目次
第一章 人類学への展望
人類学と民族学
「四つの分野」
理論と民族誌
人類学的パラダイム
「パラダイム」の概念/通時的、共時的そして相互作用的視点/社会と文化
人類学の歴史に関わる展望
まとめ
第二章 先駆者たち
自然法と社会契約
一七世紀/一八世紀
一八世紀ヨーロッパにおける人間性の定義
野生の子供たち/オラン・ウータン/「野蛮人」にまつわる考え方
社会学的、人類学的思考
社会学的伝統/人類の起源と進化をめぐる二つの説
まとめ
第三章 進化論の変化
生物学と人類学の流れ
単系進化論
メーン、ラボック、モルガン/母系制と父系制/「トーテミズム」理論/「原始」宗教をめぐるタイラーとフレイザー
一般進化論
V・ゴードン・チャイルド/レズリー・A・ホワイト
多系進化論と文化生態学
ジュリアン・H・スチュアード/ジョージ・ピーター・マードック
新ダーウィン主義
社会生物学/象徴的革命?/最近の傾向
まとめ
第四章 伝播主義と文化領域理論
伝播主義の先行的学問
伝播主義者登場以前
伝播主義の本元
ドイツ=オーストリアの伝播主義/英国の伝播主義/今日の伝播主義?
文化領域と地域研究
アメリカ人類学における文化領域研究/地域比較、国民的伝統そして地域的伝統
まとめ
第五章 機能主義と構造機能主義
進化主義の先行研究者たち
デュルケム社会学
マリノフスキーの機能主義
機能主義とフィールドワーク/文化に関わる科学的理論?
ラドクリフ=ブラウンの構造機能主義
社会の自然科学/機能、構造そして構造形体/意味論的構造か、社会構造か/トーテミズムの二つの理論
マリノフスキーとラドクリフ=ブラウンの影響
まとめ
第六章 行為中心主義、過程論そしてマルクス主義的視点
行為中心主義と過程論
社会学的起源/人類学の起源/トランザクショナリズム/マンチェスター学派
マルクス主義的研究
マルクス主義的人類学の主要概念/ゴドリエの構造主義的マルクス主義/「土地と労働」:メイヤスー/政治経済とグローバル化理論
三つの論争
フリードマン対リーチ:カチンの政治経済/ウィルムセン対リー:カラハリの歴史と民族誌/オベーセーカラ対サーリンズ:キャプテン・クックの死をめぐって
まとめ
第七章 相対主義から認識科学へ
ボアズと文化相対主義の台頭
文化とパーソナリティ
未開の思考?
レヴィ=ブリュルの反相対主義/ウォーフの言語相対主義/ウォーフ批判/合理性論争
認識科学に向けて
構造的意味論/認識人類学/エスノ・サイエンス
まとめ
第八章 構造主義 言語学から人類学へ
ソシュールと構造言語学
ソシュールと「講義」/主要な四区分/ソシュール以降
レヴィ=ストロースと構造人類学
構造主義、様式、思想/親族の基本構造/料理の三角形/オイディプス神話
構造主義と国ごとの人類学的伝統
まとめ
第九章 ポスト構造主義、フェミニストおよび独歩派
ポスト構造主義と人類学
デリダ、アルチュセールそしてラカン/ブルデューの実践理論/フーコー:知識と権力に関する理論
人類学とフェミニスト研究
ジェンダー研究からフェミニスト人類学へ/象徴的構築としてのジェンダー/社会関係の複合体としてのジェンダー/エンボディメント
二人の独歩派
構造と葛藤:ベイトソンと国民性/構造と行動:ダグラスのグリッド・グループの枠組み
まとめ
第十章 解釈主義とポストモダニズム
エヴァンス=プリチャードの解釈的手法
ギアツの解釈主義
変革期の諸概念
再帰主義
東洋、西洋そしてグローバル化
ポストモダン主義とポストモダン人類学
相対主義への回帰/「文化を書く」/ポストモダン主義に関わる問題/混在する手法:妥協なのか
まとめ
第十一章 まとめ
各国の伝統と人類学理論の将来
人類学の歴史:再考
まとめにかえて
前書きなど
日本語版への序文(前略)本書は人類学理論に関わる、わたし自身の講義ノートから始まっている。何度か草稿を繰り返しているうちに、思想史的な観点、国ごとの相違、偉大な人類学者や新しい視点が与えたそれぞれの影響を考慮するようになった。そのことが、従来の人類学史や諸理論の解説とは別の展開を試みることにつながった、とわたしは感じている。 執筆に際して、わたしは諸理論の基本的視点を強調した。そして学派ごとの微妙な特徴には注意を払いながらも、できる限り簡潔な記述をするように心がけたつもりだ。ある理論は直截的だったり、特定の人物との結びつきが明らかなものもある。マリノフスキーと機能主義とか、構造主義とレヴィ=ストロースというのは、その例であろう。 本書では、人類学的思考の展開は先行する理論の収斂、あるいは分岐によって可能になっていることを提示しようとしている。例えばボアズの文化概念があったからこそ、社会を人間の関係性の集合体だとするラドクリフ=ブラウンの考えに連なる。そして今日の人類学者は、出身地にかかわらず、この学問の偉大な先達に敬意を払いながらも、かれら独自の異なる疑問や仮説を抱えている。 本書の構成は、テーマと歴史的展開の二本立てとなっている。そしてこれによって、人類学思想の継続性と変形を強調している。言い換えると、任意の研究者が後に続く若手に与えた影響の大きさを示すと同時に、分断にも注意を払っているということである。これまで人類学者は先輩研究者が残した仮説や疑問について臨機応変に対応してきた。人類学者は、ある時には目の前にいる先輩研究者が構築した前提であっても、打ち破る勇気と大胆さを備えている。かれらはそうした学問的姿勢が受容される世界に身を置いているのである。その一方で、理論的展開の陰日向に潜む世代的なつながりや人間関係は学問的進展にも大きな意味を持ってきた。そうした関係性に内包されている機微は、ゴシップとして人びとの好奇心や興味を呼び起こしたりすることがある。本書ではこの部分については深く立ち入ってはいないが……(後略)