目次
はじめに
第1章 キューポラのある街
キューポラのある街/火と汗と溶鉱炉/二人三脚で/それぞれの思い
第2章 海に魅せられた男
仕事場は五二五キロの海岸線/海底調査/ブンクルを歩く/海に魅せられて/漁民の声/タコ壷漁顛末記
第3章 バティックをデザインする
国立バティック研究所/技術を学ぶ/ジャワ文化を受け継ぐ/バティックを訪ねる/マリオボロ通り/メラピ山を描く/王家とバティック/国際市場への参入
第4章 造船国? インドネシア
ドックが沈んだ!/経験を生かす/国営ジャカルタ造船所/舟を造る/はじめてのインドネシア語/技術指導/バタム島を訪ねる
第5章 日本語教室を立ち上げる
日本語を教えるということ/インドネシアの教育制度/日本語教室/ゼロからの出発/勉学と悩みと/賑わう日本文化祭
第6章 国際共同研究へ向けて
ヤシの葉が揺れている島/サムラトランギ大学寄生虫学教室/多発する熱帯病/熱帯フィールド研修/国際共同研究へ向けて
第7章 ジャカルタ・ビジネスマップ
交通渋滞のジャカルタ/松下ゴーベル教育財団/人を育てる/ボランティア活動でお返しをしたい/アイディアで勝負/インドネシア語を学ぶ/首都ジャカルタ
第8章 農民とともに(一)
インドネシア農業の原点/モデルファーム/コメの輸入国 インドネシア/農村のデータを集める
第9章 農民とともに(二)
ボランティア農村日記
第10章 農民とともに(三)
国立農業センター/スイカの栽培実験/丘陵地帯を歩く/貧しいインドネシア農民/増える出稼ぎ労働者/スイカが実った!/ホテルライフを楽しむ/ベチャに身をまかせて
第11章 母と子
保健衛生事務所に着任/遅れている妊産婦教育/母子手帳をよりどころに/山村を訪ねる/悩みを話し合う
前書きなど
はじめに あなたは、シニア海外ボランティアの制度についてご存じでしょうか。シニア海外ボランティア事業は、海外の開発途上国で、ボランティア精神をもってその国の開発に協力したいという意志のある中高年の方々を支援するため、平成二年に外務省と国際協力事業団(現在の国際協力機構JICA)により開始された事業です。対象国も徐々に増え、現在(二〇〇四年六月時点)までに五三ヵ国、派遣されたボランティアは一九一八人にのぼっています。 なかでもインドネシアには、両国間の深いつながりを裏付けるように、最多の通算一七六人が赴任していますが、本書は、インドネシア各地で経験と知識を駆使しながら、新しい国造りに情熱を傾けるシニアボランティアの奮闘ぶりを現地の様子をからめながら追跡、取材したものです。 南国インドネシアはさまざまな魅力や可能性を秘めています。赤道直下、東西五一〇〇キロ、一万三〇〇〇を越す島々からなる世界最大の島嶼国家インドネシアには、観光地として人気の高いバリ島やロンボク島、美しい海岸線、希少動物や植物の宝庫として知られるカリマンタン島などに加え、石炭、石油、銅、マンガンといった資源にも恵まれ、今後の開発への期待が高まっています。 しかしその一方でインドネシアは、独立以来懸案となっている経済再建や社会制度の整備が進まず、高い失業率、治安の悪化、物価の高騰などによる社会不安は、地域や貧富の格差を生み出しています。 本書では、このような状況のなかでも、屈託のない笑顔を見せ明るく生きようとする多くのインドネシアの人たちが登場します。前近代的な鋳造工場で汗を流す労働者、伝統漁法に生きる漁民、マラリア、デング熱などの感染症研究者、貧困と隣り合わせの農民……。そして、そのような人たちの傍らにはシニアボランティアの姿があります。 シニアボランティアには、長年培われてきた専門知識や豊富な経験が求められています。 「ひたすら会社一途に働いてきたが、これからは開発途上国のお役に立ちたい」 「自分の技術や知識を多くの人に伝えたい」 「書物で得た知識ではなく、実際に異文化に接触したい」 ……… 動機や思いは様々ですが、シニアボランティアはいろいろな分野で“草の根交流”を実践し、“顔の見える、普段着の開発援助”を続けています。 私自身、シニアボランティアとして、ジョクジャカルタの放送単科大学MMTCでテレビ番組の制作指導に当たりましたが、先輩や同僚の活動を紹介できないものかと、各分野に派遣された一五名(派遣期間は一九九九年一一月〜二〇〇三年一〇月のそれぞれ二年間、青年海外協力隊員二名を含む)を訪ね歩きました。 取材を続けるうえで苦労もありました。着任前にひと通りのインドネシア語を学んだつもりなのに、現場ではほとんど理解してもらえず四苦八苦をしたり、宗教や生活習慣の違いの認識がなく恥かしい思いをしたこともありました。しかしどのようなときでもインドネシアの人たちは真摯に耳を傾けてくれ、取材を進めるうえでの無理な注文にも柔軟に対応してくれました。インドネシア人は世界でも稀にみる心の奥行きが深い民族、ともいわれています。そのような人たちと生活を共にし、汗を流してこそ、シニアボランティアの活動も成果をあげ、実を結んでいくに違いありません。 産業の近代化への脱皮、慢性的な指導不足など、インドネシアを始め世界の開発途上国は、いくつかの問題を抱えこんだまま国造りへの模索を続けています。「二一世紀は高齢者の時代」、「二一世紀はボランティアの時代」ともいわれています。さあ、次はあなたの出番です。アジア、大洋州、中南米、中近東、アフリカ、欧州の国々や地域では、あなたの優れた技術や知識、豊かな経験を求めています。海の向こうで更なるチャレンジをされてはいかがでしょうか。(後略)