紹介
明治初期、当時一流の洋学者たちを総動員して進められた、文部省主導の大規模な翻訳プロジェクトがあった。英国の百科事典を70名以上に及ぶ翻訳者・校正者が協働して日本語訳し、最先端の西洋文明を紹介した全97編の出版事業は、近代日本の言語・文化・学問に何をもたらしたのか。事業の概観とともに、各分野の主要翻訳語に着目し、翻訳学の視点から初めて総合的にアプローチした画期作。
〈推薦〉柳父章氏
近代日本の精神にとって、「百科全書」は「黒船」であった。
──「黒船」が封建社会日本を極めて短期間に改編したように、文部省『百科全書』の翻訳は、未知なものを未知なままに受け入れて、「近代日本」の精神、文化をつくりあげていったのだ。 本書には、その次第が精細に描かれている。
〈推薦〉小森陽一氏
翻訳学の画期的業績としてだけでなく、日本近代史、明治思想史、社会文化史にも大きな学問的貢献。
目次
序 章 文部省『百科全書』への招待
一 翻訳テクストの研究
二 『百科全書』研究の意義
三 本書の構成
第一章 翻訳研究における「等価」言説──スキャンダルの罠
一 翻訳の理論と「等価」
二 欧米翻訳学事始
三 近代日本の翻訳論
四 日本の翻訳学
第二章 文部省『百科全書』という近代──ふぞろいな百科事典
一 国家的翻訳プロジェクト
二 翻訳機関の変遷
三 『百科全書』の輪郭
四 起点テクストについて
五 翻訳者と校正者の群像
第三章 「身体教育」という近代──文明化される所作
一 身体の近代
二 明治政府と「教育」
三 「身体教育」の行方
四 「体育」とは
五 国民国家の「スポーツ」
第四章 「言語」という近代──大槻文彦の翻訳行為
一 大槻文彦と「言語」
二 『言語篇』の刊行事情
三 文法をめぐる『言海』と『百科全書』
四 「言語」とは
五 ためらいがちな「言語」というもの
第五章 「宗教」という近代──靖国体制の鋳型
一 「宗教」と非「宗教」
二 翻訳語としての「宗教」
三 明治政府と「宗教」
四 『百科全書』における「宗教」
五 非「宗教」のカモフラージュ
第六章 「大英帝国」という近代──大日本帝国の事後的な語り
一 遡及することば
二 「大英帝国」とは
三 「帝国」の記憶
四 「人種」をめぐる大日本帝国
五 更新され続ける「帝国」
第七章 「骨相学」という近代──他者を視るまなざし
一 人体解剖図と翻訳
二 西洋近代の「科学」
三 「骨相学」とは
四 語るまなざし
五 疑似科学の近代
第八章 「物理」「化学」という近代──窮理と舎密からのフィクショナルな離脱
一 蘭学から英学へ
二 自然科学の翻訳
三 「物理」「化学」への跳躍
四 定義するテクスト
五 学校制度のなかの自然科学
第九章 「百科全書」という近代──制度の流通と消費
一 「百科全書」とは
二 『百科全書』の視覚制度
三 制度としての学知
四 新聞広告による流通と消費
終 章 「翻訳」という近代──訳された文部省『百科全書』
一 翻訳語の遠近法
二 増殖する名詞
三 翻訳論的転回へ
あとがき
文献一覧
事項索引
人名索引