目次
特集 社会的民主主義の最前線
社会的民主主義の最前線(住沢博紀 [日本女子大学教授])
二〇世紀西欧社会主義あるいは社会民主主義について(ドナルド・サスーン[ロンドン大学クイーンメアリー校教授] 翻訳・伊藤克容[成蹊大学助教授])
社会的民主主義の理論(トーマス・マイヤー[ドルトムント大学教授] 翻訳・住沢博紀(日本女子大学教授])
スペイン社会労働党サパテロ首相とイラク戦争(フェルナンド・バイェスピン[マドリード自治大学教授 翻訳・武藤祥(東京大学大学院生])
EUリスボン戦略に関するコック報告と社会的ヨーロッパの展望(長尾伸一[名古屋大学教授])
サステイナブルシティとEU環境ガバナンス(岡部明子[千葉大学助教授])
[深層] 天下大乱の予感 (歳川隆雄[『インサイドライン』編集長])
「第三の道」からポスト・デモクラシーへ?(小川有美[立教大学教授])
緑の政治から見たフランス社会党(畑山敏夫[佐賀大学教授])
スウェーデンの高齢者福祉と社会的民主主義(斉藤弥生[大阪大学助教授])
[頂門一針] 自己顕示の時代(頑童山人)
知識社会と現代資本主義(後藤邦夫[桃山学院大学名誉教授])
アジア・ルネッサンス時代の日本の選択(久保孝雄[アジアサイエンスパーク協会名誉会長])
[想うがままに] 私たちはどこからどこへ(小寺山康雄[本誌編集委員])
日本の市民社会は成熟したか(後藤仁[神奈川大学教授])
テキストとしての憲法典と、実践としてのコンスティテューション(杉田敦[法政大学教授])
ニュージーランドの「市場化」実験と労使関係法の変遷(要宏輝[元連合大阪副会長])
[現代と思想家] マルクスは死んだのか?(的場昭弘[神奈川大学教授])
[発信] 地域の助け合いの会「サポートぱんぷきん」(石川 みのり[サポートぱんぷきん代表])
[この一冊] 「中村哲氏の歴史論 三点」をめぐって(西田照見[立正大学名誉教授 ])
『アメリカ−過去と現在の間』古矢旬著(町田隆史[ジャーナリスト ])
座談会 「若きアイヌの現在と未来」(宇佐照代×酒井美直[レラの会 ])
[医療と現代] 臓器移植法改正案を前にして(富沢瑞穂[医療問題研究者 ])
読者からの便り
05夏号(Vol.4)予告
『現代の理論』からのお願い
編集後記
前書きなど
特集のことば 第三号は、「社会的民主主義の最前線」という特集号を組んだ。『現代の理論』の伝統を継承して、今回はヨーロッパに飛んだ。ブッシュのアメリカが小泉政権を取り込んでネオコンの世界戦略を推し進める現在、あるいはアメリカ流シェアーホルダー価値(株主のものとしての企業)がグローバルに展開される二一世紀初頭、日本の批判的な人々の目は、再びヨーロッパに向けられている。 「社会民主主義」ではなく、なぜ「社会的民主主義」となっているのか、読者には気になるところであろう。第一に、二〇世紀社会民主主義との区別を強調したいためである。社会主義の多様な形態ではなく、むしろ民主主義の多様な形態として、二一世紀社会民主主義を考察するためである。第二に、現存した二〇世紀社会民主主義は、ドイツやイギリスで典型的なように、一国レベルの固有名詞としての社会民主主義であった。グローバル化やEU地域統合に見られるように、現在ではより普遍的な社会的民主主義論の可能性が問われなければならない。 また「最前線」として、これまでにない議論やテーマを集めた。歴史と理論に関しては、それぞれ大著を著し第一人者であるサスーンとマイヤーに依頼した。昨秋、ベルリンの社民党系研究者会議で知り合ったスペインのF・バイェスピンに、日本でも関心の深いイラク撤兵について論じてもらった。日本側でも、小川有美、岡部明子という、二人の優れた若手研究者の寄稿を得た。長尾伸一、斉藤弥生、畑山敏夫の三人は前からの知人であるが、今回はこちらから新しいテーマを依頼した。私は団塊世代に属し、これまでは上の世代の知識人との結びつきが強かった。しかし今、私たちがもっと若い世代と協働しなければならないポジションになった。この特集では、三〇代、四〇代を含み全員が私よりも若い。翻訳者も入れると二〇代まで若返る。これは編集者としての密かな喜びであり、これからの『現代の理論』の指針ともしたい。 杉田敦論文にも言及しておきたい。自民党が復古的な条文を入れることに固執し、社民党が九条擁護のために護憲ピュアを主張する現在、五五年体制の改憲・護憲論は、思考停止と深刻な袋小路に陥っている。政治の現実形成能力を規範的要請に準拠して活性化すること、これこそ杉田のいうコンスティテューションの課題であり、マイヤーの社会的民主主義論の含意でもある。これを機に「憲法論争」を、言論NPOとしての『現代の理論』を舞台に、多角的に継続・深化させていきたい。 ------------------住沢