目次
はじめに 欧米先進国における優生学の普及・展開と後進国における導入
第1章 イギリスにおける優生学と精神薄弱者施策の展開
1.イギリスの優生学運動の特色
2.1918年以前の状況—特殊教育の立場を中心として
3.断種法案作成・審議過程と断種事例の是認
4.任意断種委員会と優生断種運動の特質
第2章 アメリカ合衆国における優生断種運動の開始と定着 —優生学運動の最も正統的な事例—
1.はじめに アメリカ優生学運動の位置
2.1910年代までの精神薄弱増殖防止としての断種─精神薄弱者問題の国家問題への昇格─
3.1920年代における社会適応のための断種と移民制限運動─精神薄弱問題の社会的地位の低下と新移民の排除
4.1930年代における選択断種論とその形骸化─生活維持・貧困防止の回避と近代原理—
5.第二次世界大戦後の断種論と親としての精神薄弱者の是認
第3章 ドイツにおける優生学運動
1.福祉職の職業倫理にみるドイツ優生学・優生思想の特徴—「否定的(消極的)優生学 vs 肯定的(積極的)優生学」の二項対立図式の内面化
序論:福祉国家と優生学・優生思想の相関性を考える
本論:福祉職のジェンダー化された職業倫理と優生学的言説の親和性—同時並行的に内面化されたのか
2.ドイツ優生学と障害児教育
第4章 フランス—優生学における独自の立場
1.はじめに
2.歴史的経緯—フランス19世紀末精神薄弱児教育の成立と優生思想の受け入れられ方
3.知的障害者と優生思想の現在の状況
第5章 北欧の優生学
1.国家発展の手段としての活用─北欧における優生学の展開
2.北欧にみる「福祉国家の優生思想」─サレンバ報道を契機とするスウェーデンを中心に北欧各国の動向─
第6章 社会主義と優生学
1.はじめに
2.ソビエトにおける優生学の出現・消失の過程
3.ソビエトにおける優生学と障害児教育問題
4.優生学研究者の生物学、医療—遺伝学等への転換
5.まとめ
第7章 旧植民地における優生学運動とその独自性 ─オーストラリア・南アフリカ─
1.はじめに
2.オーストラリア
3.南アフリカ
4.むすび
第8章 日本における優生学の障害者教育・福祉への影響 ─知的障害を中心に─
1.はじめに
2.愛護協会発足以前における知的障害者施設経営者への優生学の影響
3.愛護協会と久保寺保久における優生学の影響
4.日本における「精神薄弱」者の断種問題—実態解明の手がかりを求めて
5.おわりに
むすび 20世紀優生学の歴史的・現代的意義
1.断種の政治的意味と派生する諸問題
2.発展途上国における優生学の現状—スリ・ランカにおける障害者と優生学
3.小児人工内耳と優生思想
索引
執筆者略歴
前書きなど
本書では、なにゆえに民主制に立つ欧米先進国が、競うように優生学および優生学的立法化を導入したのか、欧米諸国間では優生学の導入・普及において具体的にどのような違いがあり、それはいかなる理由からであったのかについて、障害者の生存・生活・教育のあり方に対する関連を焦点として、現代的価値判断に基づく過去の裁断ではなく、多面的・多元的なアプローチから、優生学が積極的に受容された歴史的・社会的状況を再現することを目的とする。また、その地理的・文化的要素を加えた範疇化の可能性も探りたい。さらに、現代において、20世紀優生学がいかなる残滓を残しているのかについて、優生学が支配的であった先進国と発展途上国において、優生学に対する現代的な反応状況を探求することをめざす。(「はじめに」より抜粋)