紹介
源氏以前と以後、〈読み〉の実践。
自分は何処にいるのか。どんな仕組みが私たちを生かしているのか。それは実社会を計るより、〈物語〉の世界にスライドして考えた方が分かりやすい。本書はテキストの〈読み〉から、生きることの様々な仕組みを見据えその様相を遠望する。
作品形成の磁場からは、どのよう〈想い〉が汲み取られて〈物語文学〉が立ち上がるのだろうか。〈物語〉は、どのような時代・状況のなかで、どんな情念がそれを書かせたのか。書かれたテキストに徹底的に寄り添い、〈物語〉の実相を「組成」という概念のもと、炙り出していく。
物語文学組成論、第二巻目は「源氏以前と以後」を中心に論じる。
【今更ながら想うのは、『源氏物語』として纏めたものと、これらの相関である。古代とは、心の中に秘められた極めて〈生〉なものとしてあるのだという認識。「闇」を消した現代が、その「闇」を「光」のイミテーションの中に韜晦させられた。贅言は不要であろう。言葉にすると、何故か薄っぺらになってしまう。だが、韜晦させられた「闇」に「光」を当てて、「生きる」あるいは「生かされてある」意味を、〈読み〉によって見えるようにしてみたい、そんな欲望の所産として、あるいは本書があるとだけ言っておきたい。】……あとがきより
目次
始めに/凡例
第一章 話型論
一 物語文学の話型
二 貴種流離譚の基本構造
—〈話型〉と〈物語〉への視座
三 継子虐め譚の構造
第二章 『源氏物語』以前
四 『古事記』—倭建命の形成をめぐって
五 物語文学のカタリの構造—『竹取物語』の古層へ
六 『伊勢物語』色好み女章段—小野小町イメージ
七 『大和物語』亭子院関連章段攷
—幻想譚としての〈王権物語〉のゆくえ
八 『平中物語』 —『伊勢物語』との位相
九 『古今和歌集』の歌人—「大伴黒主」粗描
一〇 雅正「花鳥」歌の消長—『貫之集』と歌語
一一 『枕草子』「積善寺供養」(二六二)章段解読
第三章 『堤中納言物語』
一二 「はなだの女御」と『伊勢物語』初段
—短篇物語論への一視点として
一三 短篇物語の時間・序説—「このついで」をめぐって
一四 〈聴き手〉と〈語り〉
—「このついで」から
一五 「虫めづる姫君」序説
一六 引用構造の自己同一性
—「虫めづる姫君」論ふたたび
一七 引用のモザイクからの挑戦
—「花桜折る少将」と王権物語
一八 〈問い〉と〈答え〉・歌物語の構造
—「掃墨物語」をめぐって
第四章 平安後期の世界
一九 『狭衣物語』主題攷—月と心深しの構図
二〇 『大鏡』序説
二一 『大鏡』の空間
二二 『今鏡』にみる信仰の諸相
第五章 鎌倉以降・中世物語とその周辺
二三 中世王朝物語の世界—物語の変容
二四 『松陰中納言物語』の世界
二五 『秋の夜の長物語』
二六 『うたたねの草紙』論—中世物語から物語論ヘ
二七 『赤松五郎物語』—その夢の位置
二八 女の語りの一側面—説経『まつら長者』を軸に
第六章 近代を読む
二九 時空のたゆたい—森鴎外『うたかたの記』論
第七章 架け橋として
三〇 状況を見る
三一 物研二五年の成果と今後の展望
初出一覧/あとがき/索引