紹介
小町が、その死後人々の心の中にどのように生き続け、どう変容していったのか。また、変容しながらその底に変らずに生き続けてゆく、小町的なもの、とはいったい何か。小町の虚像と実像にはじめて架け橋をかけた、名著の復刊です。
解説◉「小町的なもの」―目に見えぬものを見よ・錦 仁[新潟大学名誉教授]。
【…平安時代、しかも小町の死後百年ほどの間に、小町は既に伝説化されつつあったことになる。そしてそれは、あの「花の色はうつりにけりな……」とか「わびぬれば身を浮草の根を絶えて……」などの小町真作の歌から発し、その残り香や体温をそのままに保持している詠草の編纂・増補という形で形成されていったのである。そして、それはそれぞれの歌を小町真作と信じ、それぞれの事件を小町の事蹟として見る態度から、形づくられていったのである。小町作にあらざることが実証され得る歌でも、小町作と信じられて伝承されて来たのである。客観的には虚像であっても、伝承する人、享受する人にはまさしく実像以外の何物でもない。虚は実であり、実は虚であるゆえに、伝承されたのであり、またそれゆえに、あの小野小町は、今も我々の胸の中に生き続けているのである。小野小町追跡の終着点は、どうやら民族の心の中にあったようである。】…Ⅲ 「小町集」と小町説話、より。
目次
1 小野小町の周辺
一 誰でも知っている小町
二 業平は小町の恋人であったか
三 小町の青春と仁明朝文化サロン
四 小野小町は仁明天皇の更衣か
五 小町の父小野良実は架空の人物
六 小野小町と陸奥
七 「玉造小町子衰壮記」を読む
八 玉造小町と小野小町
九 小町数人説をめぐって
2 「小町集」の生成
一 平安時代の小町説話を求めて
二 小町の雨乞い説話
三 流布本「小町集」の形態
四 小町の夢の歌―流布本「小町集」の形成(一)―
五 「あま」と「みるめ」―流布本「小町集」の形成(一)―
六 「小町集」における小大君の歌
七 「あなめあなめ」の歌―異本「小町集」の付加部分―
八 「小町集」の成立は十世紀末か
3 「小町集」と小町説話
一 小町説話と謡曲
二 小町と深草少将の遺跡
三 こばむ小町―謡曲「通小町」の淵源―
四 不信―平安女性の恋歌の形―
五 「伊勢物語」の小町―好色説話の形成―
六 「うつろひ」の嘆き
七 秋のけしき―荒寥たる孤愁―
八 うき身は今や物忘れして
九 出離と「ほだし」
一〇 花の色はうつりにけりな―小町説話の原点―
一一 むすびに代えて
付録 「小野小町集」二種
凡例
一 流布本系「小町集」
二 異本系「小町集」
解説◉「小町的なもの」―目に見えぬものを見よ・錦 仁[新潟大学名誉教授]
小町関係歌初句索引