目次
第1部 障害児教育史●世界編
第1章 障害児教育の黎明──近代以前の障害者と障害児の教育
第1節 はじめに
第2節 先史時代における障害者
第3節 古代ギリシャ・ローマ時代と障害者
第4節 中世・ルネッサンス・宗教改革と障害者
第5節 近世における障害者
第2章 障害児教育の本格的始動
──市民革命・産業革命期の障害児教育
第1節 はじめに──近代における障害児教育成立の諸条件
第2節 聾児の教育の拡大と公共化
第3節 盲児の教育の創始と学校教育への展開
第4節 「精神薄弱児」の実験的教育、学校としての創始、施設化への逆転
第5節 盲聾唖児・肢体不自由児・重度「精神薄弱児」の教育機会
第6節 むすび──19世紀末における公共化の分裂
第3章 公教育制度と障害児教育
──帝国主義・ファシズム期の障害児教育
第1節 帝国主義・ファシズムの時代と公教育の整備・再編
第2節 盲・聾(唖)教育の発展と軽度障害児教育の開始
第3節 「特殊教育」の成立とその論理
第4節 教育内容の独自性と特殊化
第5節 権利思想・優生思想と「精神薄弱者」処遇の変容
第4章 第二次大戦後の世界と障害児教育
──民主主義・経済成長と障害児教育の改革
第1節 はじめに
第2節 障害カテゴリー別特殊教育の発展
第3節 障害カテゴリー別特殊教育の隘路
第4節 障害のスティグマと重度児の教育不可能問題
第5節 国際連合等、国際機関における活動──権利普遍化の提起
第5章 特別ニーズ教育とインクルージョン──21世紀に向けて
第1節 新自由主義とノーマライゼーション
第2節 20世紀最後の四半世紀における障害児教育の展開
第3節 特別ニーズ教育の登場
第4節 特別ニーズ教育の現状と課題
第5節 新自由主義政策と障害児教育
第6節 おわりに──21世紀を展望して
第2部 障害児教育史●日本編
第1章 日本の障害児教育の黎明
第1節 前近代における障害児教育の取り組み
第2節 明治前期の障害児教育をめぐる二つの道
第2章 戦前における障害児教育の成立・展開と変質
第1節 明治後期〜大正前期の障害児教育──慈善主義の支配とその克服への志向
第2節 大正後期〜昭和初期──大正デモクラシーの高揚と障害児教育の発展
第3節 十五年戦争と障害児教育──昭和ファシズムと障害児教育の変容・崩壊
第3章 戦後「特殊教育」制度の整備と問題点
第1節 戦後の教育改革と障害者教育──憲法・教育基本法制の成立と特殊教育の制度化
第2節 戦後特殊教育振興策としての障害児教育の普及とその階層化
第4章 権利としての障害児教育の展開と課題
第1節 権利としての障害児教育運動と養護学校義務制の実施
第2節 「完全参加と平等」の実現と障害児教育の拡充・転換(1980年代−現在)
第3部 障害児教育史研究の到達点と課題
《地域障害児教育史》
アジアの障害児教育史(1)──南アジア(スリ・ランカを中心に)…古田弘子
アジアの障害児教育史(2)──韓国近代特殊教育史研究の概観と課題…鄭仁豪
北欧におけるインテグレーション(インクルージョン)の成立と展開…石田祥代
福祉国家と障害者教育…二文字理明
日本障害児教育史の時期区分・試論…平田勝政
《人物研究》
障害児教育史におけるJ.J.ルソーの役割…荒川智
E.セガンはどう評価されてきたのか──アメリカ合衆国…米田宏樹
《現代的問題の歴史的理解》
手話・口話論争の再評価…金澤貴之
ファシズムと障害児教育…荒川智
優生学と障害…中村満紀男
「特殊教育」はどう理解されてきたか…新井英靖
《学校的機能の変化と福祉的機能との接点》
近代社会における障害者の「自立」…佐々木順二/青柳まゆみ
学校機能の拡大とその可能性──19世紀第4四半期アメリカ合衆国における盲学校教育の発展…岡典子
障害児の施設における教育…蒲生俊宏
付録
戦後障害児教育資料
障害児教育史を主題とする公刊博士論文紹介
障害児教育史略年表
前書きなど
本書は、障害児の教育の歴史について基本的な知識を得て、今後の障害児教育を展望するための学習書である。通史は、外国編(第I部)と日本編(第II部)から構成されており、障害児教育を学ぼうとする学生が学習すべき基礎的教養である。障害児教育史をあらためて学習しようという方々にも有用と思われる。また付録の年表は障害児教育史の全体的な理解に役立つことを意図している。第III部は、日本における障害児教育史研究の到達点を整理したものであり、修士論文等を構想する際に参考になろう。内容の一つは、大半が若い研究者による意欲あふれたトピック的研究、もう一つは、公刊された博士論文の要旨を掲載した。 歴史は、元来、未来志向の分野である。historyは語源のギリシャ語で、知ること、調べることで得た知識という意味であり、学識ある賢明な人、理知と同語であるという。障害児教育史研究もまた、先人の事績をたどり、その背景を把握したうえで、現実を認識し、今後を展望することをねらいとする研究分野である。 日本の障害児教育はいま、これまでにない変化を経験しつつある。国際的にはすでに、インクルージョン、あるいはインクルーシブ教育という用語が定着しつつある。それゆえ、インクルージョンをまったく新しい社会的・教育的事象として捉えるという立場からすれば、日本もそれに一刻も早く追いつくべきだという考えに陥ることになる。 しかし、障害児教育の今後を展望するには、いまを知らなければならない。いまを把握するには、これまでの経緯を熟知する必要がある。 わたしたちは、自分たちが経験し始めたことを、自分たちが初めて経験しているように思うことが多い。しかしそれは必ずしも正確ではない。まさに知らないだけであることが多いのである。(後略)まえがき 中村満紀男