紹介
『火垂るの墓』『風立ちぬ』『紅の豚』など、スタジオジブリ制作のアニメ作品を手掛かりに、昭和史、特に前半の戦争の時代についてやさしくかつ深く学ぶ。さらに、戦後の1950年代後半から60年代を通じて起った高度経済成長についてもふれる。
なぜあのような戦争は起こったのか。
関東大震災、昭和初期、そして敗戦の年である昭和20年まではどういった時代だったのか、ジブリ映画を戦争を学ぶ手がかりとして利用しながら、実際の歴史史料を通していまの問題と関連付け考える。決して過去ではない教訓の引き出しが増えることは間違いないだろう。おすすめブックガイドと年表つき。卒業論文のヒントも。
「戦争がなぜ起こりその結果どうなったかを学ぶことです。あわせて「社会主義」や「国体」などの高校の日本史ではほとんど習わない、しかし日本近代史を理解するうえできわめて重要な概念についても、解説していきたいと思います」
関東大震災、貧困、社会主義、ゾルゲ事件、大衆の出現、昭和恐慌、満洲事変、日中戦争、日米戦争、航空機、敗戦、戦争孤児、食にみる高度成長、朝鮮戦争など15の講義を通して、昭和史に鋭く切り込む。
目次
第一講 お話ししたいこと
「昭和」とはどんな時代か
ではなぜあえて歴史の学習にアニメ作品をとりあげるのか/大学の授業とジブリ作品/明治から昭和へ、という近代史の流れをどう理解するか/『風立ちぬ』とはどのような物語か /講義を聴くにあたって
第二講 大衆社会の出現---関東大震災(『風立ちぬ』①)
堀越二郎とはどんな人物か/なぜ悪魔メフィストは二郎に飛行機を造れといったのか/なぜ震災の場面で群衆のうごめきは事細かに描かれたのか/関東大震災の衝撃と「大衆」の出現/「大衆」に注目した人びとその1 社会主義者/「大衆」に注目した人びとその2 官僚/震災の結果のひとつが、ある種の「ニヒリズム」だった/まとめ
第三講 飛行機と戦争----三菱はなぜ二郎を傭い飛行機を造るのか(『風立ちぬ』②)
科学技術の時代/なぜ民間会社が軍用機を造っているのか/どこの国と戦争するのか/当時の不景気はなぜ起こり、どの程度深刻だったのか/高学歴者も就職難/堀越二郎の同期生たちの就職/三菱内燃機の経営状態/戦闘機と牛車/まとめ
第四講 貧困と戦争---シベリアと満洲事変(『風立ちぬ』③)
なぜ女の子はシベリアを拒絶したか/人びとの生活に介入する国家/日本の軍や国民は貧しさからどう脱出しようとしたのか/飛行機がなかったら日本人は窒息する?/平和的に中国と貿易しようという考え方はなかったのか?/満州事変で景気はよくなったのか/まとめ
第五講 飛行機と戦艦の主役交代---二郎のドイツ行きをめぐって(『風立ちぬ』④)
なぜ日本はドイツから巨大爆撃機を買うのか/1930年代の戦争と飛行機/なぜドイツ人は二郎たちに冷たいのか
/日本海軍が航空母艦と飛行機を必要とした理由/飛行機と戦艦の地位逆転/二郎はなぜ強力な戦闘機を造る使命を帯びたのか/まとめ
第六講 社会主義---ゾルゲ事件とその背景(『風立ちぬ』⑤)
なぜ軽井沢に立派なホテルがあるのか/カストルプの忘れたい「イヤナコト」とは何か/カストルプとは何者なのか/ソ連(ソビエト社会主義共和国)とは何か/マルクス主義とは/治安維持法と国体とは/ゾルゲの協力者・尾崎秀実/ゾルゲと尾崎はなぜソ連のスパイになったのか/まとめ
第七講 病と結婚---二郎の結婚はなぜさびしいか(『風立ちぬ』⑥)
戦前の日本はなぜ結核が多かったのか/富士見療養所とはどんなところか/結核から近代日本の何がわかるか/二郎と菜穂子の挙げた結婚式ではなぜ提灯が掲げられたのか/二人の結婚がさびしいのはなぜか/当時の女性が、結婚と国家を道徳的に結び付けて考えていた具体例/なぜ恋愛結婚は嫌われていたのか/喫煙する二郎をみるとなぜ不快に感じるのか/まとめ
第八講 日中戦争---九六陸攻と重慶爆撃(『風立ちぬ』⑦)
九六式陸上攻撃機とは何のために造られたのか/九六式陸攻墜落シーンの意味/そもそも日中戦争はなぜ起こったのか/なぜ日中戦争は長期化したのか/陸攻隊の重慶爆撃/もうひとつの九六式陸攻の使われ方/「ニッポン・イデオロギー」/まとめ
第九講 日米戦争---零戦が対米戦争で果たした役割(『風立ちぬ』⑧)
現実の堀越二郎はただ「美しい飛行機」を造ればよかったのか/防弾タンク/なぜ日本は零戦を繰り出してアメリカと戦争を始めたのか/零戦の戦いは戦争にどう影響したのか/沖縄戦における特攻攻撃の目的/なぜ結末で悪魔は二郎の魂を奪わないのか/まとめ
第一〇講 日本とイタリア、そしてアメリカ---恐慌のなかで(『紅の豚』)
ポルコはなぜ自国の政府から追われているのか/ポルコはなぜ「怠惰な豚でいる」罪に問われているのか/カーチスのキャラクターがあらわすもの/カーチスは「キレイゴト大好きなアメリカ」像のなぞり?/反米強硬論のゆくえ/まとめ
第一一講 空襲---神戸はなぜ炎上したのか(『火垂るの墓』①)
第二次大戦における戦略爆撃/火炎戦争の残虐性/日本空襲に使われたB-29爆撃機とはどんな飛行機か/なぜ神戸は空襲されているのか/米軍側に良心のとがめはなかったのか/まとめ
第一二講 飢え---戦争末期の国民生活(『火垂るの墓』②)
なぜ一九四五(昭和二〇)年の日本には食べ物がないのか/清太の一家に特別な食べ物配給はあったのか/なぜおばさんや清太は食べ物に困り、母の形見の着物と米を交換しているのか/おばさんの人物造形について/清太はなぜボコボコに殴られたのか/戦後社会に戦争が刻んだもの/まとめ
第一三講 敗戦---人びとはなにを思ったのか(『火垂るの墓』③)
おっさんはなぜ降伏を悔しがらないのか?/降伏のラジオ放送を聞き、人は何を思ったのか/「国体護持」とは、何をどうすることか/人びとは、気持ちを切り替えて生きようとした/なぜ瀕死の清太は「恥やで」といわれたのか/まとめ
第一四講 戦災孤児----皆どこへ行ったのか(『火垂るの墓』④)
ただ死を待つばかりの「浮浪児」たち/戦争で親を失った子どもは、敗戦後になぜ「浮浪児」と呼ばれたのか/戦争に負けたあと、戦災孤児は全国でどれくらいいたのか/孤児に対する手のひら返し/「浮浪児」たちはどのように扱われたのか/『浮浪児の智能検査報告』/その後の戦争孤児たち/まとめ
第一五講 高度成長---まとめにかえて(『となりのトトロ』・『コクリコ坂から』・『平成狸合戦ぽんぽこ』)
<歴史を学ぶことの意義>とは何か/『となりのトトロ』『コクリコ坂から』のお弁当にみる戦後の高度成長/なぜ肉と卵は普及したのか/『コクリコ坂から』の描く朝鮮戦争/かつての朝鮮戦争への協力をどう考えるか/多摩ニュータウンと狸
参考文献一覧
年表