数民族について<br>解説 ヨーロッパの少数民族<br>第1部 西・中欧<br>〈北欧〉<br>1 フェロー諸島 ◇迷える「羊の島々」(海保千暁)<br>2 サーミ ◇先住民権をもとめて(庄司博史)<br>3 スウェーデン語系フィンランド人 ◇国家形成への寄与と少数派の権利擁護にみるフィンランド近代化の歩みから(高橋絵里香)<br>〈イギリス〉<br>4 マン ◇今日のマン島「先住民」(松尾有希子)<br>5 カムリー(ウェールズ)◇最強の言語に対抗する最強の少数言語(原 聖)<br>〈ドイツ・オランダ〉<br>6 フリジア ◇北海沿岸を結ぶ言語の絆(清水 誠)<br>7 ソルブ ◇ドイツ語圏とスラヴ語圏のはざまで(木村護郎クリストフ)<br>8 ロマ(1)◇シンティとロマ(小川 悟)<br>〈フランス・スペイン〉<br>9 ブルターニュ(ブレイス) ◇「共同体の論理」をめぐって(鶴巻泉子)<br>10 バスク人(エウスカルドゥナク)◇現状理解のための史的背景(萩尾 生)<br>11 カタルーニャ ◇言語空間とアイデンティティの複合性(竹中克行)<br>12 コルシカ ◇「フランス」の鏡に映る自我(定松 文)<br>13 ロマ(2)◇スペインとフランスを中心に(久野聖子)<br>〈イタリア〉<br>14 南チロル ◇自治獲得から地域的結束へ(山川和彦)<br>15 グレコ—カラブロ/グリキ ◇イタリアのギリシャ系コミュニティ(大澤麻里子)<br>16 フリウリ ◇特にフリウリ語の文化について(山本真司)<br>第2部 東欧・ロシア<br>〈東欧・バルカン〉<br>17 カシューブ ◇生き残った独自のスラヴ文化(関口時正)<br>18 ポマク ◇「何者か?」を問われ続ける人々(松前もゆる)<br>〈ロシア・ウクライナ〉<br>19 ネネツ ◇極北のトナカイ遊牧民(吉田 陸)<br>20 マリ ◇ボルガとウラルの民(田中孝史)<br>21 ルシン/スロヴァキア・ウクライナ人 ◇ルシン/スロヴァキア・ウクライナ人の成立——歴史的素描(伊東一郎)<br>22 クリミア・タタール ◇強制移住を生き抜いた民族(中井和夫)<br>監修者あとがき<br>索引<br>編者・執筆者紹介
前書きなど
刊行にあたって<br> 一九九一年のソ連邦の崩壊により、米ソの冷戦構造は終焉を迎え、折から目覚しい発展を遂げてきたIT(情報技術)の時代が、政治的平和とともに華やかに幕開けしたかにみえた。<br> しかし他方で、地球の自然、人間の環境は恐るべき勢いで荒廃してきている。空気や水の汚染、地球温暖化による氷河・氷山の溶解と海面水位の上昇、森林の破壊による砂漠化の広がり、エネルギー資源の枯渇、人口の増大と食糧不足、そして貴重な動植物の種の絶滅、狂牛病の発生、HIVやSARSのような新型ウイルスの出現も、人類による自然の秩序破壊と無関係ではないと思われる。<br> こうした人類文化の変化・発展と地球環境の荒廃の中で、そのマイナス面のしわ寄せを最も苛酷に蒙っているのが一般的に当該国民国家の中で少数民族と呼ばれている人びと、なかでも先住少数民族と呼ばれる多くの孤立的集団であろう。<br> 先住少数民族が他の少数民族ともっとも異なっている点は、彼らが自らの自由な意思や合意の確認がないままに当該国家に組み込まれた人びとだということである。したがって、先住少数民族の場合、「民族自決権」が留保されていると考えることができる。先住少数民族に民族自決権が残されているということは、彼らには土地権や資源権も留保されているということであり、きわめて重要な属性であるといわねばならない。国家が各自の主権と国境を不可侵のものとし、他方で、多くの国家がいくつかの政治・経済連合へと向かう動きを示しつつある現代世界で、先住少数民族の問題は、基本的人権思想をもちだすまでもなく、人類史に残されてきた深刻な未解決の課題であろう。<br> 本講座は、このような21世紀初頭における先住少数民族の状況を、国連の議決から10年を経た今再確認し、より多くの人びとにその情報を届け、少しでも早く、先住少数民族の社会、経済、文化的状況を、彼らの主体性において改善していく上での一助になることを願って企画されたものである。<br> IT革命、グローバル化が加速度的に進む現在、貴重な文化を育てて来たこれらの人びとの苦難を救っていくことこそ人類の最も緊急な責務ではなかろうか。(序文より抜粋)