目次
序 人権文化の創造/上田正昭
第1章 国際人権/山崎公士
1 「国際人権」はなぜ重要なのか?/2 国際人権は第二次大戦後発展した/3 世界人権宣言/4 国際人権規約と人権諸条約/5 人権諸条約と国家の国際的な義務/6 人権諸条約を守らせるしくみ/7 国連の人権保障システム/8 国際人権とNGOの役割/9 国際人権の国内での実施/10 国際人権の普遍性・不可分性・非選択性/11 むすびにかえて
第2章 難民と人権/本間 浩
1 難民問題は私たちの生活にどのように関わるのか/2 難民が流出する原因としての人権侵害/3 外国人の人権擁護制度としての難民保護/4 難民保護に立ちはだかる障壁としての実際上の問題点/5 難民問題の解決とは何か
第3章 マイノリティ/今野敏彦
1 マイノリティ問題のエピソード/2 「マイノリティ」とは何か/3 マイノリティのとらえ方/4 対マイノリティ施策とマイノリティの型/5 マイノリティと部落差別/6 マイノリティ・グループとジェノサイド/7 マイノリティと人権
第4章 環境破壊/松本昌悦
1 環境破壊の経緯と現状/2 地球規模の環境破壊と環境法制/3 地球温暖化問題と環境保全対策
第5章 アイヌ/計良光範
1 対アイヌ政策概史/2 「旧土人保護法」の意味/3 アイヌを文化的存在に閉じ込めた新法/4 江戸中期で停まったままの和人のアイヌ像/5 アイヌの人権/6 アイヌの人権回復へ向けて/[資料1]北海道旧土人保護法/[資料2]アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律
第6章 沖縄/新崎盛暉
1 はじめに/2 現代日本における沖縄の位置/3 基地と人権
第7章 新来外国人/渡戸一郎
1 「新来外国人」の意味と多様性/2 新来外国人の法的地位と問題点/3 労働・生活・意識の変化/4 偏見・差別を超えて——地域からの「多文化共生社会」づくり
第8章 定住外国人/仲尾 宏
1 定住外国人とはどういう人たちか/2 解放後の旧植民地出身者/3 定住外国人をとりまく差別と法制/4 これからの定住外国人と日本社会
第9章 同和問題/秋定嘉和
1 はじめに/2 近代社会と被差別部落/3 大和同志会から全国水平社へ/4 戦後の経済変化/5 戦後の解放運動/6 差別事件の新局面/7 同和行政の再開から人権行政へ/8 戦後教育の展開/9 おわりにあたって
第10章 障害者/堀 正嗣
1 障害者の歴史とノーマライゼーション/2 障害とは何か/3 日本における障害者問題への取り組み/4 共生社会に向けての現状と課題
第11章 高齢者/田中尚輝
1 高齢者と人権/2 権利問題の所在/3 日本の福祉と人権/4 変化する福祉/5 人権と社会福祉思想/6 福祉制度の変化/7 「介護保険法」と権利
第12章 女性/福田雅子
1 女性の権利は人権である/2 男女平等への歩み/3 ジェンダー・フリーの視点をいま/4 女性への暴力
第13章 子ども/喜多明人
1 いま、なぜ、子どもの人権か/2 世界の子どもの人権
第14章 性/山本直英・高柳美知子
1 「性器」は個人最後の人権/2 マジョリティの性器/3 マイノリティの性器
第15章 情報/田島泰彦
1 情報環境の変容とメディア規制/2 知る権利と情報公開制度/3 メディアへの市民の苦情申立て制度/4 青少年保護と表現の自由
第16章 エイズ/日高庸晴・宗像恒次
1 感染経路による差別/2 感染経路別の患者イメージ/3 差別によって阻害される「自分らしさ」/4 自己決定を阻害するものは何か/5 当事者のエンパワーメント/6 変化してきたエイズ治療/7 開発途上国病エイズにみる人類の関係性/8 おわりに
第17章 医療・生命倫理/八尋光秀
1 おまかせ医療から私たちが主人公の医療へ/2 見えない科学から見える科学へ/3 あたらしい信頼関係を求めて
第18章 受刑者/菊田幸一
1 受刑者とは/2 受刑者の人権/3 刑務所における法の支配/4 国際的視点から見た受刑者の人権/5 日本の受刑者/6 受刑者の人権——その展望
参考文献
執筆者略歴
前書きなど
序 人権文化の創造 一九四八年の一二月一〇日、国連第三回総会が「世界人権宣言」を採択してから、早くも五十有年余の歳月が経過した。「世界人権宣言」は「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」との前文からはじまる。そしてその第一条には「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」、第二条の1には「すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる」と規定している。前文と第一条から第三〇条におよぶ「世界人権宣言」は、第二次世界大戦の惨苦を前提としての「自由、正義及び平和の基礎」を確立するための「人権宣言」であった。 しかし所詮「宣言」は「宣言」であって、国際法規ではない。国連は一九六六年の第二一回総会の「国際人権規約」をはじめ、女性差別撤廃条約・子どもの権利条約・人種差別撤廃条約・先住及び種族民に関する条約など、さまざまな条約や規約を採択してきた。日本国もこれらの世界人権にかかわる条約や規約を批准し、それに加盟してきたが、これらの条約や規約は、「日本国憲法」の重要な柱のひとつである基本的人権の尊重に関する条文とその精神を補完する。たとえば「日本国憲法」の第九八条2には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と明記されている。 一九九四年の一二月、国連第四九回総会が決定した「人権教育のための国連一〇年」の「行動計画」にも、「世界人権宣言の全世界的普及」が強調されている。二〇世紀は人権受難の世紀であった。第一次、第二次の世界大戦ばかりでなく、冷戦構造崩壊のあとも、経済摩擦・民族紛争・宗教対立などがあいつぎ、難民の続出や自然と環境の破壊も進行している。今こそ地球規模における人権への自覚と世界人権確立のための行動が要請される。 二一世紀を人権の世紀にという人類の熱望は、その内実化をみのりあるものにする努力なしに実現することはできない。人権教育は、人権に関する知識のみを習得する単なる教育でもなければ学習でもない。「人権教育のための国連一〇年」の「行動計画」は、人権教育を「知識と技術の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及および広報努力」と定義した。そして国連事務総長報告の「行動計画ガイドライン」では、「(a)知識 人権および人権擁護のためのメカニズムについての情報を提供する。(b)価値観・信念・態度 人権を大切にするような価値観・信念および態度を育てることによって、人権文化を促進する。(c)行動 人権を守り、人権の濫用を防ぐために行動することを奨励する」と明記する。 「人権という普遍的文化を構築するため」の研修、普及および広報努力だけではなく、「行動することを奨励」している点をみのがせない。そして国連の決議では、人権教育について、「単に情報提供だけにとどまらず、あらゆる発達段階の人々、あらゆる社会階層の人々が、他の人の尊厳について学び、また、その尊厳をあらゆる社会で確立するための方法及び手段を学ぶための生涯にわたる総合的な過程である」と、生涯学習としての意味づけを行っている。 一九九五年の一二月、日本の政府は内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連一〇年」推進本部を設置し、一九九七年の七月には「人権教育のための国連一〇年」に関する「国内行動計画」を発表した。1基本的考え方、2あらゆる場を通じた人権教育の推進、3重要課題への対応、4国際協力の推進を内容とするその「国内行動計画」のなかで、企業その他一般社会における人権教育策の推進、検察職員・矯正施設・更生保護関係職員等・入国管理関係職員・医療関係者・福祉関係職員・海上保安官・消防職員・警察職員・自衛官・マスメディア関係者など、人権教育推進の場を拡大し、重要課題として(1)女性、(2)子ども、(3)高齢者、(4)障害者、(5)同和問題、(6)アイヌの人々、(7)外国人、(8)HIV感染者、(9)刑を終えて出所した人々などを列挙している点もみのがせない。 一九九五年から二〇〇四年までの「人権教育のための国連一〇年」は、人権教育の重要性についての認識と理解を深め、人権教育の前進に大きな役割を果たしたが、二〇〇一年一二月の段階では、国連加盟国一九一カ国のうち、「人権教育のための国連一〇年」に連動した取組みを国連に報告した国は八六カ国にとどまり、国内でも推進本部の設置や行動計画を策定しなかった県が六県あった。 人権教育の展開と充実はなお不十分といわざるをえない。「人権教育のための国連一〇年」を総括して、その成果と課題を明確にし、「人権教育の世界プログラム」を具体化していく必要がある。そして、各地域・国家・民族にそくして、家庭・学校・職場・当該の社会のなかで人権文化をみのらせねばならない。とりわけ幼少の頃からの人権の基礎教育をなおざりにはできない。 本書はあらたな国際化・民族際化・民際化時代のなかの人権問題を、グローバルな視角から各分野にわたって論究した考察で構成している。人権とは何か、人権の確立がなぜ必要なのか、二一世紀を人権の世紀として内実化していくためには、人権受難の世紀でもあった二〇世紀の人権問題のありようをかえりみ、その課題を明らかにして、二一世紀をみきわめたい。 『ハンドブック 国際化のなかの人権問題』のなかから、現在の人権問題の未来の方向を学びとっていただけるなら幸いである。新しい人権文化の創造が、二一世紀を人権の世紀へとみちびく。