目次
第Ⅰ部 北の大家族物語
突然の悲劇
父の生いたち
武の自立
釧路へ
武兄さん危機一髪
奈井江住友炭鉱へ
母と長女チエのがんばり
父、帰る
長女チエ物語
次女ヨシ物語
三女キヨ物語
四女シナ物語
帰る者、出ていく者
六女トシ物語
七女カツ物語
がんばる武兄さん
私にも自慢したいことが
社会人になった!
夢が叶って
緊張、緊張の病院実習
三つの中学校
退職はしたけれど
豊かな「楽しみ」を求めて
もっと満足できることは?
こんな「学校体験」も
私の今は、家族のおかげ
いま一度、母のこと、父のこと
第Ⅱ部 天童として生まれ、天童として散る―長男武物語
太平洋の神様
高山武夫さん
陸軍鬼隊長
ロシアの豪農
八年ぶりの日本
第二の故郷、奈井江という町
最後の北海道旅行
あとがき
前書きなど
あとがき
私は今、夢見心地でいます。長い間、やらなくちゃ、早く仕上げなくちゃ、と焦ってはいてもなかなか捗らない宿題をやっと完成させたような、心底ほっとした気分なのです。
英語の小説を日本語に訳すことはもう何年も勉強していますが、自分自身の文章で丸々一冊の本を書きあげるなどというのは初めての経験です。そんな大それたことをやってみようと決心したのはどうしてか。それは本文で述べましたので、ここでは割愛しますが、とにかく、ペンを握ったのは(翻訳の作業などはパソコンを使いますが、自分の思いを書くには自筆のほうが適しているように思えたので)数年前のこと。
それからはもう、書くことの大変さを思い知らされ七転八倒する毎日でした。前準備もせず、章立てや全体の構成も考えずに、ただ書き出したものですから、前日に書いたものを読み返すと、何を言いたいのか、この後どう進行させたいのかさっぱりわからない文章の羅列でがっかりするということの繰り返し。
それでも諦めず、少しずつ、考えをまとめてから書くという作業を続けました。すると不思議なことに、なんだか私の文章に変化が見えてきたのです。きりっとしてわかりやすくなったようで、しかも、一つの文を書いている間に次の文が見えるようになったのです。そうなると、嬉しくて、書き進めることが楽しい作業になってきました。
というわけで、ようやく出来上がったのがこの本です。そして、書いているうちに気づいたことですが、私がこの本で伝えたかったのは次の三つです。
一つは、大家族の良さ。両親と子供で計十五人は、今の時代では考えられない大人数家族です。今ならきっと、あちこちのテレビ局から出演依頼が続々でしょう。でも私たちは、ちっとも変わっているとは思いませんでした。あたりまえに、自然に、家族内での自分の立ち位置を納得して助け合ってきたのです。そう、大家族はある意味、世界の縮図みたいに感じます。同じ家族の兄弟でも、一人ひとり個性が違い、生き方が違います。でもその違いを認めて互いに敬意を払い、助け合えば、なんのいざこざもありません。それを、今争い合っている国の長がわかればなあ、と思います。
二つめは、長男である武兄の素晴らしい人間性。進学を断念し、十六歳で自立、十八歳で満州に渡り、普通の人間には処しきれなかっただろう過酷な運命を、見事に前向きに捉えて愉しみ、帰国後も新しい職場となった炭鉱でみんなから慕われ、頼りにされて、心豊かな一生を終えた兄を、私は心から尊敬しています。この本を『天童として生まれ、天童として散る』と題したのは兄に捧げるためでした。
三つ目は、ポジティブな生き方のすすめ。これは、両親や兄、姉たちから自然に学んだものかもしれません。父の商売の倒産以降、我が家はいろいろな苦難を経験しますが、その度に知恵をしぼり、状況が好転するよう協力し合い、支え合ってきました。苦境は、嘆いても不満を言っても解決しない、前向きに捉えて愉しんでこそ好転するようです。このことは、特に今の若い人たちにわかっていただきたいですね。
最後になりましたが、この本を書くきっかけを与えてくださった柏艪舎代表の山本光伸さんに心からの謝辞を捧げます。
平成三十年五月吉日
山崎ミナ